04 倒れていたのは、間違いなく***だった。 血だらけで、仰向けに倒れている。 「……なんで、そんな顔してやがる」 その表情を見て、焦燥感に駆られた。 ほんの微かに上がった口角。 それは、生にしがみつく最後の顔とは程遠かった。 まるで、全てを放棄しているかのような。 もう、生への執着がないような表情。 「ふざけんじゃねぇ……」 名前を呼ぶが、答えは返ってこない。 呼吸はしている。 だが意識はない。 この顔、もう死ぬ気でいるとしか思えなかった。 こいつは何考えてやがる。 生きることを諦めていたら、本当に戻ってこれないぞ──! 何回か声をかけるが、それでも返事はなかった。 生々しい傷や血を除けば、ただ寝てるだけにしか見えなかった。 その姿に、焦りと似た苛立ちがこみ上げてくる。 「おい、聞こえてんなら起きろ!」 感情に任せて怒鳴れば、***の瞼がピクリと動いた。 ゆっくりと、少しずつその目が開かれる。 「……、……ぇ」 しばらく状況を把握するかのような間の後、***はか細い、ほとんど声になっていないような声を出した。 意識が戻ったことに安堵する。 こちらを確認するかのようにジッと見つめる***に、なんとなく心中を察しられたくなく、隠すように舌打ちした。 「こんな所で寝てんじゃねぇ」 ***は意識がまだぼんやりしてるのか、状況を把握できていないようだった。 「おい、俺が分かるか?」 「……ぅ」 「撤退だ。傷は我慢しろ」 馬を呼び戻し、***を持ち上げる。 馬に乗り煙弾を上げれば、部下からのものと思われる返答が遠くで上がった。 今からならまだ間に合うはずだ。 途中、***は何かを言いたげに口を開いたが、言葉にならないうめき声が零れた。 「無理して喋るな。話なら着いたら聞いてやる」 だから死ぬんじゃねぇぞ、と付けたし、馬を煙弾が上がった方へと走らせた。 まさか俺を忘れるなんて、この時は思いもしなかった。 *backnext# [戻る] |