07
「日奈ちょっと良い?」
佐奈に話しかけられた日奈は嬉しそうな顔をした。
何故ならば、日奈から話し掛けた場合の殆どはぶっきらぼうに返事をされるからだ。
そのため、佐奈から話し掛けられることが特別に嬉しかった。
「虎のパーティーだけど今年も行くの?」
「うん…ちょっとだけ…。」
「ん。それなら着る服ぐらいちゃんとしてよ?それとも私のやつなんか貸そうか。」
「ううん、大丈夫…ありがとう。」
佐奈の何気ない言葉が日奈の心に響く。
泣きそうになるくらい幸せだった。
「あっそ。じゃあ他人のフリしてね。」
フフ、と可笑しそうに笑って佐奈は去っていった。
本気で言った訳ではなく、あくまでも冗談の域で…。
それを分かっている日奈は可笑しそうに笑い、今の幸せを目一杯噛みしめた。
「随分ご立派になられて。悠君も虎君も昔はこんなに小さかったのに。」
虎は18、兄の悠が22歳となったこの日、例年通り紅林主催のパーティーが一流のホテルの一室で行われていた。
父と悠、彼らの後ろに隠れるように立ち、虎は愛想笑いだけを浮かべていた。
「いやいやぁ〜。まだまだ二人とも子供ですよ。なぁ?」
「はい…僕も虎もまだまだ勉強中の身ですので。」
受け答えをするのは相変わらず兄である悠の仕事だった。
人前で虎は話さない。
内心イライラしながら誕生日を迎えるのにはもう慣れてしまって、後少し後少しと精一杯笑顔を絶やした。
「いやぁ、悠君は大学に通いながら既に仕事をしているそうで…将来が楽しみですな。」
「そんな…恥ずかしいですね…。本当、まだバイト感覚なんですよ。」
悠は困ったように微笑んだ。
悠が父の仕事を手伝うようになって既に二年は経つ。
とは言え、大体は雑用や会議の付き添いなどで仕事という仕事は無かった。
それでもいずれは会社を引き継ぐ身として、社会勉強も兼ねた重要な時間の使い方だった。
「バイト感覚でも凄いじゃないか。私も悠君のような子供が欲しかったなぁ。」
「きっと今からでも遅くないですよ。」
「まさか。私はもうずっと独り身で居るよ。頭もすっかり寂しくなったからね。」
その人は薄い頭を撫でながら自虐的にアハハと笑い声を上げた。
「…るさ。」
一方で、こちらも例年通り蚊帳の外となっている虎。
悠のように会社に行った事もなければコミュニケーションも比較的苦手な虎は、立場のなさに居心地が悪くなっていた。
いつまで経っても終わりそうにない会話に、いい加減愛想笑いの限界がきている。
笑いながらも口からは小さな文句が漏れてしまった。
「虎〜!誕生日おめでとうございます!」
「佐奈…。」
声がした方を振り向けば、佐奈が父の忠志と共にこちらへ歩いてきていた。
虎はホッとして佐奈を見る。
淡い水色のワンピースがとても良く似合っていた。
「さんきゅ。メールもありがとな。」
「うん…大丈夫?」
「おう。佐奈の顔見たら安心した。」
「なにそれ。」
佐奈の笑顔を見て虎の顔が綻ぶ。
ようやく心から本当の笑顔が浮かんだ。
あまりパーティーの場を好んでいない事を知っている佐奈が近くに居るだけで安心出来るし、何よりも、最近は特に佐奈との距離が近付いたようで、余計に虎は佐奈の存在に救われていた。
「佐奈ちゃん久し振りだね。また綺麗になって…虎は良いお嫁さんをもらったな。」
「おじ様…!気が早いですよ!」
「またまた、最近は特に虎君が家に来るじゃないか。虎君なら何時でも歓迎するよ?」
「もお…パパまで…。」
佐奈は照れて困ったような顔をした。
人前でこう言われるのは照れくさい。
周りの大人達はそんな佐奈を微笑ましく見ていた。
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