05
佐奈はお菓子と飲み物を持って部屋へ戻った。
扉は開けっ放しにしていた為、すんなりと入れた。
「ちょっと遅かったな。」
「日奈と話してたの。」
「ふーん…。」
虎はお盆を受け取りながら疑問に思った。
佐奈はたまに日奈の悪口を言う事がある。
本来ならばただの姉妹喧嘩だと済ませられるが、あの日奈が喧嘩を引き起こすとは思えない。
いつも虎は何故ここまで佐奈が怒るのか理解できなかったが、悪口を言う以外の殆どは比較的普通の姉妹関係のようで、わざわざ話題には出ないものの普通に話はするようだった。
「どんな話?」
「普通。」
「普通って?」
「えー?普通だよ。話すほどの事じゃないしー。」
虎はそれもそうかと納得した。
虎自身昔は兄の悠と喧嘩する事がよくあった。
今は互いに落ち着いてしまったが、よく喧嘩をしていた頃は佐奈と同じような感じだった。
憎い時は憎いし、何でもない時は何でもない。
深く考える必要もないくらいこれが普通の姉妹の形だった。
「でも何だかんだで落ち着いて良かったよな。」
「いきなり何?」
「え?だってようやく佐奈が俺のもんになったし…スゲェ幸せ。」
「…うん。」
本当に幸せそうに笑う虎を見て佐奈は照れたように俯いた。
改めて言われるのは恥ずかしいものがある。
そんな佐奈を見て虎は満足そうに笑った。
「大切にするから。」
「うん…。」
虎の大きな手が佐奈の小さい手を握り締めた。
佐奈の全てを包み込むような虎の暖かさに涙が滲む。
この瞬間が一生続けば良いと思った。
夜も更けた頃、日奈の部屋にノックの音が響いた。
本を読んでいた日奈は顔を上げて扉を見る。
「来て。」
顔を覗かせた佐奈が不機嫌そうにそう言った。
この様子にこの台詞…用件が一目で分かった日奈は急いで立ち上がった。
「遙斗さんいい加減にウザくない?」
「…そうかな?」
「顔も見たくない。ウザい。」
嫌悪感たっぷりに言う佐奈を見て、日奈は少し俯いた。
「佐奈ちゃん…何かされたの…?」
「何も。存在が嫌いなだけ。」
「そう…、佐奈ちゃんが嫌いなら、私も嫌い。」
日奈の返答に気を良くした佐奈は可笑しそうに笑った。
同調してもらえるのは気分が良い。
そんな話をしながら二人は夏目遙斗の元へ向かった。
「遙斗さんただいま。」
「お帰りなさい。日奈ちゃんも久しぶり。元気そうで何よりだよ。」
ニコリと笑顔を浮かべる佐奈に夏目もニコリと笑顔を返した。
しかし夏目の視線は日奈ばかりへ向かう。
嫌々作った笑顔を無駄にされた気がして、佐奈は八つ当たりに日奈の足を痛くない程度にちょこんと蹴った。
「二人共座ってよ。お土産にケーキを買ってきたから一緒に食べよう。」
「わぁ…美味しそ〜。ありがとうございます。」
「ありがとうございます…。」
日奈と佐奈は夏目の目の前に着席した。
父の忠志は仕事の都合で今日は居ない。
来るなら来るで前もって連絡を入れて欲しいと佐奈は内心悪態を吐いた。
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