03

「真野さんと芳野さんはこの後残るように。以上。」


ホームルームも終盤といった所で、担任は日奈と謙二郎の名を口にした。

何も考えていなかった謙二郎はハッしてまさかと思う。

よりにもよって日奈と一緒に呼び出しを食らうなど有り得ない、そう思い、隠れて苦笑いを浮かべた。


「お前何したんだよ。」

「ハハ〜、何もしてないし〜。」


友人のからかう声を適当にあしらう。

号令が終わると速攻で担任の元へ向かった。


「先生ー。なんですか…?」

「進路のことですよ。今から芳野さんと進路相談室まで来て下さい。私は少し遅れますので…。」

「はい。」


担任は足早に教室を出て行った。

振り向けば、行動の遅い日奈がノロノロとこちらへ歩いてきていた。

長い髪を揺らして歩く姿はホラー映画から出てきたお化けのようだ。


「あの…。」

「進路相談室だって。」

「はい…ありがとう。」


謙二郎は視線を逸らすと歩き出した。

教室を出て立ち止まる。

予定では十数秒ほど立ち止まるはずだったが、何故だか中々出てこない日奈の所為で一分間は足止めをくらった。


「遅い。」

「あっ…、」


ようやく出てきた日奈が驚いたように謙二郎を見る。

待っているとは思わなかったらしい。


「先に行ってても良かったんだよ…?」

「ホント…先に行けば良かった〜。」

「ごめんね…。」


謝る日奈を横目に歩き出すが、日奈が付いてきている気配がない事に気が付いて振り向いた。


「行かないの?」

「後で…行く。」


謙二郎は苛々した。

謎の距離感が気に食わない。

日奈に近付くと少し強引に腕を掴んだ。


「一緒に行けば良いだろ?」


謙二郎が無理矢理歩かせた事で、ようやく日奈が隣に落ち着いた。

ここまで気を使ったというのに、最後まで拒否する日奈が気に食わなかった。


「でも…私の隣、嫌じゃない?」


日奈が小さく聞いてきた。

その声に察する。

日奈は謙二郎の隣を歩きたくない訳ではなく、謙二郎の気持ちを考えて、逆に気を使っていたのだ。


「まぁ、芳野さんの隣歩くと注目の的って感じだし?逆にラッキーかも。」

「……そっか。」


謙二郎が日奈と話すのはあの日以来。

再び同じクラスになったものの、特に関わりを持つ機会もなく過ごしてきた。

それは謙二郎が内心日奈を気持ち悪いと思っているのが原因だった。

佐奈に謝罪をするように責めてくる日奈の雰囲気はどこか異様に見えて、本能的に関わってはいけないと警報が鳴っていた。

だが今思えば妹を思ってのことだろうし、そもそも自分のした事を考えれば当然の報いだろう。

未だ佐奈に謝っていない事も含めて、謙二郎がここまで気を使っているのにはそんな訳があった。


「俺あんまり気にしないから…芳野さんも気にしないで。」

「うん…ありがとう。優しいね。」

「そうかな?」

「うん…。」


謙二郎は思わず拍子抜けする。

先程から警戒心を持って接しているが、どこか空気が穏やかに思えた。

もう随分前の出来事だし、日奈は気にしていないのかもしれない。

謙二郎の頭には時効という言葉が浮かんだ。


「まだこんな所に居たんですか?教室に入って良いですよ。」

「あ、すいません。」


進路相談室に着いた瞬間、二人は担任と鉢合わせた。

可笑しそうに笑ってドアを開ける担任に続き、二人は教室へ入った。


「では…見当は付いていると思いますが、進路のことです。」

「はい…。」


重厚感のあるソファに日奈と謙二郎が並ぶ。

担任は二人の目の前に二枚の進路調査表を出した。


「この学校内で就職希望者はあなた達だけです。」

「マジですか。」


謙二郎は驚いた。

この学校が進学校と呼ばれる程だとは理解していたが、まさか自分達以外の全員が進学するとは思ってもいなかった。


「まさかウチのクラスから二人も…私も吃驚しました。」

「すいません…。」

「また面談や個人でも話す事になりますので、この事はゆっくり相談していきましょう。話はいつでも聞きますし、私以外でも良いですから…色々な可能性を探っていきましょう。」


今日はここまでと担任は切り上げ三人は教室を出る。

また呼び出す事があるかもしれないと言う言葉を最後に担任と別れた。


「帰るか。」

「うん…。」


これからの事を考え、どこかゲッソリしながら謙二郎は歩く。

しかし下駄箱付近に居る人を確認した瞬間、謙二郎の憂鬱は一気に吹き飛んでしまった。




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