10
(side:吉沢)
新学期が始まって約1ヶ月。
卒業が迫ってきて、ようやく平村が学校に来た。
髪の毛は真っ黒に染まり、さっぱりとした髪型に変わっていた。
「平村久しぶりだなー!大丈夫なのか?」
「もうだいじょーぶ。コニタンは相変わらず元気だねー?」
外見以外は何ら変わらない様子の平村に少しホッとする。
平村はクラスメートと話しながらこっちへ来た。
「おはよー。」
「おう…。」
目だけ合わせずに笑って言われた。
そのまま目の前に着席する。
話すのはあの時以来で緊張した。
「平村…」
「何?」
話し掛けると顔を横にして答えられる。
やっぱり目は合わせくれなかった。
「大丈夫か?」
「それを君が聞いちゃうんだ。」
「……。」
平村は馬鹿にするように鼻で笑った。
俺はこんな平村を見た事がなくて驚く。
誰か別人と話しているのではないかと、大袈裟にも感じた。
「あ、手島〜!」
俺が返答に困っていると、席を立ち上がって手島の席へ行った。
二人の様子を遠目に伺えば、何だかんだでいつも通りに笑ってる。
自分に対してだけ変わった態度に、あの日の出来事が現実だと突き付けられた。
何故こうなったんだろう。
漠然と思う。
友人は俺にずっと恋をしていて、そして居なくなった。
想い人は俺よりも友人をとって俺を拒んだ。
親友はそんな俺よりも友人を慰める事ばかり考えている。
俺には何もないじゃないか。
友人も親友も想い人も居ないなんて…俺の気持ちはどうなる?
皆俺の存在を責めるように居なくなって、俺の気持ちは誰も受け止めてくれない。
教室がこんなに息苦しい場所だとは思わなかった。
俺の気持ちだけが宙に浮いて、ただ耐える事しか出来ない。
こんなにも孤独を感じたのは生まれて初めてだった。
その日の夜、部屋に手島が訪ねてきた。
「これからどうするよ?とりあえず平村は来たけど…俺ら三人で居ないと不味いよな。」
「別に…手島の好きにすれば。」
「何拗ねてんだよ、モテ男が。」
「拗ねてねぇ。」
手島が気を使ってくれているのが伝わる。
昔からそうだ。
空気が読めて余裕があって…俺にはないものを沢山持っている。
「卒業間近なのにこれはねぇだろ。」
「俺に言うなよ…平村の気持ちの問題だろ?」
「じゃあ聞くけどよ、もし平村が明日普通に話しかけてきたら笑えるか?」
「…まぁ、」
今日の様子を見る限り有り得ないと思うけどな。
きっと顔を見るのも嫌に違いない。
「アイツ天然だし明日はきっとうるせーだろうな。そん時は笑って頭叩いてやれよ。」
手島は笑ってそう言うと帰っていった。
まさかそんな事はないだろうと思う。
けど、手島が言うなら何かが変わるかもしれないと、俺は明日と言う日に少しだけ希望を持った。
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