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(side:吉沢)

新学期が始まって約1ヶ月。

卒業が迫ってきて、ようやく平村が学校に来た。

髪の毛は真っ黒に染まり、さっぱりとした髪型に変わっていた。


「平村久しぶりだなー!大丈夫なのか?」

「もうだいじょーぶ。コニタンは相変わらず元気だねー?」


外見以外は何ら変わらない様子の平村に少しホッとする。

平村はクラスメートと話しながらこっちへ来た。


「おはよー。」

「おう…。」


目だけ合わせずに笑って言われた。

そのまま目の前に着席する。

話すのはあの時以来で緊張した。


「平村…」

「何?」


話し掛けると顔を横にして答えられる。

やっぱり目は合わせくれなかった。


「大丈夫か?」

「それを君が聞いちゃうんだ。」

「……。」


平村は馬鹿にするように鼻で笑った。

俺はこんな平村を見た事がなくて驚く。

誰か別人と話しているのではないかと、大袈裟にも感じた。


「あ、手島〜!」


俺が返答に困っていると、席を立ち上がって手島の席へ行った。

二人の様子を遠目に伺えば、何だかんだでいつも通りに笑ってる。

自分に対してだけ変わった態度に、あの日の出来事が現実だと突き付けられた。

何故こうなったんだろう。

漠然と思う。

友人は俺にずっと恋をしていて、そして居なくなった。

想い人は俺よりも友人をとって俺を拒んだ。

親友はそんな俺よりも友人を慰める事ばかり考えている。

俺には何もないじゃないか。

友人も親友も想い人も居ないなんて…俺の気持ちはどうなる?

皆俺の存在を責めるように居なくなって、俺の気持ちは誰も受け止めてくれない。

教室がこんなに息苦しい場所だとは思わなかった。

俺の気持ちだけが宙に浮いて、ただ耐える事しか出来ない。

こんなにも孤独を感じたのは生まれて初めてだった。






その日の夜、部屋に手島が訪ねてきた。


「これからどうするよ?とりあえず平村は来たけど…俺ら三人で居ないと不味いよな。」

「別に…手島の好きにすれば。」

「何拗ねてんだよ、モテ男が。」

「拗ねてねぇ。」


手島が気を使ってくれているのが伝わる。

昔からそうだ。

空気が読めて余裕があって…俺にはないものを沢山持っている。


「卒業間近なのにこれはねぇだろ。」

「俺に言うなよ…平村の気持ちの問題だろ?」

「じゃあ聞くけどよ、もし平村が明日普通に話しかけてきたら笑えるか?」

「…まぁ、」


今日の様子を見る限り有り得ないと思うけどな。

きっと顔を見るのも嫌に違いない。


「アイツ天然だし明日はきっとうるせーだろうな。そん時は笑って頭叩いてやれよ。」


手島は笑ってそう言うと帰っていった。

まさかそんな事はないだろうと思う。

けど、手島が言うなら何かが変わるかもしれないと、俺は明日と言う日に少しだけ希望を持った。




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