09
平村君の言う通りだ。
僕は逃げてばかりで結局何も出来ない。
でもどうしたら良いかのか分からないのも本当で、全てを忘れたようにやり過ごすしか最善の策が見つからなかった。
「確かに、こんな事で揉めるなんてしょうもないよな。」
「……。」
「とりあえず俺が言いたいのはさ、金井君が悪い訳じゃないから。俺が言うのもなんだけど…誰も悪くないから、自分を責める事だけは辞めて欲しい。それだけは言いたかった。」
綺麗事が嫌いだと何度も言った平村君がそう言った。
それが平村君なりの優しさに思えて、少し救われた気持ちになる。
ただ、同時に僕には何も出来ないんだと気が付いて、泣きそうになった。
「ありがとう…。」
僕にはこれくらいしか言える事がない。
今度こそ部屋を出ようと歩き出して、再び名前を呼ばれた。
「もう好きにしなよ!ほんっとにムカつく!俺なんて蹴落として幸せになれよ馬鹿やろう!」
「っ…」
一瞬の衝撃に驚いて少し振り向くとクッションが落ちていた。
投げられたのだと理解する。
「うん…ありがと。」
小さく呟いて部屋を出る。
不器用だけど平村君はやっぱり優しかった。
怖いくらい素直で、その真っ直ぐな性格に戸惑う事も多かった。
でもそんな平村君が幸せになれって言うんだ。
僕には何も出来ないし、言葉にする事さえ許されないけど…平村君には幸せになって欲しい。
心からそう思った。
少しホッとしたような気分でトボトボと歩いていると、前方から吉沢君が歩いてきた。
何故だろう。
たった一瞬で吉沢君だと分かる。
その無意識の反応が今は嫌で心臓がドキドキした。
あっという間にすれ違う。
彼は僕を見ない。
見ないように意識しているのがよく分かる。
僕は俯いて歩いた。
生きた心地がしないなんて、早く視界から消えて欲しいなんて…僕ははじめて思った。
「平村元気そうだな。」
「そうだね…。」
次の日、平村君が学校に来た。
髪の毛が黒く短くなっていて、みんな口々にその変化に反応した。
不意に失恋したら髪を切る…と言う言葉を思い浮かべる。
益々罪悪感が湧いて、平村君を見ていられなくなった。
「黒似合ってんなー。流石イケメン。」
「そうだね。」
「話し掛けるか?」
「ううん…僕は良いや。」
平村君達の居る方を見ようとしない僕に、北原君は辛そうな顔をした。
ごめんね…。
そんな顔させたくないのに…。
「何かあったとしても俺は友達だからな。」
「……。」
「誰とでも気が合う訳でもないし…俺は俺、金井は金井だろ?だからいつもの天使スマイルで笑っとけ。」
「ふっ…僕は天使なんてそんなに良いものでもないよ。それに実は悪魔かもね?」
「なにそれ良いじゃん!金井みたいな悪魔が居たら、それはそれで格好良さそう。」
僕はつい笑ってしまった。
そして一生懸命に元気づけてくれる北原君が嬉しかった。
きっと気付いていると思う。
僕と平村君達が何かあった事を。
だけど何も聞かずに、ただ友達だと言ってくれる北原君に救われた気がした。
「いつか話すよ…。」
「ん?」
「今はまだ気持ちの整理がついてないんだ。最近色々ありすぎて…。だから何時になるかは分かんないけど、北原君に聞いて欲しい。」
「うん…ありがとう。」
北原君はとても嬉しそうに笑ってくれた。
僕も釣られて笑みが漏れる。
うん、うん…。
失ったものはあるけれど、僕はとても幸せだ。
何かを失ったからこそ、僕は北原君に感謝したくて…これからも大切にしようと思った。
失って得たものは大きい。
だって僕は、一番欲しかった友人を手に入れた。
いつも側に居てくれる安心感と幸せ…それが今一番の宝物だと思った。
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