#07



『約束だよ。』



その日、夢の中に天使が現れた。

しかし天使はいつものように歌を歌わなかった。

ただ『約束だよ』とたったそれだけを言い残し、加持の瞼に唇を落とす。



加持はこんな夢を生まれて初めてみた。



─約束ってなに?



そう思うのに声は出なかった。

何も出来ないで居る加持を余所に、天使の姿が段々と薄れていく。

間もなく天使は加持の目の前から姿を消してしまった…ー










「約束……か、」



夢にしてはどこか懐かしいような…現実味のあるような映像だった。

まるで実際に目の前で起こったように感じ、加持の中にはまだその余韻が残っているほど…



加持は天使が消えた瞬間、胸が締め付けられるような切なさを感じた。

それは目覚めた今でも忘れられない。

天使の綺麗な歌が…好きなあの歌が二度と聴けなくなるのだと瞬時に思ってしまった。





今こうして思い返した所で何より理解出来ないのが約束の意味。

一体何を約束したのだろうか。

消えた天使はどこへ行ったのか。

全てが分からない。



いつの間にか作間の事など頭の隅にいってしまい、加持の脳内は天使の事でいっぱいになっていた。








「加持君おはよう!」

「ん、はよ、」



暫くして、加持はふいに思う。

何故だか分からないが、天使との約束を作間が知っているような気がした。



「なぁ作間、俺らってさ、何か"約束"した事あったっけ?」

「約束?」

「あぁ、」



馬鹿げている。

夢の話を作間が知っている筈などないのに。

それでも加持は知りたくて知りたくて仕方がなく、一か八かというような感じでそう問い掛けた。






「…また会おうって話したよね。」

「……いつ?」

「秘密。」



やはり作間は綺麗な顔でニコッと笑うだけだった。





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あきゅろす。
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