真心文庫
魔女との対面
炎精組前。
「ここが私達の炎精組。たぶん・・・・不良とオタクが居るけど気にしちゃだめよ。」
「う、うん・・・(不良とオタク?大丈夫・・・かな?)」
絆は困ったように笑いながら不安を抱えた。
みちるによって炎精組の扉が開かれ、中に入った。
みちるの予感していた通り、机に乗っている明雄と机にひじを突いている瀬南がいる。
瀬南は見知らぬ顔にもかかわらず、ひととおり見渡すと
疑問でも質問でもない言葉を吐き出した。
「・・・・また女?」
かんべんしてよ・・・と言う感じで窓のほうを見始める瀬南に対し
明雄はその姿を視線に捉えた瞬間から一度も目を離していない。
そして目をぎらつかせながら興味深そうに口元を歪めた。
「へぇ・・・・・珍しい御客様がそろってんじゃねーか。」
明雄はそういうと椅子を思いっきり蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた椅子は瀬南に向かってぶっ飛んできた。
瀬南が聞いたこともないような悪態をついたが
明雄の耳には何も届かない。
ただひたすら目の前の獲物をどう自分の縄張りに近づかせるか
だけしか頭にない。けっして悪くはないその頭ではじき出した狩りの幕開けの言葉。
「お前・・・魔女だな?」
陽月は明雄を冷たい微笑みで見た。
絆がいきなり初対面に対してストレートに言ってきたので反論がしやすかったのか明雄に言った。
「陽月ちゃんは・・・そんなんじゃないよ。」
静かにだが少し強気の口調で絆は言う。
「じゃあ、俺の目がおかしいのかな?噂によるとお前みてーな かよわいおこちゃまじゃなくてこいつみてーな見るからに悪そうな奴だと思ってたけどねぇ。」
「この子は何もしてない。何もしてないのにそんなこと言われる筋合いはないと思うよ。それに噂だけ決め付けないで。」
「ハハハ!!じゃあ色んな奴らから聞いた噂より今日始めてあった野郎の言葉を信じろってか?はっ。虫がいいにもほどがあるな。
自分は正直者だからみんな私の言うこと信じてくれますってか?そんな虫がいい考えはほどほどにしやがれ。」
「虫のいい話とか、そんなのどうでもいいよ。ただ噂だけで決めるのは間違ってる。みんなはその噂をいつか忘れるけど、噂された人は一生記憶に残るの。
陽月ちゃんみたいにもう何年も同じようなこと言われ続けてたらなおさら。いつの間にか周りから誰もいなくなる。人だけじゃなくて、ポケモンたちも離れていくの。
ありもしない話のせいで・・・」
「はっ。だろーな人間なんてもんはみんな屑だ。もしも仮にお前の言うことが真実だったとしても誰がんなこと信じる?
噂される人間にろくなもんはいねーんだよ。噂されるからには何か理由がある。その発端は全部噂された奴にある。
最初から善で綺麗なやつならそんな噂は流れねーんだよ。自業自得だ。人が居なくなる?ポケモンが居なくなる?
上等じゃねーか。だったらみんな離れて行っちまえばいい。そうなっちまったのは他でもない己自身の責任だ。
それが本当は優しいなど、全部嘘だので誤魔化して否定する?はっ。んなことは弱者がするもんだ。そういう幻想に過ぎねー期待にしがみついてる方が間違ってんだよ。」
「そんなの・・・・分かんないよ・・・・・」
絆がだんだん弱気になってきている。
「わっかんないなら口に出すんじゃねぇ。・・・てめぇみたいな親も居場所も幸せもあってなんの苦労も知らずに幸せにお友達と戯れて
笑うなんて事が当たり前でそれが日常だなんて思い込んでる野郎にそういう親も居場所も力も幸せもない絶望と孤独しか知らねぇ奴の気持ちがわかるわけねぇんだよっ!!!!」
本来の目的も忘れるほどに怒鳴った明雄を見てみちるはこころを痛ませた
(明雄・・・あんた・・・)
絆の胸に明雄の言葉が突き刺さり、俯く。
目に少しの涙を溜めていた。
それに気づいて静かな怒りを表したのは・・・
ドンッ!!
「ヒュー 噂どおり こっわいねぇ。」
陽月だ。
陽月は明雄の首根っこを掴み、床に押し付けたのだ。
「・・・・・・。」
陽月は黙って明雄を冷たく見下す。
黒い目が一瞬だがはっきりと赤色に変わった気がした。
「ったく・・・魔女さまは何にお怒りなのかねぇ。俺は事実を言っただけだぜ」
「事実・・・だと?」
「あの、あんたのお気に入りの人間は幸せなくせに不幸な奴の気持ちがわかったような言い方してるから正してやっただけだ。それの何が悪い?」
明雄は見るからに優位ではない立場なのに陽月を睨みかえした。
「そなたにも分からないようだ・・・絆が幸せで生きてきたと思うか?居場所があると思うか?好きで笑顔でいると思うのか・・・」
「・・・何?」
明雄は少し顔をしかめた。
(・・・どういう意味だ?)
少しだけ心の中に新たな考えがうまれた。
それはさっき明雄が勢いで口走った言葉とは真逆のものだ。
(・・・まさかこいつ・・・。)
明雄は少しだけ絆のほうに視線をずらす。
絆は泣かないようにしながら、陽月を見つめている。
その目は言っていた。
やめて
と。
「絆に家族はいない。物心ついたときから1人だ。居場所などあるわけない。あれば妾になどついてこない。絆は・・・笑顔でいることで全ての苦しみを和らげているのだ。」
「・・・だからどうした。笑顔でいることに何の意味がある。自分の気持ちに嘘ついてるくせに俺に同情を求めろってか?はっ、ざけんじゃねぇ・・・」
「どうやら貴様に何を言っても無駄のようだ・・・」
陽月は明雄を離し、冷たい微笑みで見下す。
今ならはっきり分かる。
陽月の目のが赤や蒼、色々な色に変わっている。
魔女の証。
「立つがよい。考えを変えないのならば貴様を叩き潰すまでだ。」
「上等だ・・・。叩き潰せるもんなら叩き潰してみやがれ。」
明雄は立ち上がった。
その際に陽月と明雄の視線が交差する。
「ここじゃ狭い。・・・後ろで殺りあおうぜ。」
2人は普通のバトルステージより一回りほど小さいステージに立つ。
そんな2人を他の5人が見守る。
魔女と人間の
舞台の幕開けだ。
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