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真心文庫
魔女と人間の境界線
明雄と陽月は互いのポケモンが入ったボールを手に持った。
互いに無言で開閉スイッチを押した。

陽月はムウマージのストレーガ
明雄はフライゴンだ。

両者ともにかなりの迫力を見せている。
みちるは思わず息を呑んだ。

(今の陽月ちゃんは・・・さっきとなにか違う・・・)

呪われ魔女の噂を聞いたことがないみちるには
何も分からないが、ひとつだけわかるのは

彼女は怒りという力を持っている。

(下手すれば・・・あいつ・・・)

みちるの中に嫌な考えが浮かぶ。
そうならないように止めるべきだとは思う。
だが、この勝負を見届けたいという気持ちのほうが大きく止める気がしないし止めたくもない。

「手持ちは互いに3匹。交代ありのシングルバトルだ。先に相手の手持ちを全滅させたほうが勝者だ。・・・それでいいか?」

「好きなようにするがよい。」

陽月は笑っていた。
でも、それは笑顔などの明るいものではなく
冷たくて怖いもの。

陽月を前にした者は口では強がるものの、内心はそうとう恐れや恐怖を抱いていただろう。
だが、陽月を前にした者にしてはめずらしくそういう感情は持っていないようだ。

「先攻はいただくぜ、フライゴン!つばめ返し!」

いきなり威力の強い技を叩き込むタイプの明雄にしては珍しく
威力は弱くとも、必ず当たる技でバトルの幕を開けた。
さすがのストレーガもよけることは出来ない。
最初の一発は確実にストレーガにダメージを与えた。

「シャドーボール」

陽月は構わず、指示を出す。
ストレーガもそれに応えてシャドーボールを繰り出した。

「そらをとぶ!」

フライゴンの素早さが幸いし、なんとかギリギリのところで空中に逃げた。
そしてそのまま地面にいるストレーガに狙いを定め急降下する。

「影分身」

ストレーガは素早く影分身。
フライゴンのそらをとぶは不発に終わった。
そこを狙って陽月は次の指示をストレーガに出した。

「マジカルリーフ」

フライゴンはマジカルリーフをもろ喰らい、至近距離だったために結構なダメージを負った。

「やりやがったな・・・。どくどく。」

地面から沸いて出てきた猛毒がストレーガの体を蝕んだ。
体中に広がるのはただの毒ではなく、時間がたつごとに命を削っていくスピードが速くなる猛毒。
動けなくなったストレーガにフライゴンは竜の鋭き爪を食い込ませる。

「ドラゴンクロー。」

ストレーガはかなりのダメージを負った。
だが、陽月は動揺することなく、ただ無機質に、機械のように指示を出す。
その姿は絆にはとても悲しいものに見えた。
まるで陽月が自分を噂通りにしたがっているようだった。

「エナジーボール」

ストレーガは頑張って陽月の指示に応えようとする。
だが、体力の限界と猛毒でそれが当たることはなかった。

体力と猛毒だけでも辛いというのに明雄はかまわず次の攻撃を仕掛けた。

「ちょうおんぱ!」

相手は呪われ魔女とまで呼ばれる陽月だ。
大抵のことでは動揺しないだろうし、大抵のことでは倒せないだろう。
明雄はわかっていてストレーガに状態異常を重ねた。
情けは無用だ。
と、いうか明雄はどんな相手にも手加減はしない。

それがたとえみちるであろうとも

叩き潰すことしか脳にない。

ストレーガは猛毒と混乱、さらに体力も底を尽きようとしている。

「戻れ」

陽月はボールを取り出し、ストレーガを戻した。
そして次に出したのはクレセリアのルナ。

「オーロラビーム」

いきなりの登場だがルナは難なくそれに応え、フライゴンの翼を凍らせた。
これではもうひこうタイプ技は使えない。

「っ・・・!クレセリアだと・・・。竜の波動!」

フライゴンも十分早いが、ルナのスピードはそれを上回る。

「かわせ」

ルナは竜の波動をかわす。

「サイコキネシス」

ルナはフライゴンを宙に浮かせ、地面に思いっきり叩きつけた。
フライゴンはよろけながら立ち上がる。さっきまでの激しい戦いのせいで
あと一撃でも喰らったら倒れそうなところまで追い詰められている。
その状況で明雄は彼らしくもない指示を出した。

「地震!!」

(なっ・・・!!)

みちるは思わず目を見開いた。
特性ふゆうであるクレセリアに地面技が効くわけがない。あきらかにおかしい。

「気でも狂ったか」

陽月は冷たい小さな笑いを浮かべながら明雄に言う。
ルナは指示を待たずに自ら距離を縮めていった。

明雄はその行動を見、口角を少しあげた。

「狂った?はんっ、それはどうかな・・・。」

「フッ・・・・」

陽月はずっと笑っている。

その瞬間、揺れ動く地面に変化が起きた。
ひび割れたそれはいくつもの岩の、石の塊となりルナの下から放出された。
いきなりの事態にとまどったルナはよけられず、かなりの痛手を負った。

「ストーンエッジだ。わざと地震でもやんねぇと勘づかれちまうからな。」

明雄は強気な口調で言う。強気になるのも無理はない、ルナはたった一撃だというのにかなりダメージを負ってしまった。
流れは今は明雄に向いていると言えるだろう。

「月の光」

陽月にしては意外な指示だ。
ルナは迷わず、自分の体力を削り、ストレーガを回復させる。
その代わりルナは戦闘不能となった。
陽月はそれに目を瞑り、ルナをボールに戻し、またストレーガを出した。
陽月はさっきまでのことがなかったかのようにまた小さく冷たく微笑む。

「エナジーボール」

すっかり回復したストレーガはエナジーボールを放った。
フライゴンは今までの戦いで体力が底をつき、一撃で倒れた。
フライゴン、戦闘不能。

明雄はフライゴンをボールに戻した。

「お疲れ。・・・ギャラドス!戦闘開始!」

次に出てきたのはギャラドスだ。

「竜の舞!」

ギャラドスは精神を集中させながら空中で気を高める。
攻撃力とスピードを高める舞だ。
この舞の最中は無防備だ。

「エナジーボール」

再びストレーガにエナジーボールを打たせる。
だが、スピードを上げたギャラドスはそれをかわす。

「竜の舞!」

明雄はさらに能力を上げる。このスピードだと大抵の技はかわされてしまうだろう。
しかもこの攻撃力で攻撃でもされたらひとたまりもない。

「滅びの歌」

ストレーガの滅びの歌。
歌声が教室に響く。
滅びの歌は聴いたら最期、聴いた者は死の淵に落ちる。
それを回避する方法は一度引っ込めることだけ。
明雄がそれをしないはずもなく、ボールのボタンを押そうと取り出した。
だが、陽月がそれをさせるわけがない。

「黒い眼差し」

黒い眼差しによってギャラドスを逃げられなくしようとする

「ちっ、アクアテール!水の壁を作れ!あの目を見たら最期だ!」

ギャラドスは目を瞑りしっぽをステージに叩きつけた。
なんとか見えずにすんだギャラドスはふたたび竜の舞を行う。

「滅びの歌なんざで死んでもらったら楽しくねぇんだよっ!ドラゴンテール!!」

明雄はなんとしてでも自分の手でしとめたいらしく、逃げるのはやめ攻撃する。
攻撃力をかなり上げたドラゴンテールはストレーガに当たった。

「道連れ」

「な・・・にっ・・・・」

ストレーガは瀕死間際に道連れを行った。
ギャラドスも共に倒れる。
ギャラドス、ストレーガ、戦闘不能。

明雄はまたもや舌打ちをするとギャラドスに駆け寄った

「悪りぃ・・・ごめんな。」

明雄はそう呟くとボールに戻した。

陽月はその様子を見ると1度目を瞑り、寂しそうな表情をしたがまた目を開き、笑った。
陽月はストレーガをボールに戻す。

「・・・よく笑ってられるな。」

「妾はそなたとゲームをしておるのだ。愉快ではないか」

「ゲームなのは別に否定しねぇが・・・。自分のポケモンに罪悪感の欠片もうまれねぇのかよ。・・・たとえ魔女でもそんぐらいはしてやんのかと思ってた。」

「残念だったな。これが人間と魔女の違いだ。この境界線を越えることは誰であろうと出来ない。妾は人間ではないのだ。」

「・・・境界線が越えられねぇだと・・・?だったらあいつはどうなんだよ。」

明雄は指先を絆のほうに向けた。

「あいつは・・・お前にとってなんなんだよ。・・・境界線を越えたからこそ共にいんじゃねぇのかよ。」

陽月はそれに答えなかった。

「スコトス」

出したのはダークライのスコトス。

明雄は答えなかったことに対して舌打ちをすると勢いをつけてボールを投げた。
出てきたのはバンギラス。明雄と似た鋭い眼差しでスコトスを見る。

「あいつは手前のことをかばってたぜ。・・・少なくともあいつは手前を大切に思っている、なのに当の手前はんなふうに言うのかよ!!ざけんじゃねぇ」

「ダークホール」

陽月は明雄に何を言われようと何も言い返さない、何も答えない。
ただ機械のように
指示を出す。
絆はそんな陽月を見て思った。

(ごめんね・・・陽月ちゃん・・・)

明雄はそれでも答えない陽月を睨みつける。

「よけろ!!そしていちゃもん!」

ダークライは相手を眠らせてからこそ真の力を発揮する。
今はなんとか避けられたがこのままではまずい。
明雄はいちゃもんをつけ、スコトスが攻撃技以外を出せないようにさせた。

「自分を大切に思ってくれるやつが居んのにそいつを否定するようなこと言ってんじゃねぇよ!!
手前に人間の心ってもんが少しでもあんなら境界線だとかなんとか言うんじゃねぇ!バンギラス!ばかぢから!!」

明雄は言葉の勢いのまま技を出す。悪タイプに効果抜群の格闘技で。

「守る」

いちゃもんで出せないと思われていた守る。
このタイミングでいちゃもんの効果が切れたようだ。
スコトスは守るを使った。
ギリギリばかぢからは免れた。

「ダークホール」

スコトスはダークホールを放った。
今度こそバンギラスに当たる。
ダークライの特性ナイトメアが発動された。

眠りについたバンギラスはナイトメアによってうなされている。
だがそれだけではあきたらず―。

「悪夢」

容赦なく来る夢の恐怖。
陽月は目を瞑った。
そして目を開いた。
もう目は元の黒色にいつの間にか戻っていたと誰も知らずに。

明雄はバンギラスの方を向き、思いっきり口笛を吹いた。
その音と共に、起きるわけが無いと思われたバンギラスが目覚める。
口にはラムの実が咥えられている。

「リサイクル!ラムの実を復活させる!」

バンギラスは食べきったはずのラムの実を元の形に戻した。
これでもう一度ナイトメアが発動されても凌げる・・・と思った。

「焼き尽くす」

「なっ・・・!!」

岩タイプであるバンギラスに炎は全然効かないが、その炎は木の実を焼き尽くすのには十分の量だった。
これではもうラムの実が使えない。
明雄が前を見ると既にスコトスがダークホールの渦を生み出している。
あとは陽月が指示するだけだ。

「・・・・・・・・。」

陽月は拳を握る。
それに気づいた絆。

(陽月・・・ちゃん・・・?)

陽月は一言、ほんの少しの躊躇いと共に言った。

「ダークホール・・・」

スコトスはバンギラスにダークホールを放とうとする。
だが突然、絆がステージに上がり、陽月を止めた。

「やめてっ!」

「っ・・・・・・!」

スコトスはダークホールを止めた。

明雄は周りの様子は見えていないらしくダークホールを発動せずに終わったスコトスに攻撃をしかけようとする

「明雄!もうやめなよ!!」

「うっせぇ!!黙ってやがれ!!」

みちるはステージに上がる。
怒りを秘めた瞳同士がぶつかり合う。

「戦闘意欲がない相手まで叩き潰すほどあんたは成り下がったの?明雄らしくない!」

「・・・・・・くっ。」

明雄は観念したように瞼を閉じた。
そして無言でバンギラスをボールに戻した。

絆は陽月を止めて、一瞬 しまった と思ったがもう後には引けない。

「陽月ちゃん、もうやめよ?ね?」

「絆・・・・」

「自分を傷つけるの、やめよ?」

「・・・・・・・。」

「あたしのために自分を壊すのも、やめよ。もうあたしは大丈夫だから。ごめんね、陽月ちゃん」

陽月は黙って、目を瞑り、目を開けた。
絆は太陽のように明るい笑顔で陽月を見ていた。
陽月はその笑顔で何度も救われた。
明雄の言葉が思い出される。

「絆・・・すまないな。私たちは・・・ずっと一緒にいられるだろうか?」

絆は元気にうなずいた。
陽月はそれに静かにほっとした。

人間と魔女。
その境界線を越えるのは
そう難しくないのだ。

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