ドォン!!
突然の大きな音に名前は目を覚ました。
ここは…?寝ぼけた頭を懸命に動かす。先ほどまでいた神木とは打って変わり、赤い絨毯の上に名前は座っていた。どうやらここはどこかの屋敷の廊下らしい。道なりに等間隔にドアがある。
どうして?私、さっきまであそこにいたのに…
不思議な事態に名前は混乱する。何故このようなことが起こったのか、まったく見当もつかない。
ドォォン!!
「!」
再び大きな音が轟き、名前は驚いた。
爆発音…?
遠くから悲鳴とともに、ばたばたと人々が逃げ回っているのか足音が聞こえる。その足音が今度はこちらに近づいてくるようだった。
ど、どうしよう!?
こちらにやってくるのが爆弾を持っているような人物だったら、危険だ。今いったい何が起きているのかは名前には分からなかったが、遠くで聞こえる悲鳴と発砲音から、なんとなく状況は理解できた。
名前は近くのドアを開き、薄暗い部屋の中を歩いていく。そして、部屋の隅にあったクローゼットの中に身を潜ませた。
それとともに、やってきた人々が乱暴にドアを開けていく音が聞こえた。激しい怒号と悲鳴が屋敷内にこだまする。
かたかたと名前は身を震わせながら、今までのことを整理していく。母と喧嘩をし、近所にある神社の大きな神木で寝ていた、はずなのだが、どうもまったく別の場所にいるらしい。もしかしたら、これは夢なのかもしれないと自身の頬をつねってみるものの、ただ頬が痛かっただけで覚める気はない。何かのイベントなのかもと考えてみるが、そのようなイベントが開催されると聞いたこともないし、まずこのような大きな屋敷が家の周辺にない。いや、屋敷(?)の一部を見ただけで、ここが大きいのかは判断できないだろうが、一瞬見ただけでも1つの壁に10個以上はドアがあったのだから、きっと大きな屋敷に違いない。
襲ってきた人たちも、ここには何もないと思ったのか、足早に去っていくことが、なんと無くだが、窺えた。そのせいなのか、とても静かだ。
もう大丈夫なのかな…
名前は安堵し、ゆっくりと音をたてないようにクローゼットのドアを開ける。しかし、向こうからまた、こちらに向かってくる足音が聞こえた為に、名前はドアを閉めた。今度はなんなのー!!名前は耳を潜ませ、足音の持ち主が何をしているのかを注意深く聞いていた。
「心配性ね、ラルも。」
「べつに心配だからではない。万が一だ。」
「はいはい。」
女性の声が2つ聞こえた。先ほどの怒号とは打って変わり、落ち着いた声色に、名前は安心する。しかし、危険なのは事実だ。たとえ女性であろうと、銃を持っているようだったら、危ない。名前は息を殺し、2人が通り過ぎるのを待った。女2人が部屋の中に入ってくる。コツコツとなる足音が名前を緊張させる。そして足音がクローゼットの前を通り過ぎた時、女の1人が口を開いた。
「おい、そこに入っているのは誰だ。」
「っ!」
女の言葉に驚いた名前は、足元にあった箱を思い切り蹴ってしまった。
ガタンッ!
クローゼットの中で大きな音をたててしまったのである。
うそ、どうして、頭の中で警報音が鳴り響く。
「…随分と間抜けな奴らしいな?」
「ラル、気を付けて。」
「ああ、分かっている。おい、お前。武器を捨てて出てこい。」
どうしようどうしようどうしよう!
出て行ったところで殺されるのは目に見えている。かといって、このままでいてもどうしようもない。迷っていると、ラル、という人物が先に口を開いた。
「出てこないなら、こちらからいくぞ。」
ラルは取っ手に手を掛け、クローゼットのドアを開けた。入っていたのは、10歳ほどの小さな娘であった。
「誰だ?こいつは。」
「変ね。そんな子、リストには載ってなかったわ。」
「……おい」
ビクリと肩を震わせた名前の目は、涙でいっぱいであった。今にも泣きそうな面持ちで、名前は掠れた声で返事した。
「は、い…」
「お前、何者だ。どこから来た?」
「…分から、ない、です」
はあ?と明らかに苛立った声を出し、ラルは眉間に皺を寄せた。そんなラルを宥めるように、もう1人の女が口を開いた。
「まあ、こんなところで喋っていないで、親方様に相談しましょう。」
「…そうだな。」
そうして名前は2人に、『親方様』の元へと連れて行かれるのであった。