trip プロローグ 母と喧嘩した。 理由は何でもない、ただの私の反抗期だ。反抗期というものは厄介なもので、親に指図 を受ける、それだけのことでイライラしてしまうのだ。 私は気晴らしに外に出る。剣幕な雰囲気から一変し、澄んだ空気が肺に満ちていく。適 当にその辺をぶらぶらと歩いていくと、またここに着いた。 家の近くにある、たいして大きくもない神社だ。私は幼い頃からここが好きで、よく遊 びに来るのだ。喧嘩した日にはもちろん。 境内の奥に佇む、大きな神木の傍に腰を下ろした。心地の良い春風が木々を揺らす。日 の光が葉の隙間から零れ落ち、地面にきらきらと輝く。先ほどあった喧嘩が無かったこ とのように、木々たちが慰める。 「お母さんのバカ…」 私はため息を吐いた。母の言い分は間違っていたわけではない。だが、つい自身のプ ライドが邪魔をしてしまい、素直になれなかったのである。 腫れぼったい目を擦り、木漏れ日の絨毯を眺めていると、私の意識がまどろんでいく。 ほんの少しだけ、寝ようかな。 感情が高ぶりすぎたせいか、疲れてしまった。少しだけ寝たら、家に帰ろう。それで、 もう少し素直になろう。…たぶん無理だけど。 目を閉じ、ざわざわという木の葉の音色を聴きながら、私は眠りについた。 [次へ#] [戻る] |