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ゆ る く 噛まれた





自堕落な日々の中で

違う、
んでいたのは――








走る。
駆ける。

風の中を突き進んだ。



周りは見渡す限りの人ばかりで、夢中で走る俺を目にすればまるで怪物を発見したような顔で道を開けてくれる。


誰のせいでこうなったのかわからない体質のために、気づけば自分は幼い頃から街中の有名人になっていた。
それも、普通の人間では到底真似出来ないようなことばかりをこれでもかというほどに見せつけてきたのが主たる原因だったらしいのだ。
思い返せば全て自分に非があるように思えてきたが、そんなことはない。
と思いたい。


「いぃざああやああああ!!」


生まれも育ちも同じこの池袋で、俺は今日も同じようなうざってえ日々を過ごしていた。

俺が悪い意味で有名になってしまった決定打は、なんといってもこのムシケラ野郎のせいである。

「はは、シズちゃんこっちこっちー」

手をひらひらさせてこちらを挑発する。
こんなヘラヘラした野郎を未だに仕留めていないと思うだけでとてつもない苛つきが募った。
それの繰り返しで今日もまたこうやって追いかけっこをしているわけだが、俺だって好きでこんなことをしているわけではない。

「おい手前…いい加減とまりやがれぇええ!!」

「おっと」


ちょうど近くに植え込んであった樹木を根元から引っこ抜く。

その行動を見て目を丸くした臨也が、後ろを振り向きながら全速力で走り出したがそんなのはお構いなしだ。

木を両手で抱え込み、身体自体を回転させて木をフルスイングさせる。

「待ちやがれいいざああやああくうううん!!!」

遠心力の性質のせいで、木はブンと物凄い音を立てて臨也のいる方向へ飛んでいった。
見事に路地裏へと続く外壁へ体当たりをかました樹木は、周囲の人々の視線を浴びながら路地裏の奥へと身を倒す。

残念ながら、不発だ。

ちっと舌打ちをしながら前へ進むと、調子に乗った臨也が木の倒れた路地裏へ逃げ込むのが見えた。

逃がすかと再び走り出した俺。
角を曲がって暗いコンクリートに先ほど打ち上げられた樹木を踏み台にする。

比較的軽やかに地に足を付けると、向こうのほうで臨也がにやつきながらこちらの様子を伺っているのが見えた。
「いざやぁ…手前」

低い声で唸ってやれば、臨也は余裕綽々な面持ちでこちらに向かってくる。

だが、いつもは予め装備しているはずのナイフが今回はどこにも見当たらない。
迫り来る存在に何か威圧感を感じた。

「シズちゃん」

いつの間にかぐ、と距離を迫られていた。

掴まれた蝶ネクタイは簡単に振り解くことができただろうが、何故か体が言うことを聞かない。
下からなだめるようにおくられる視線は、いつものものとは違う。

「一体どれだけ焦らせば気が済むわけ?」


はあ?
思わず口走ってしまった。

「気付いてるんでしょ…?俺さあ、他人に好き勝手弄ばれるのってあんまり好きじゃないんだよねえ」

………。
さっきから何を言ってるんだこいつは。

不意に、蝶ネクタイを掴む力が強くなる。
次第に結ばれた部分が外れていき、首もとに回されていた黒い紐が臨也の手によって抜かれてしまう。


「こんなとこでお誘いしてくれるなんて、シズちゃんも大胆だよね」

「はっ!?」

外壁にもたれかかった臨也に勢いよく引っ張られる。

状況が全く把握できないままその勢いにのって、壁に手をつき奴と面向かって顔を合わせる体勢になってしまった。

何を思ったか首に手を回してきた臨也になんともいえない雰囲気が漂う。
なんなんだ、さっきまでは殺し合いの喧嘩をしていたのに。




…何がしたい?こいつは。









るく噛まれた指先を眺め
き捨てた言葉は凄惨過ぎた



















(すき、なんだよ君のことが)


(隙…?)















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