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Glare






混乱する思考の中、幸村は必死に次の言葉を考えていた。

何とも言えない感情に突き動かされ政宗の手を掴んだのは良いものの、この先の事を当然の如く幸村は考えていない。



(何をやっているのだ、俺は…!)



無計画な己を軽く自己嫌悪しながらも、頭を必死に回転させる幸村。

然しまたしても当然の如く、幸村に画期的な解決法が浮かぶ筈がなく、結局はただ政宗を見つめるしか出来ない。



「…幸村?」



焦れたのだろうか、政宗は頭に疑問符を浮かべながら小さな声で幸村を呼ぶ。

其の声にも何か気のきいた事が言えないかと頭を回転させた幸村だが、其の苦労も虚しく色恋沙汰に慣れていない頭には大役過ぎた。

結局、幸村は自身に深い溜息をつきながら只返事をするだけに留まったのだった。



「幸村、どうした?」



消え入りそうな幸村の声に首を傾げる政宗。

其の反応からは純粋な疑問しか見受ける事が出来ない。



「幸村?」

「、ぁ、その…」

「…大丈夫かよ、ホントに。顔色悪ィけど。もしかして、風邪でも引いてんのか?つーか、それなら何で出て来て…って、俺が呼びだしたんだけどよ」



まともに返答出来ていない幸村の反応を調子が悪い故の物だと思ったのか、政宗が申し訳なさそうに幸村を見る。

其の視線に幸村が紅くなってしどろもどろに言葉を返せば、政宗は熱があるのかと心配そうに顔を覗き込み、それに更に紅くなった幸村に更に政宗は心配そうな顔をして───とそんな事を繰り返している内に、政宗は意を決した様に一つ息をついた。



「…幸村、お前もう帰った方が良いぜ。呼び出した奴の言う事じゃねぇけど…」

「ち、違います!風邪ではなく、その、」

「気ィ遣うなって。…悪いな、調子悪そうなのに呼び出したりして。じゃあな」



ぱくぱくと口を開閉する事しか出来ない幸村。

そんな幸村に微笑を浮かべてから、政宗は幸村に背を向けひらひらと右手を振りながら去ろうとする。

家出をした、と打ち明けてくれた政宗の声が、幸村の頭の中に響く。

家出をした、母親が帰って来ているから。其の言葉から導き出されるのは、恐らく今、政宗は家に居場所が無いのであろう事、そして直ぐに家に戻るつもりは無いのであろう事だ。

何気なく幸村の前から去ろうとする政宗だったが、恐らく行く所なんて無くて。

だからこそ、自分なんかに連絡をしてきたのだろう、と思い、幸村はぐっと奥歯を噛み締めた。



「政宗殿!」

「Ah?」



政宗を止めようとした幸村の声に政宗が振り返れば、視界には何故か再度泣きそうな顔をした幸村が映る。

其れに驚き政宗が幸村の傍に引き返せば、がしりと手首を掴まれ政宗は更に驚いた。



「ゆ、幸村、」

「政宗殿。家出したと、仰っていましたな」



狼狽する政宗を尻目に、先程迄のたどたどしい言葉からは想像出来ない程に流暢に、幸村は言う。

間を空けてから頷いた政宗に、幸村は手首を握る指に力を入れた───少しの苛立ちを、指先に込めて。



「政宗殿。ならば、この後何方(どちら)へ行かれるおつもりで?」

「…元親の家、とか」

「政宗殿。行く所等、無いのでしょう?」

「………」

「殆ど連絡を取り合わない政宗殿が、某なんかに連絡をして来たのが其の証拠でござる。違いますか?」

「Ha…違ぇよ。俺がアンタにmailするのが、そんなに可笑しいのかよ?」

「可笑しい、と言うよりも…余りにも、不自然ではありませぬか」



違いますか?と問い掛ける幸村の声に、政宗は何とか反論しようと口を開く。

然し分が有るのはどう考えても幸村である。

政宗もそれに気が付いたのか、暫く口を開閉した後に悔しそうな顔をして口をつぐんだ。

俯いて黙りこんでしまった政宗に呆れた様に一つ溜息をついて、幸村はじっと政宗を見つめる。

これからどうするのだ、と頭の中に疑問が浮かぶ。

政宗が何を思って嘘をついたのかは幸村には分からない。分かる筈もない。
だが、見栄や虚勢で嘘をついたのではないだろうなと幸村は思う。
こんな夜更けに会いたいとメールしてきて、家出したんだと告げて、今更見栄や虚勢を張って何になる?



「政宗殿。此れからどうなさるおつもりですか?」



静かな声で問い掛けた幸村がじっと政宗を見れば、政宗の顔がばつが悪そうに歪む。

嗚呼、矢張り行く所等無いのだ、と何処かぼんやりした頭で幸村は思う。帰る所等、無いのだ、と。

無理矢理に言葉を吐き出そうとする政宗が、其の同情する様な幸村の視線に、悔しそうに唇を噛み締めた。



「…政宗殿」



幸村が静かに名前を呼べば、政宗はびくりと肩を震わし恐れる様な、然し何処か怒っている様な視線で幸村を見る。

其の視線に幸村は数拍置いてから、くるりと回れ右をして歩き始めた───政宗の手首は、握ったまま。

すれば自然に政宗は幸村に引っ張られ後に着いて行く事になる。
暫く呆然と幸村の背中を見ていた政宗だったが、数分歩いて焦った様に言葉に詰まりながら幸村の名を呼んだ。



「ゆ、幸村!?何処行くんだよ!」

「………」



驚きと若干の不安を含んだ政宗の叫び。

其の声に答えるどころか其れを幸村は綺麗に無視し、そして更に政宗の手首を握る指に力を入れた。

引っ張られる様に歩く政宗が、幸村、と何度も名前を呼ぶ。だが、それさえも幸村は無視し続ける。



「幸村!おい…ッ」

「………」

「っんだよ!無視すんな!」

「………」

「…ッ………幸村っ…!」

「…何ですか」



幾度も無視され、無理矢理に引っ張られ、遂には泣きそうになった政宗の声に、漸く幸村は声を返す。

急に返った声に驚く政宗にもう一度、幸村は何ですかと問い掛けた。



「っ何処、行くんだよ…っ!俺はもう、帰、」

「帰る所、無いんでしょう?何処に帰るんですか?」

「其れはっ…」



幸村の反論は事実だ。故に政宗は何も言えず、只黙り込むしかなかった。

そんな政宗の様子に一つ溜息をつき、そして幸村は政宗に言葉を投げる。



「行き先は、俺の家です」

「Ha…!?」

「何か問題でも?」



当然の様に首を傾げた幸村に驚きの余り口をぱくぱくと開閉させる事しか出来ない政宗を見つめ、幸村は再度歩き始めた。

───反論は、聞こえなかった。






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