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The world will come to you(神崎左門:RKRN)


「だからこれはこうなってこうなってだな」

「おー」

すらすらと埋まる回答欄に拍手する。いつもは修羅場の会計委員会室も修羅場を越えた本日ばかりは静かである。先輩も後輩も仕事がなくなった夏休み前の会計委員会室に用はなく、いるのは会計委員の特権をフルに活用してそこで自習をしている左門と、そんな友人をもつのをいいことに彼に勉強を教えてもらっている私だけだ。差し迫った明日の小テストの山をこの記憶力だけはいい友人に教えてもらうのに、人のいない会計委員会室はもってこいの場所だ。図書室みたいにしゃべって怒られることもなければ、教室で人目を気にする必要もない。適度にしゃべれて集中できるのである。

「左門すごい、さすが!」

「ふふん、だろう?」

胸を張る年よりも少し幼く見えるあどけない顔をした同級生は頭はいいのにとてつもない方向オンチだった。個性の強い人間の集まっているこの学園でも異色を放つレベルの方向オンチぶりである。右と言えば左に行き、上だといえば斜め下につっきっていく。山といえば海に向かっていくほどの方向オンチだった。だというのに、記憶力はいいのだから彼の方向オンチが学園七不思議に数えられても不思議ではないだろう。小難しいことばかり、小難しい言葉で書いてある司馬の兵法書なんてそらで言えるくせに、地理の成績だってトップクラスのくせに、なぜに現実の地図記号は読めず、何度も通った道を覚えられないのか。とてもとても不思議だった。

「すごいんだけどさぁ、すごいんだけど、すごいのになんで教室から会計委員会室までの道がいつまでたっても覚えられないの?」

「こればかりは僕にもわからん。部屋が移動しているとしか思えないな」

「んなわけあるかーい」

「だよな」

クスクスと顔を見合わせて笑いあう。きっと神様が左門を作るときに彼の身体の中に埋めるべき方向感覚というものを忘れてしまったのだろう。もう答えはそうとしか思えない。

「ただ、神様がきっと僕がこうあるべくしてあるように僕を作ったんだろう」

思考をトレースされたのかと思った。そう思ってしまうタイミングの良さで彼は真面目な顔をしてそう言ったのだ。

「知ってるか?世の中のすべては等価交換の法則で成り立ってるんだ。僕がこうして名前に勉強を教えてやってるだろう?そして名前は僕に道を教えてくれている。これが等価交換の法則だ。だから、僕らの関係はこうあるべくしてあるのかもしれない。神様がそう決めているのかもしれない」

まるで左門に似合わないロマンチックなことをいきなり言うものだから、笑い合っていた距離のまままじまじと左門を見つめてしまう。

「なんてな」

いつも通りの顔で笑う彼にほっとしたのもつかの間、このあとすぐに超特大の爆弾が投下された。

「そうだったらいいな、と思ったんだ。もしそうだったら、僕には名前がいないと駄目で、お前にも僕がいないと駄目な関係になると思ったから。そうだったら、僕は嬉しいと思ったんだ」

さっきよりもさらに真面目な、真剣な顔をして左門が言う。

「……左門、それ、まるで告白してるみたいに聞こえる」

「まるでとはなんだ、失礼だな。僕はきちんと告白しているつもりだぞ」

憤然として言い切る左門に今度こそ私は言葉を失った。なんというド直球。道には迷うくせにこういうときは迷わない。男前すぎるその言葉に見合う返事がなかなか見つからなくて、私は顔を赤くしたまましばし固まってしまった。







The world will come to you



(えーっと、それはマジ?)
(僕はいつでも大真面目だ)
(だよ、ねー…)

titled by fynch


シリーズ第17弾、左門編。


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