短編 non title あたしはどうやら、“恋”というものをしているらしい。 「…」 両の目でその姿を追うようになったのは、いつかなど、あたしには愚問だ。 例えばそれは出会った瞬間からだったかもしれないし、一瞬の光景の後だったかもしれない。 ただ、あたしは“今”確実に恋をしているのだと知った。 (…睫毛長ぇ…) こっそり盗み見るのはもう何度目? それさえも忘れた。 よく恋をすると息をするのも辛くなる、とか。 胸がときめく、とか言うけれど。 あたしはそんなものは感じない、静かな静かな恋だった。 ただ気付いたら目で追って、喋れるだけで幸せで、その人が隣にいるだけで、半身が熱を持って、胸の奥が暖かくなった。 その人とずっと一緒に居たいと願ってしまう。 だけどこの恋はきっと、叶うことはないだろう。 あたしの奥底で芽吹いて、息衝いて、そして、いずれ頑丈な封をしてしまう。 きっと今、あたしは迷子のような顔をしているに違いない。 だってそうでしょう? 「先生――」 好きなんかじゃ、ない (そう言えたら、どんなにか救われたことだろう) 貴方は教師であたしは生徒―。 [次へ#] [戻る] |