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短編
Dutch iris

ぽたり、ぽたりと零れた滴。








日課がある。
毎日、例え砂が掬った指の間から零れ落ちるように、忘れてしまったとしても。
彼の姿を目で追って、声を聴いて、脳裏に、瞼の裏に焼き付けていく。
目を閉じれば、いつだって思い出せるように。




「仁、」


呼んで、しまった。と思った。
母親とはぐれた子供のような声だった。
不安に押しつぶされてしまいそうな、そんな。
案の定、彼は怪訝な顔をして自分を見た。
心配している。目がどうしたと訊いている。


「…みつ?」


不謹慎だけど。
彼の自分を呼ぶ声が好きだ、と思う。
心配そうに触れてくる白い指も。
綺麗な、緑の瞳も。


「…ごめん、なんでもない」


この景色を、ここにいる人達を、彼を。
守りたいと思う。
いつか、遠くない未来、別れなければならないけれど。




ぽたり、頬を透明の滴が伝う。
頬に触れた手が温かい。


「仁…、」


愛しさが、溢れそう。
寂しさが、零れてしまう。
手を伸ばせば触れる温かさに、





「泣いてしまいそうだよ」


(君を助けるために、
僕は未来から来たのです。)

七十年と少し先の、

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