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短編
罪人の忠誠





俺は実の所、真選組にいる誰より真選組に似つかわしくない人間なのかもしれない。


―――――――
―――――


相変わらず今日もいい天気。こんな日は外でミントンでもしたいなあと思いつつ、本当に実行すれば理不尽な俺の上司がすかさず拳を振り上げてくることくらい予想がつくから行動にはうつさない。
例え理不尽な上司に見つからなくても、何処から沸いて出たのかと言うほど神出鬼没な外見詐欺の上司に告げ口されてしまうのも経験済みだ。自分だっていつもサボっているでしょうなんて言った日には、俺の命はあのドSのものになっているのだろう。
それだけはなんとしてでも阻止しなくてはいけない。
だって俺の命は、「あの日」から自分のものではないのだから。




医家の出だった俺は、決して苦しい生活ではなく、言うなれば平穏な人生をおくっていた。やりたいことも特に無く、親の後を継いで平凡な人と結婚して子供をつくって、そして死ぬのだと、漠然とそう思っていたし、その予想は確信に近かったのを覚えている。
そんなある日、俺は何かの用事でたまたま江戸に来ていた。
その頃には既に真選組は存在していたが、知名度は今よりずっと低くて、もちろん俺もそんな集団知らなくて当たり前だった。

それなのに。
あのダークブルーの双眸に、一瞬にして魅せられた。颯爽と歩く姿に目を奪われた。

自分でもどのくらいそうしていたのかわからない程その人を見つめていた。もちろん当時は気配を殺すなんて芸当出来なかった訳だから、俺はすぐにその人に気付かれて目が合ってしまった。
あらためて見るその顔は、剣を持つ人間とは思えない程整っていて、色も白く、けれどどこか冷たくて、まるで人形のような印象さえ与えた。
だけどその人は人形なんかじゃなくて、当然口も開ける。

「なんか用か?」

あれだけ見られていたなら言ってみたくもなるだろう疑問を、この人は例に漏れず口にした。
なんて答えようか、答えるべきなのか、そんな気持ちが巡り巡ってようやく口から出たのは自分でも聞くつもりのなかった質問だった。

「あなたはその剣で、何を守っているんですか?」

普通の人間なら、この時点で俺を頭のおかしい人間として去って行くだろう。けれど、この人は違っていた。一瞬驚いたような顔をして、それから酷く誇らしげに答えたのだ。

「魂」

その単語にどういう意味が含まれていたのか、当時の俺は計りかねた。
だからかもしれない。俺は単語一つで答えた目の前の男に、どうしても付いて行きたくなった。
そして、これが俺の人生を決めた、「あの日」だった。



入隊してから俺は、あの日出会った人が副長だということも、ここにいる人は皆、局長への忠誠心を持っているということも知った。それと同時に、あの人の生き方を知った。真っ直ぐで折れることのないあの信念を知った。
自分の忠誠が局長にではなく、副長唯一人に注がれていることにも気付いてしまった。

好きとか嫌いとか、そんな生易しいものではない。恋だの愛だの、そんな綺麗なものでもない。
ただ一緒に走ってみたかっただけだ。出来るなら、死ぬ最期の瞬間まで、あの日言った魂とやらを、この目に焼き付けておきたかっただけなのだ。

局長ではなく副長に忠誠を誓う俺は、きっと真選組には似つかわしくないのだろう。副長を最優先してしまう俺は、もしかすると隊規違反によって切腹しなければならないのかもしれない。
……けれど。

「山崎、仕事だ」

「はいよ!」

この人に付いて行くためなら、俺はそんなこと構わないのだ。



罪人の忠誠
(何処まで行っても)(あの人だけに)




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