散雪華〜貴方と共に〜
勘定方の死
その日、土方さんが兼ねてより考えていた局中法度が正式に隊規となった。
けれどこの隊規は沖田さんの予想通り隊士たちを震いあがらせ、そして恐怖故に脱走を企てるものたちまで出てきた。
そして、私は局中法度の怖さを思い知らされた。
「おい、聞いたか? 河合が勘定方で矛盾が生じちまって三日後までにそれが合わなかったら切腹になるんだとよ…」
「まじかよ? あいつ、結成の時からいるやつじゃねえか…」
河合さんと言えば、剣の腕はダメダメだったけど、家が商家でそろばんが使えたと言うことから浪士組のことからいた人だ。
話によると、急遽土方さんにお金を用意するように言われた時に10両ほど勘定が合わないことに気がついたらしい。 周りは河合さんが真面目に仕事をしていたから多めに見て欲しいと言ったけど、たとえずっと一緒に仕事をしてきたやつでも規則違反は許す訳にいかねえ。と土方さんに一喝された。
「これ、知ってる…」
「え?何か言った?」
縁側でそう呟くと、側で休んでいた沖田さんが私の言葉を聞いて起き上がった。
「いえ、何でもないです。 それより隊士の方々がさっきから話していることって…」
「ああ、河合さんのこと? 彼、勘定方で不正に使った金があるってことで腹詰めることになるかもしれないんだ」
「それは、いつですか?」
「うーん。三日後だったかな? それまでに工面出来ればいいんだけど、彼の顔見てるとあまり当てがない気がするんだよね。」
三日後…。 史実と同じだ。
でも、私が見た本では、金を不正に使っていたのは河合さんではない。 他の隊士が使っていたのをただ黙って隠してしまっただけだ。
「ちょっと一葉ちゃん、ぼくの話し聞いてる?」
「…っ、すみません沖田さん。ちょっと土方さんのところに行ってきますので、私はこれで」
「ふーん、そう? まあ別にぼくはいいけどね。でも何を言ったって変わらないと思うよ?」
「事実を伝えるに留めます。ただ、何もせずに見殺しになんて私には出来ませんよ。」
私はすぐに土方さんの部屋に走った。
「土方さん、一葉です。」
「なんだ?入れ」
「河合のことか?」
「はい。 一つ、確認しておきたいと思いまして。」
「なんだ?」
「彼を処断する理由です。」
「勘定方は新撰組全体の金の管理をする大事な役目だ。それを勝手に使い、その事実を隠そうなんてあめえんだよ。」
「彼の主張は?」
「使い込み、それを黙っていたのは間違いなく自分だと。 」
「……そうですか。」
彼自身がそう言うのなら私の出る幕はない、か…。
「何かいいたそうだな?」
「この処断は、古くからいるものでも当てはまるのだと新しく入った隊士への見せしめにはちょうどいいと思います。ですが、事実彼にはなんの罪もない。 処断する前に彼の周りの隊士をよく観察してくださいませんか?」
「他に使い込んだ奴がいると?」
「はい。残念ながら私にもその隊士の名前までは分かりませんが、他に数名、島原などに入れ込んだ隊士がいるとは聞きました。」
「…そうか。だが、河合が自分で白状しちまったのも事実だ。 三日後の処断までにそいつらが名乗りをあげるのを待つしかないな」
「私もそう思います。 ここからは私たちではどうすることも出来ません。」
本人が自白をしてしまった以上、私に出来ることはない。 だから、他の隊士が名乗ってくれることを少しだけ期待したのだけど…
三日後、河合さんは切腹をした。
しかしそのあとになって使い込みをしてしまったと言う隊士が名乗りをあげ、彼の死は本当に見せしめとなってしまった。
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