散雪華〜貴方と共に〜
大和屋焼き討ち事件
私が土方さんの部屋を後にしたあと、残った二人が何だかこそこそと話しを始めたのが聞こえたので、部屋に戻ったふりをして聞き耳を立てた。
「……薬……失敗?」
よほど警戒しているみたいで、単語単語でしか聞き取ることはできなかった。
本当はもっと部屋の近くまで行けば聞き取れたんだと思うけど、沖田さんは本当に気配を読むのが上手い。だから、廊下の角で聞き耳を立てていた。
「わざわざ私がいなくなってから話しをするなんて…怪しい。」
これは何かある。
私は何でこの世界にトリップして来たのか、私はその理由を“変えるため”だと思っている。
史実を知っている私にとってこの先の新選組の行く末は本当に考えるだけで辛いものだ。
少しでもその時の状況を汲み取り、そして出来るだけ良い方向へ導く。
だから悪いとは思ったけど、私は部屋の話しに聞き耳を立てていた。
私が聞いた話しは向こうも警戒していてちゃんとした話しは聞き取れなかったので、今はそれ以上踏み込むことは出来なかった。
それから数日後、事件は起きた。
新選組に金を差し出さなかったとして、芹沢さんが大和屋を焼き討ちにしたのだ。
「土方さん!大変だ!!」
「やかましい!何だ!?」
「芹沢さんが大和屋に火をかけてるんだよ!何でも金を出さなかったとかなんとかで…」
「!!? お前、そういう事は早く言え! 総司!それから一葉も来い!」
緊急時だから仕方がない。
私は土方さんに続いて三人で大和屋に走った。
「…っ! 酷い……」
大和屋は生糸問屋の豪商だった。
芹沢さんはその蔵に火をかけた様で、木造の蔵、そして中の生糸はことごとく燃えていた。
そして、芹沢一派が目を光らせているせいで、火消しなども近づけない有様だった。
けれど火が他の建物に燃え移ったりしたら大惨事になり兼ねないので、土方さんが水を用意させた。
しばらくすると燃えている火を見ているのも飽きたようで、芹沢が登っていた屋根からおりて来た。
「何だ?お主たちも来ていたのか。」
「何故こんなことをした?」
土方さんの声には明らかに怒気が含まれていた。
「かの者は攘夷を謳う過激派に金を貸していた。だが、京を守る我ら新選組には一文も貸せんと申してきた。だから天誅を加えてやっただけだ。」
まるで当然だと言うような芹沢さんの発言に私は呆れてものも言えなかった。
この事件は後に芹沢鴨の悪行の極みだと伝わって行く。けれどこの行為が逆に当時の大和屋のような買占めを行っている豪商に対する庶民の不満を代表したものだという見方も出来るという。
だがどっちにしろ、この一件で芹沢鴨の名が一躍悪名として広まってしまったと言うのは言うまでもない。
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