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おれは、ヨウの小指をぎゅっと握ったまま、うつむく。
そんなおれを、ヨウが、小さく呼んだ。


「……ユキ……、」


頼むよ。
今だけ、少しだけ、こうさせていて。

その時、ゴオッと音をたて、寂れたホームに電車が滑り込んできた。
汗ばんだ体を、風が撫でる。


言わなきゃいけない。さよならの合図を。
おれたちが、それぞれの夢を追うために。


「……ヨウ…っ」


知らず知らずのうちに、呼んでいた。
ヨウは、何も言わないかわりに、おれの小指を握り返す。そんな反応さえ、愛しくて。
泣いちゃだめだ。
そう思うのに、思いと裏腹にどんどん涙腺はバカになっていって。

風を巻き込んで、電車が、止まる。
少しの間を置いて、扉が開いた。


言いたくなんかねえけど、言わなきゃ。
おれからは、どうしたってさよならは言えない。
だから、そのかわりの言葉を今。



「………ゆびきった」




ぱっと離れるのが正しい指きり。
でも、おれたちはお互い、ゆっくりと指を離した。
体温が、離れる。
おれは無理矢理に笑う。


「……電車、きたしよ」


ヨウが珍しく、小さな声で言った。
斜め横にあったキャップのツバを前にして、深く被り直す。おれは頷く。


「ああ」
「……行かなきゃ、いけねえから」
「ああ」
「……行くな?」
「…………ああ。行ってこいよ」


声が震えたのは、聞こえなかったふりをしてくれ。
うまく笑えてないのは、見えてないふりをしてくれ。


「………」


ヨウは何か言いたそうに口を小さく動かしたけど、きゅっと唇を結んでしまった。
深く被ったキャップのせいで、表情はよく見えない。
そしてヨウは、下に置いていたショルダーバッグを、肩にかける。おれは拳を握った。


「……元気でな」


俯いたまま、ヨウは言った。


「ヨウもな」
「無理すんなよ」
「ヨウもな」


さっきおれが言った言葉に、ヨウの言ったような言葉を返す。
ヨウはうっすら笑った。その手の中には、向日葵。


「……約束、守れよ?」
「……ばーか。俺が約束破ったことあるかよ?」


おれが言えば、ヨウは笑った。
うまく笑えてなかったのは、気のせいだろう。


「……それじゃあ、そろそろ時間だから」


もう、電車が出る。


「……ああ」


ヨウは、向日葵を少し揺らした。
そして、キャップをとり。


「……!」


固まるおれに、ヨウは笑う。
やっぱ向日葵みたいに、でも、悲しそうに。
泣きそうな笑顔で。




「じゃあな、ユキ」




息が つまる。
ヨウは、きゅっと唇を結びくるりと踵を返して、電車に乗り込む。
おれはただそれを見ていた。
ゆっくり閉まる扉。
おれを見たまま、笑うヨウ。


「……ヨ、ウ」


かわいた声で、呼ぶ。
走り出す電車。おれは、電車の横を歩き出した。
扉の向こうで、ヨウは向日葵を抱えたまま、笑っている。

でも、その肩が小さく小さく震えてることに、おれは気づいてしまった。


「ヨウ……!」


歩きでも並べるほどゆっくりだった電車は、速度を徐々に上げていく。
漫画やドラマみたいに、それに合わせておれも早足になり、小走りになり、走り出す。


「ヨウっ」


必死で並ぶ扉。ヨウは、まだ笑う。
「もういいから。追いかけんな」、そう言いたげに、ふるふると首を振るヨウ。


ふざけんなよ。
俺は何度も繰り返す。ふざけんな。
止まるなんて、そんなこと出来ると思ってんのか?
こんなにお前が好きなおれに。
電車内の奴らがこっちを見ているけど、気にならなかった。


「……っ…!」


スピードが速くなり、名前を呼ぶ余裕がなくなる。
少しでも近くにいたくて、おれは全力で走った。


伝えられてないのに。
伝えることを躊躇っていたのは、自分なのに、伝えたくて、伝えたくて、おれは走った。


「……ッ、!」


徐々に離れていく、おれとヨウ。
それが嫌で、おれは死ぬ気で走る。
けどすぐに、ホームの先端近くに来てしまった。
あそこに行ってしまったら、もうヨウを、追えない。





















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