03
「っ、なん、」
「、えっ?」
さわりたい、だけどダメだ、そんなことを悶々と考えていたら、先輩がいきなり声をあげた。
はっとすると、先輩が揺れた瞳で俺を見てる。
びっくり、してる顔。
なんでびっくりしてるんだろ、今、体もびくってしたけど。
(……ん?)
そこまで考えて、視界の中のある光景に気付く。
俺の指が、先輩の頬に触れて、いる。
「っ、あ! ご、ごめんなさい!」
慌てて手を引いて、座り込んだ体の背中に隠した。
触れたいさわりたい、そう思っていたら本当に触ってしまっていたらしい。
指先に残った低い体温に、燻る胸の奥の熱。
それにはあえて気付かないふりをした。
「あの、えっと、…睫毛、ついてて。そいで、……あの……」
つっかえつっかえしどろもどろになんとか伝える。
先輩の顔を見れない。顔が熱い。
俯いてごめんなさい、ついまた謝ると、先輩が笑った。
「なに謝ってんだ。取ろうとしたんだろ?ありがとな」
「…怒ってないんすか…?」
「なんで怒るんだよ?」
そう柔らかく笑って、ぐしゃっと少し乱暴な手つきで俺の頭を撫でた先輩。
その撫で方がもうずっと前から好きで、その笑顔をもうずっと前から俺は、愛しいと思っていた。
なんだか胸がいっぱいになって、好きだなって気持ちが溢れてとまらなくて、息が出来なくてとまる。
「――せんぱい」
酸欠の時みたいに頭がぼおっとして、何も考えられない。
「俺……、」
――先輩に触りたい。
そう言おうとしている自分に気付いて(気付いてしまって)、俺は慌てて口を閉じた。
大事にしたいんだろ、大事にされてるって感じてほしいんだろ。
それなら言っちゃだめだ。
そう言い聞かせて。
「俺、なんだよ?」
「……なんでも、ない」
嘘をついているっていう事実が、後ろめたい。
(だってもう嘘つかないって言ったのに)
(、ああ、やっぱ俺、あの約束、守れてないのかも)
だけど素直に事実は言えそうになくて、俺は小さく俯いた。
それでも、先輩が眉を寄せたのは、なんとなくわかる。
「……なんだよ、気分悪ィな。言いたいことあるなら今言え」
「……、なんでも、」
「てめー、それ以上俺に嘘ついたら蹴り飛ばすからな」
「、……っ」
先輩の険を帯びた声と、吐き出された言葉に、胸がつまる。
傷付けた、かな。俺のこと嫌いになった?
唇が震えて、それを隠すように、俺は唇を噛みしめた。
だけど、先輩には、見られていたみたいで。
はあ、と呆れたような苦笑するようなため息。
「……あのなぁ」
「…………ハイ」
「言いたいことお互い全部言えねえんじゃあ、……あん時と、変わらねえだろ」
「……っ」
「だから言えっつってんの、俺は」
「わかりますかー、森下クン」、少し馬鹿にしたような口調で、俺の頭をがしがしとまた撫でる先輩。
目線を上げて先輩を見てみれば、優しい目で、笑っていて。
俺の大好きな、表情。
ああ、好きだな、大好きだな、いとおしい。
そう思ったら、もうとまんなくて。
「あ、の、」
声が震えるのは、きっと胸がいっぱいで上手く息が出来ないからだ。
「俺、……先輩がいやなら、しない、けど」
それくらい、胸がいっぱいで。
「ちょっとで、いいから、」
悲しくなんか、ないのに、
「さ、……さわっても、…いいですか」
涙が、あふれそうだった。
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