部誌提出作
ある魔物達B
・バグウィッチ
アタシはこの世界のバグ。アタシの前に敵は無い。
見た目はただのウィッチさ。でも中身は違う。魔王も勇者も倒せない最強の魔物なんだよ。
どうしてそんな事が分かるかっていうとだね、アタシは生まれた時から別の世界の事を知っているからさ。剣も魔法も無い、発達した文明と機械に支配されている世界の事を。
その世界では強さがステータスウィンドウってのに書かれているらしいんだ。試しにこの世界でもそのステータスウィンドウを開いてみたのさ。アタシに不可能は無いからね。
で、見てみると全ての欄が∞(ムゲン)だった。勿論年の欄も。
この時程ガッカリした時は無いね。アタシってこんなにつまらなかったのか、って。
その時からアタシより強い奴を探すようになった気がする。斬っても死なない、年を取らない、無限なアタシを有限にしてくれる奴を。
――でも、居なかった。居るわけ無かった。
∞以上の物なんてあるわけがない。
色々な人のステータスウィンドウを覗いてみた。レベル、60、47、82、35――…。∞は居ない。
魔王と名乗る友人なら、と思った事もあった。
人型ドラゴン、レベル99。
アタシに近いけれど、同じではなかった。がっかりすると同時にほっとした。人型ドラゴンはアタシと同じ悩みを持っていないから。まあ他の悩みは持ってるけど。
「私が出る。皆隠れさせろ」
人間達が大勢で攻めて来た時、人型ドラゴンは魔物を守るため一人で人間に立ち向かった。部屋にはスライムとアタシも居たけど、スライムは戦力になるわけないし、アタシは協力出来なかった。
しないんじゃなくて、出来ない。アタシが手を出せば運命がねじ曲がり世界が崩壊するから。バグってのはそういう物さ。
そんな訳で人型ドラゴンは一人で戦った。人間達は次々とくる。中には魔物の血の入った人間も居る。それに気がつかないで人型ドラゴンを倒そうとするなんて滑稽だね。
「フフ、人が蟻のように列をなして人型ドラゴンと戦っているよ」
「人型ドラゴン、大丈夫ですかね」
「大丈夫さ。何てったってレベル99だし」
「レベル?」
「途方も無く強いって事さ」
アタシがそう言ってやってもスライムは不安げだった。
そしてスライムの不安は的中し、人型ドラゴンに勇者が襲いかかりスライムが盾になった。
「ぼ、くの…夢…ぜった、い…叶…えて、よね……」
そう言ってスライムは跡形も無く消えてしまった。
「スライム……」
その呟きはアタシだったか人型ドラゴンだったか。二人とも目の前の事実に呆然としていた。
「隙有りだっ!」
アタシ達の沈黙を破ったのは勇者だった。再び人型ドラゴンへと斬りかかってくる。
アタシはこれほど手が出せない事を悔やんだことはない。世界が崩壊するのなんて気にしないで勇者を殺してしまおうか、そう思った。でもアタシが動くよりも先に人型ドラゴンが動いていた。
無言で相手をしていた人間を吹っ飛ばし、勇者の首を掴んでねじ伏せた。
「……貴様等、私が我慢出来なくなる前に立ち去れ!」
アタシは人型ドラゴンが人間を殺すのだと思っていた。親友のスライムが殺されたっていうのにどういうつもりなのか。
「アンタ、こんな時でも人間を殺さないのかい!?どんだけ甘いのさ!」
「それは私が決める事だ」
「アンタが決める事じゃない、仇を取るか取らないか皆が決めることだ!」
口論している間に人間達が逃げていく。
「スライムは人間も含めた全てが幸せになる世界に同意していた。倒したらあの人間達はそれに含まれないんだ」
言葉と裏腹に辛そうな表情の人型ドラゴンにアタシはもう何も言えなかった。
協力せず見てるだけの奴が口を挟む問題じゃないって分かったから。
アタシの幸福?
フフ、アタシを倒してくれるヤツが現れることさ。
幸福ってのは心が満ち足りる事、そういう物さね。
――そんな奴、バグで無い限り永遠に現れないだろうけどね。
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