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部誌提出作
ある魔物達C
・赤い鎧の勇者
誰にも言えない事がある。
実は俺は魔物と人間のハーフだ。
 既に両親が居ない今、俺以外にこの事をしる人間は居ない。魔物は分からないけど。見た目も人間と全く変わらず魔物の気配も薄い、それでいて力だけは魔物並みなんてなんて冗談だろう。
 両方の仲間であるはずの俺は人間の味方をし続けた。人間として生まれたからそれは当然だったけど。
「や…やめて、ください……」
 拙い言葉をだいぶ話せるようになった頃、俺は村全体のスライム狩りに連れて行かれた。何でも戦士になるための訓練らしい。
 俺も一匹のスライムと対峙していた。そんな時にその声は聞こえた。
「……え?」
「こ、殺さないで……」
 その声はスライムから発せられているものらしい。
「ぼ…僕は、人間を襲ったり……しませ、」
 そのスライムの言葉の続きを聞くことは出来なかった。村人に倒されてしまったのだ。
「大丈夫だったか!?」
 村人の言葉で魔物の声は俺以外には聞こえないのだと直感的に分かった。だから何も言わず首を縦に振った。人間が魔物を憎んでいるのはこの討伐からして明らかだし、子供でも分かった。
 俺はスライムの助けを求める声を聞かなかった事にした。


 二十歳を過ぎた頃だろうか、魔王城への討伐命令が下った。
 討伐隊の数は万にも及ぶかという人数、リーダーの勇者は魔物として見ると最悪、人間として見ると人が悪い人間だった。
 そして今、その勇者を筆頭に俺達は魔王の部屋で魔王と戦っていた。他の人間が戦っているため俺は部屋の隅で待機中。人間からみれば俺達以外は魔王しか居ない。
 ……だが。
「……お前達、そんな所に居ると人間に見つかるぞ」
 人間達の間に魔物が居た。強いとは言えない種類のウィッチとスライム。大人になっても俺は人間の味方で、魔物の声は聞こえないふりをしていたが、流石に見ていられず、ぼそぼそと魔物達に話しかける。
「あー?アンタには関係ないね」
 せっかく注意してあげたのに余計なお世話だとウィッチに睨まれてしまった。
「もっと小声で喋れ」
「……大丈夫です」
 めげずにまた言うとスライムがおずおずといった風に口を挟む。
「ウィッチさんの気配消しの魔法は強力ですから」
 そう言いながらも小声で喋るスライムの姿は子供の頃のあのスライムに似ていて少しだけ胸が痛んだ。
「そうは言ってもバグ……いや、混ざり物も居るしねぇ……。ご忠告を素直に受け取ってアタシらは避難しようか」
 そう言ってウィッチは意味ありげに俺を見ると、スライムと一緒に魔王の後ろへと移動していった。魔王の後ろなら大丈夫だろうと少し安堵した。
「……え?」
 今、俺は何を考えた?
 魔王の後ろなら倒されないって?
 何故安心した?
 それは……魔王が倒されないって事じゃないのか?
 そこまで考えて俺は考えるのを止めた。
 俺は人間の味方だ。魔物は倒さなければならない。
 魔物の肩を持つような事はしない。そうしないとあのスライムのように俺が人間に倒されてしまうから。
 それが全て。俺の戦う全て。
 だが、それが揺らぐ。
「人型ドラゴン!」
 さっきのスライムの声がして、スライムが斬られる姿が見えた。
「スライム!」
 魔王が叫ぶ。
「ぼ、くの…夢…ぜった、い…叶…えて、よね……」
 スライムはあの時と同じく何も無かったかのように消えてしまった。
 スライムが魔王を守った?違う、魔王が操ったんだ。魔物は倒されるべき生き物だから。……じゃあ何故魔王はあんなに悲痛な顔をしているんだ?
 魔王は怒る。暴れる。しかし人間を逃がした。
「……貴様等、私が我慢出来なくなる前に立ち去れ!」
 魔王は人間を倒そうとはしなかった。
 あのウィッチが怒っているのが見えたが、俺も皆に連れられ魔王城から逃げた。


 魔王城から帰ってからもあの魔王の事、スライムの事、ウィッチの事が忘れられなかった。あの魔王の表情、ウィッチの動作、スライムの行動。今まで見ないふりをしていた魔物達と重なる。人間らしい魔物達。
 魔物だって人間と同じ考え方をする。本当は分かってたはずなのに、俺は魔物と話せるのに、今まで見ないふりをしてきた。姿が違うだけで彼らも人間と言えるのではないだろうか。
 ……自分の考えが分からなくなる。
「……だから確かめるために俺と戦ってくれ」
 俺は魔王にそう言った。
 無謀だとは思ったが、俺は一人で魔王城に行き戦いを挑むことにした。
「……いいだろう」
 魔王には何のメリットも無いこの頼みに魔王は迷う素振りもせず了承した。部屋の隅に居るウィッチを見ると「やっぱり甘いね」なんて呟いていた。
「それでは、始めよう」
「その前に一つだけ聞きたい」
 自分の考えが揺らぎ、迷いながらも思った一つの疑問。
「魔王、いや人型ドラゴン。お前は何がしたいんだ?」
 人間と同じく考える事をするならば理由があるはずだ。それが気になっていた。
「世界征服だ」
 俺も魔王も動かない。
「世界を征服して……人間もスライムも平和に暮らせる世界を作りたいんだ……」
 スライムとはあの時の斬られてしまった優しいスライムの事だろうか。
「私は人間を倒すつもりは無い。魔物が倒されなければいいんだ」
「……分かった。じゃあ、頼む」
 俺は剣を抜く。この時点で俺の心はほぼ決まっていたが、純粋に魔王と戦いたいと思っていたし最後の一押しが欲しかったのだ。魔王もそれを分かってくれているのか、一度頷き音も無く剣を出現させる。
 一瞬の間の後、俺と魔王の剣が交わる。俺達は同時に後ろへ飛び、数度斬り結ぶ。剣が交わる度にギィン、と金属音が響いた。
 それが何回続いただろう、飛び退いた後暫く睨み合いが続いた。お互い手を出せずにいた。
「……くしゅっ」
 それを破ったのはウィッチのくしゃみだった。
 先に我に帰ったのは俺の方だった。
「うおおおおおーーーっ!」
 剣を構え、魔王へと突進する。
 やけに時間の流れが遅く感じた。……いや、本当に遅くなっている?
「アタシはバグだから」
 いつの間にか魔王の前に立っていたウィッチが言った。
「バグだから死なない。バグだから何でも出来る。でも、バグだから何かすると世界が崩壊するんだ」
 ゆっくりと動く世界の中でウィッチだけが普通に動いて魔王を庇うように背を見せた。
「たとえ世界が崩壊するとしても、友達を守りたいと思うのは駄目かい?」
 剣に何かが、刺さる音がした。


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あきゅろす。
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