部誌提出作
ある魔物達A
・スライム
僕は何の変哲もないただのスライム。
集団で暮らしていて、初めて冒険に出る勇者でも簡単に倒せてしまうような弱っちい存在。
そんな種族だからかある日沢山の人間達がやって来て次々と僕達を倒していった。中には赤い鎧を着たとても小さな子供まで居た。
仲間達は二、三撃ですぐに死んでいった。
僕は岩の陰に張り付いて隠れて居た。
その時の感情は――恐怖だった。
すぐに死ぬからといったって斬られれば物凄く痛いし、感情が無い訳じゃない。むしろすぐ倒されるから死の恐怖が大きい。僕は弱いから皆が倒されるのを黙って見ているしか無かった。
……それからどの位経っただろう、人間が去っていった。おそらく僕以外の仲間は皆倒されたのだろう。
「…………」
死にたくない。
今まで生きてきた中で一番強くそう思った。
僕は強くなれないし、生き延びるには誰かに守って貰うしかない。そう思った僕は魔物最強だという人型ドラゴンの所へ行った。
「お願いします。僕を此処に住まわせて下さい」
僕の願いは拍子抜けするほどあっさり叶った。
人型ドラゴンは勇者が来ても殺さなかった。
「どうして何も言わない?人間が憎くは無いのか」
人型ドラゴンは自分が勇者を殺さない事を棚にあげて不思議そうに尋ねた。
「だって人間は安全に暮らしたいから魔物を倒そうとしているんでしょう?」
僕は呟くように言った。
「だからしょうがないんです」
正直人間が憎いなんて考えもしなかった。
僕は生きられればそれでいい。
多分人間も生きたいから、自分に危害を加えるかもしれない魔物を倒そうとしているのだろう。どちらも生きたいと思っているのだ。それは本能なのだろうから、憎む訳が無い。……それを言うなら自分まで憎くなってしまう。人型ドラゴンを利用している卑怯な自分に。
そのやりとりをした頃から人型ドラゴンは世界征服を目指すようになっていた。
僕は死なない世界よりも平和な世界に少しだけ憧れた。
短い間だけど人型ドラゴンを見ていて、人型ドラゴンなら僕を幸せにしてくれるかもしれないと思った。生きる希望も死にたくない希望も平和の希望も全てを託してもいいと。
「人型ドラゴンは何処までいったら満足ですか?」
「全てが幸せになるまでだな」
「それなら僕も幸せになるんですね」
「当たり前だ。お前は真っ先に幸せになって貰わないと」
人型ドラゴンは待ちきれないとばかりに嬉しそうに笑った。
僕も笑った。
「報告します!勇者を筆頭に大勢の人間達が次々と魔物を倒しています!」
……どうして僕達の邪魔をするんだろう。人型ドラゴンは人間も含めた全てを幸せにしようとしているのに。昔は仕方ないと思っていたのにそんなことを考えていた。
「私が出る。皆隠れさせろ」
人型ドラゴンがそう言った。きっと前みたいに叩き出してくれるだろう。
前みたいに……。
……人間が沢山いる。
人型ドラゴンが倒しても倒してもキリがない。人間はどんどん出て来る。
それなのに、ウィッチは見てるだけで何もしてくれない。僕は弱いから見ている事しか出来なかった。見るだけしか。
一体どれくらい人間を倒したのか人型ドラゴンは傷付き、羽織っていたマントはぼろぼろだ。それでも周りには気絶した人間しか居なくて、目はしっかりと何処かを見ている。
「ひ、人型ドラゴン……」
その時、ふらりと人型ドラゴンがよろけた。
「魔王!覚悟しろ!」
そんな時に限って今まで見ているだけだった勇者が人型ドラゴンに斬りかかってきた。人型ドラゴンは避けられない。
なんて卑怯なんだ!僕の希望が…やられてしまう!
「人型ドラゴン!」
どしゅっ、と粘りのある音がして僕は千切れかけた。
目の前には人型ドラゴンの驚いた顔。僕は人型ドラゴンを守れたのだ。
「スライム!」
「ぼ、くの…夢…ぜった、い…叶…えて、よね……」
全身が痛い。このままでは死んでしまう。
でも、何故か死の恐怖は無かった。
だって、人型ドラゴンが僕を幸せにしてくれるんだから。
その人型ドラゴンを守れて――
僕は幸せだよ。
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