ルパンの恋人U
8
ででででで出やがったな!
銭形め!!
久しぶりに見たその男は、相変わらずいかつい体つきだが、涼しげな顔にはニッコリと笑みを浮かべている。随分前に会ったきりだが、余裕の笑みを浮かべたところは少しも変わらない。
胸に巻かれたままの拳銃ホルダーが、仕事中であることを示している。
鍛え上げられた肉体に隙のない身のこなしは、警官よりも、傭兵に見える。
勤務中に何をしてるんだ、この、とっつァんは。一市民として、目の前の警官を、警視庁に密告してやっても、誰にも文句は言われないよね?
「やあ、きみ、久しぶりだねィ。確か、ヤッチンだよねィ?」
お前にヤッチン呼ばれたないわッ。
俺が黙り込んでいると、ますます相好を崩すところが不気味だ。
「この子の親友の子だよね?すまない、名前は忘れた。俺、仕事で覚えた名前はすぐに忘れることにしてるのよねィ」
銭形は、目を合わせてくるルパンに、「声を聞いたら、どうしても会いたくなった。明日からは当分会えない」などと、低く囁きながら、その腕を取って、自分の方に引き寄せた。
外灯の下、ルパンを俺から隠すようにして、俺とルパンの間に割り入る。
俺は、思わず身構えた。
何だ、貴様、俺を殴ろうってか?つうか、顔は殴らないで。俺の取柄、ホントは、顔だけだから。金持ちなのは親だし、頭も性格もホントは悪いから。
しかし、銭形は、ニッコリと吸い込まれるような笑みを寄こすだけだった。ちらりと腕時計に視線を向ける。
「15分だけ、この子、貸りるねィ?」
愛想のいい笑顔に、敵愾心をくじかれる。この男、爽やかな笑顔でもって、男も女もみんな自分の味方にするつもりか。拳銃に加えて、ホント、良い武器持ってるよね。でも、俺の親友は渡せないからね。
銭形は、耳を疑うようなことを、ニッコリと告げてくる。
「お詫びに、大人のキスを見せてあげるねィ?」
そういうと、暗がりにルパンを引き寄せた。屈みこんで、こともあろうか、俺の目の前で、ルパンの唇に唇を寄せた。さっきまで俺と合わさっていたその唇に。
一瞬、抵抗するふりを見せるルパンだったが、しっかり抑え込まれ、身動きできない。いくらルパンでも、銭形みたいな男に抑え込まれたら逃れられる訳がない。
胸を押し返そうとしているルパンだが、次第にその両手から力が抜けていく。キスされるがままに、体を預け始める。
ほんの少しの唇の触れあいで、後姿のルパンは、すっかり体の自由を奪われていた。銭形が、唇の当たる角度を変えるたびに、ルパンの体がビクッと跳ねる。ついには、ルパンの背は、ビクビクと小刻みに波打ち始めた。
静かなキスは、壮絶なキスであることが、ルパンの後姿だけでわかる。瞬く間に、すっかり力の抜け切ったルパンは、反り返った背を銭形に抱えられながらもキスを与えられ続け、やがて、淫らに痙攣し始める。
キスなのに、そこら辺のAVよりもよほど淫猥だ。こっちまで火照ってくる。
唇が離れても、ルパンは、銭形に抱えられたままだった。一人では立てなくなっているらしい。銭形の胸に顔を埋めて、ぐったりともたれかかっている。
すげえな。
つうか、とっつァん、ルパンに、毒でも流しこんじゃったの?
たかがキスなのに、そこまでなるか?ルパンの奴、いろいろやられすぎて、虜にされちまってんじゃね?
呆気にとられる目の前で、銭形は、腰の立たないルパンを抱きかかえて、道路の脇に止めてあった自動車の助手席に乗せた。そして、ニッコリと俺に笑みを寄こして、去って行く。
俺は、呆然と、去りゆく自動車を見送るしかなかった。
つか、何、コレ!?
俺、まんまと親友を拉致されちゃった。
つか、それ、パトカーだよね!?
何、私用に使ってんだよ!
つか、あんた、キスしている最中、ずっと俺に視線を寄こしていたよね!?
そうやって、俺との違いを見せつけてたよね。
俺は、親友を連れ去っていった男の不敵さに、唇を噛むしかなかった。
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