ルパンの恋人U 9 畜生。俺とあの男とでは、格段に違う。 銭形の、場数を踏んだ身のこなし。為すことすべて、余裕たっぷりなところに、猛然と腹が立つ。男としての度量の差を明白に見せつけられる。 あんな男を敵に回すには、かなりの覚悟が要りそうだ。 長々と一つ溜息が出た。 俺、このまま、ルパンを奪われちゃうのかな。 空を見上げると、星が出ていた。透き通るような冷たい星空。秋は過ぎ去り、とっくに冬が来ていた。そこには、凍てつく冬の空があるだけ。 ………さて、帰るべ。 何か、チョココロネの顔が見たくなっちゃったな。はあ、俺ってば、つらい時に母親の顔を思い出すなんて、まだまだガキだね。赤ちゃんだね。 しかし、こういうときに抜けているんだよね。さっさとその場を去ってしまいたかったが、携帯をこたつの上に置いてきたことを思い出した。 待ちたくはないが待つしかなく、煙草を数本吸ったところで、パトカーが静かに戻ってきた。だから、それ、公用車の私的流用だからね。犯罪だからね。パトカーなら信号無視できる、ラッキー、とか考えて使ってるよね、絶対。 自動車から降り立つ銭形は、俺に気づくと、「あれ?ごめんね、ずっと待っていてくれたんだね」と、やはり余裕の笑みを浮かべている。 いや、携帯忘れただけです、なんて、間抜けなことは死んでも言わない。 助手席を覗き込むと、ルパンは、目を閉じてぐったりしていた。 うわ、こいつ、死んだの!? 「あんた、こいつに、何したんだよ。乱暴な事でもしたのかよ」 俺は慌てて、助手席のドアを開けようとしたが、銭形に制される。 銭形は、ニッコリと微笑み、俺をどかして、助手席を開けた。ルパンを軽々と抱きかかえる。 決して小柄じゃないルパンだが、そいつに抱えられると華奢に見える。ああ、そういえば、前にも、こんなことあったような気がする。 「悪いね。大事なものは誰にも触ってほしくないのよねィ」 何、言っちゃってるの?俺にとっても、こいつは大事なんだけど?こいつ、お前のものじゃなくて、俺のものだと思ってるからね、俺は。 「何で、そんなになってるんだよ。あんた、何やらかしちゃってくれたの?」 「心配無用だ。めくるめく官能の果てだ」 って、それって。 ししししし失神!? ニッコリ笑いながらとんでもないこと言うよね、このとっつぁん。 マジで、失神?たったの15分の間に?着衣も乱さずに?つか、パトカーで○ー○ッ○○? そういえば、ルパン、髪の毛が汗ばんでる。どんだけ激しい15分間だったんだ。 非常識すぎるよね、楽しそうすぎるよね、それ。 このとっつァん、想像絶するテクニシャンだよ。つか、もうマジシャン。 「いつものことだ」 だから、ニッコリと、とんでもないことばかり言わないでよね。毎回失神ってことかよ。天才マジシャンかよ。俺も、男として、どうすればいいかわからなくなるよね?亀仙人やめて、エロ仙人のところで修行でもしなきゃ、って気分になっちゃうよ? [*前へ][次へ#] [戻る] |