ルパンの恋人U
5
畜生、電話の主は、あいつか!
こいつをまんまと手込めにした、あの野郎か!
ルパンを盗み見ると、いつもの静かな顔つきだった。親友のいる前で、顔を赤らめもせずに平然と恋人に愛を囁くなど、大人っぽいというべきなのか、あるいは、無邪気なガキのようだというべきか。それとも、何事にも平然としているルパンならでは、というべきか。
俺は、起き上がった。せっかく苦労して貯めたアイテムを奪われつくしてしまったが、そんなこた、もうどうでもいい。ゲームにはやり直しがきく。が、現実は待ったなしだ。
「今の、銭形のとっつァん?お前ら、本当に、恋人同士なの?何か素っ気なくね?」
アツアツじゃないなら、横取りしちゃうよ?頭の中で、組み立て始めた権謀術数をひた隠しに、探りを入れる。
「おいおい、変な呼び方するなよ。何だよ、銭形のとっつァん、って」
「お前ら、絶対、恋人同士に見えないよね。お前、とっつァんなんかと付き合わないで、普通の女の子でいんじゃね?ルパン、女、好きでしょ?」
ほら、特に、おっぱいとかさ、好きじゃん。それに、おっぱいも、おっぱいとかも、好きじゃん。要するに、お前、一人の人間である前に、一人のおっぱい星人じゃん?銭形のとっつァんに、おっぱいある?ないでしょ?ぶ厚くて硬い胸板しかないでしょ?
「好きになっちまったんだから、しょーがねーだろうが。もううるせー」
あらら、少し、機嫌が悪い。もしかして、今の電話が、堪えているのか?銭形からのドタキャンが、堪えているのか。まさかのまさかね。地味を装うワルのルパンが、恋に狂うなんてありえない。大人しい面して計算高いルパンに、恋なんて似合わない。銭形を利用して、何か企んでるとか、そういうことだよね?
「お前、そろそろ帰れよ。お前の母ちゃんに言っといて。お土産ありがとうって」
何よお?俺を追い出したいのお?マジでちょっと機嫌悪いね、珍しい。
仕方ない、今日のところは、退散するか。
俺は、のそのそと、起き上がった。ゲームを片づけ始める。見れば、ルパンも、コートを肩に引っかけている。
「俺も出る。何か疲れた。酒でも買いに行く」
「ルパンってば、やけ酒?とっつァんにドタキャンされたのが、そんなにショックう?」
別に、と、いつものように素っ気なく答えるかと思えば、驚くことに、内心を吐露する。
「まあな。あいつ、忙しいから仕方ない」
唇に端に笑みを浮かべているが、寂しそうに伏せられた目に、小さな溜息。そういえば、こいつ、以前より、感情を表に出すことが多くなった。銭形の影響か?
こうやって、ルパンは、俺の知らないルパンになっていっちゃうのか?あんな野郎のせいで?
俺ァ、いつでも踏ん張って肩肘張り続けるお前の方が、好きだよ?何があっても、平然と構えているお前のほうが、確実に好きだよ?自分の弱さを隠し込み、ひたすら強いだけのお前の方が、断然好きだよ?
以前のお前の方が、絶対に、格好良かった。切れ味のいいナイフを隠し持ち、平然と何でもやってのけるワルのお前の方が。
お前、もしかして、あいつには、弱っちい姿を見せちゃったりしてるのか?
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