ルパンの恋人U
10
何故か、アパートの鍵を自分のポケットから取り出したとっつァんは、中に入ると、まっすぐにルパンの部屋に連れて行き、ベッドに横たえた。
慣れた様子で、家に上がり込むなんて、もしかして、ママンも公認の仲かよ。
「顔を見るだけのつもりが、きみに嫉妬して、いつも以上に激しくしてしまった。きみが羨ましいね、親友のきみが。この子は、きみのことをとても大事に思っている。多分、俺よりも。仲間を大事にする子だからね、この子は」
とっつァんは、ウサギ柄のハンカチを取り出し、ルパンの額を拭いている。どこで拾ったんだよ、その気色の悪いハンカチ。
恋人の顔を見下ろす銭形には、情交の後の気だるさと満足感が漂っていて、目もくらむような色気がある。大人の男のふしだらな魅力に満ちている。
こちらに向くと、口元は笑んでいるが、隠しきれない嫉妬がその切れ長の目に宿っていた。
「どこまで、こいつに本気なんですか?どうせ、女たらしのくせに」
俺は騙されないよ?このとっつァん、たらしの匂いが染みついてる。好きでもない女を平気で抱ける男だ。同類の俺には、わかる。
「大人の事情に口を出すのはやめたほうがいいぜ?」
って、ニヤリと笑むのは、やめろ。たらしを否定しろよ、きっぱりと。事情って、どうせ、下半身事情だよね?
「きみは、この子の本当の姿を知らない。きみではこの子は手に負えない」
銭形は、立ち上がると俺を見下ろした。
何がだよ。本当の姿って、どんな姿だ?もしや、乱れまくっている姿とかか?喘ぎに喘ぎまくっている姿か?手に負えないくらい激しく乱れ狂うのか?げ、想像してしまうじゃね。
「言っとくが、この子は、喘がない」
つか、あんた、今、俺の心読んだ?
「喘ぎたくなったら、シーツを噛んで我慢する」
って、それ、喘ぐより、やらしくね?
「シーツがない時は、俺の指を噛ませる。じゃないと、後で恥じらって、口をきいてくれなくなる。ホラ」
銭形が突きだした手を見ると、人差し指に歯形がついてる。
お前ら、激しいな。
「喘がないが、くねる」
って、喘がないだけで、やっぱり、悶えまくってるのかよ、こいつは。
「こっちが、焦るくらい、くねる。それを抑え込んで20回くらい動くと、こうなる」
親指で、ルパンを指す。具体的に、失神させる方法を俺に教えてくれてどうもありがとう。ふむふむそれが、マジックの種明かしね。
「俺のならねィ」
最後に、自慢だよ!自分のものをさりげなく、自慢したよ、このとっつァん。爽やかな笑顔で、自慢しやがったよ。お前にしかそんなこと出来ないってか。
つか、ルパン、銭形仕様に改造済みな体にさせられてるカンジィ?
「どうせ、俺にはかなわない。やめとけ」
不敵な笑みを寄こしてくる。
何、偉そうに、と思ったが、それ以上、言い返せない雰囲気があった。
口元は笑んでいるが、翳りのある目は、少しも笑っていない。
銭形は、鳴り出した携帯を取り出すと、急に仕事の顔付きになった。後は頼むとばかりに目線を寄こして、足早に立ち去って行く。
忙しいなら、来るな。さっさと殉職しろ。
恋人を無防備な状態で残していくなんて、あんたも、余裕たっぷりだね。俺がこいつにキスしたの見たくせに。
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