Snatch成長後編BL(完結) 10コスプレイヤー水野 ◇◇◇ 鈴子の事はテツが話をしているようだ。 松本は子供が出来た事を聞き、若干難色を示したらしい。 テツが『おめぇ、まさか始末させる気じゃねぇよな? 』と睨みつけて言ったら、松本は苦笑いしながら『いや、これは俺と鈴子の問題だ、お前には関係ねぇだろう』と言った。 もうそこまで聞いて……嫌な予感あり過ぎだったが、案の定テツは『いーや、霧島の一員なら、他人事じゃ済まされねぇ、おい、籍を入れてガキを育てろ、さもなくばぶん殴る』と、胸倉を掴んで脅したらしい……。 やっぱりそうなった。 松本は『おいおい、ちょっと待て、そうムキになるな』と言ったらしいが、テツがひくわけがない。 散々ごねまくった挙句、籍を入れる事と子供を産む事を約束させたようだ。 まぁー、ゴリ押し感満載だが、その位強く言わなきゃあの2人は承諾しそうにない。 ひとまず、終わりよければすべてよしだ。 そうする間に土曜日になった。 午前10時30分。 水野より先に竜治がやってきた。 「へへっ、ちょっとだけお久しぶりです」 竜治の顔を見たら、つい笑みがこぼれる。 「おお、だな、水野はまだ来てねぇのか? 」 「ええ」 「おう木下、上がれ」 テツが後ろからやって来て声をかけた。 「おお、それじゃ、邪魔するぜ」 竜治は部屋に上がってきたので、ソファーに座って貰い、俺は珈琲メーカーを作動させに行った。 テツは洗濯機を回しに行ってすぐに戻ってくると、竜治の向かい側に腰をおろした。 「ふう〜、ここんとこ叔父貴んとこに行かされてたからよ、気ぃ使って疲れたわ、おお、そういや田宮は呆気なく死んじまったな」 竜治はポケットからタバコを出して口に咥え、田宮の事を言って火をつけたが、何となくお疲れモードだ。 「ああ、そんなもんだ、あいつは最後まで裏切り者だったんだろう、裏切り者にはおあつらえ向きな死に様だ、で、叔父貴んとこは何しに行ってたんだ? 」 「ああ、あのな、実は肝臓癌でもうあんまし生きられねぇ、アレだ、緩和ケアってやつをやってる、ま、俺らみてぇな稼業は酒浸りだからな、癌じゃなくても肝臓をやられる奴は多い、矢吹、おめぇもあんまり飲み過ぎるなよ、テキーラはよくねぇ」 「そうなのか、肝臓癌か……、そいつは大変だな、俺はまあ〜大丈夫だ、そんなに飲んでねぇよ、叔父貴はいくつになる、60はいってるか? 」 「ああ、60過ぎだ」 「そうか……、じゃ、余命がある間は楽しくやらなきゃな、いずれは皆死ぬんだ、気分よく散った方がいい」 「それがよ、我儘ばっかし言う、あれが食いてぇって急に言い出して、それがその辺じゃ手に入らねぇようなもんでも、言い出したらいう事聞かねぇんだ、だからよ、皆で手分けして探してくるが、そんな事を四六時中言われたらたまったもんじゃねぇ」 「ははっ……、ああ、ま、死にゆく人間だ、おおめにみるしかねぇな」 2人は叔父貴って人について色々言ってるが、俺は丸椅子に座って遠目に聞き耳を立てていた。 叔父貴というのは、田上組長と盃を交わした弟分にあたる組長って事だ。 田上組長の弟的な親分とは言っても、親分には違いないので、世話をしたりするのは気を使うだろう。 ヤクザは擬似的な家族を形成してるから、冠婚葬祭から儀式まで、なにかと付き合いは大変だ。 珈琲が出来上がったのでカップを出してついでいった。 トレーに乗っけてテーブルに運んだが、多分食わねぇと思いつつ、一応チョコレートを皿に乗せて、それも一緒に運んだ。 「珈琲どうぞ、チョコも」 「おお、わりぃな、へへっ」 先に竜治の前にカップを置いたら、竜治は表情を緩ませてニヤついた。 「はい、テツも」 「ふっ……、ああ」 次にテツの前に置いたら、竜治を見てニヤリと笑った。 呆れているのかなんなのか……笑った意味はよくわからない。 最後に自分の前に置いたら、ピンポンが鳴った。 「水野さんだ」 カオリはたまーに来る事もあるが、やっぱり竜治と顔を合わせづらいらしく、大抵水野だけがやってくる。 「おう主役登場か、よっしゃ」 テツは張り切って隣の部屋に向かったが、俺は玄関に行ってドアを開けた。 「おお、来たぜ」 待ちに待った水野の登場だ。 「ぷっ……、水野さん、みんな待ってました」 テツが何を出すか……想像したら吹きそうになった。 「おい、なに笑ってる、なーんか嫌な予感がするな」 「あの、どうぞ」 水野は怪訝な顔をしたが、とにかく上がって貰った。 「ああ、わかった」 「お〜、水野、はやく来な」 竜治が手招きしている。 「ああ、なんだ、そんなにターザンが見てぇのか? 」 水野は微妙な笑みを浮かべて言うと、竜治の隣に座った。 「あ、水野さんも、珈琲入れてきます」 珈琲はまだ珈琲メーカーの中に余ってるので、それをカップに入れてチンしたらいい。 「あっ、だったらよ、紙袋出しといてくれ」 水野はやる気満々だ。 「はい、わかりました」 カウンターへ向かったら、テツが小さな袋を持ってソファーの方へ歩いて行った。 あの中にはきっと……。 期待は高まるばかりだ。 「水野、あのな、ターザンよりこっちを着ろ」 テツはソファーに座るやいなや、鼻息荒く袋を差し出して言った。 「あぁ"〜? 矢吹……また変態チックなやつだろ、まったく〜、わざわざ用意するか? 」 水野は文句を言いながら袋を探って中身を出した。 「ん〜、なんだこりゃ」 出てきたのは赤と黒の布だが、やけに小さい。 「ほお〜、こりゃまたエグいやつを調達してきたな」 竜治にはなんなのかわかるようだ。 「ちょっ……、待て、こりゃ……ゲイ向けの変態コスチュームじゃねぇか」 水野はそれを吊り下げて広げ、唖然とした顔をしている。 「おい水野、嫌とは言わせねぇぞ、俺がおめぇの為に、大枚はたいてわざわざ買ってきたんだからな」 テツは恩着せがましく言ったが、変態の為なら金も努力も惜しまない。 それがテツだ。 「ちょっと待てって、頼んでもねぇのに大枚はたくなよ〜、迷惑だな〜ったく……」 水野は困惑しまくっている。 「水野、矢吹の心意気を買わなきゃ失礼だぞ」 竜治は真面目な顔で説得したが、テツも竜治も、こういった事には全身全霊を注ぐ。 「木下〜、お前な、浮島の仲間だろ? なのに……俺に恥ずかしい格好をさせるのか? 」 水野は不満たらたらだったが、ひとまず珈琲と紙袋を持ってソファーに戻り、紙袋を水野の横へ置いて珈琲を置いた。 「おい水野〜、なに言ってるんだ、俺達は気心の知れた仲だぜ、な、俺らはお前に期待してるんだ、ターザンは後にして、これを先に着てみてくれ」 竜治は水野の肩を抱いて頼んだ。 「くっ……、うぅ〜、わかったよ、着てやる、隣で着替えてぇ、矢吹、構わねぇな? 」 水野は歯を食いしばると、絞り出すように言った。 『期待』この言葉は水野にやる気を起こさせる。 コスプレイヤーとしては、血が騒ぐんだろう。 「ああ、全然構わねぇ」 テツが返事を返したら、水野は隣の部屋に歩いて行った。 「にしても矢吹……、よく色々買ってこられるな」 竜治は感心したように言う。 「おお、行きつけの店がある、そこで買うんだ」 俺もたまに付き合わされるが、入店するのは未だに恥ずかしい。 「行きつけか……、すげーな、俺も嫌いじゃねぇが、さすがに行きつけはねぇ」 竜治はSっ気があるが、道具を多用する事はなかった。 「わけぇ時分からの趣味だからな」 テツには一寸の迷いもなく、趣味だと言い切る。 「ふーん、ま、どんな趣味でもあるだけマシだ、俺もなんか趣味が持ちてぇな」 竜治は羨むような事を言ったが、確かにそう聞いたら、俺も趣味と言えるような物は特にない。 そうするうちに水野が戻ってきたが……。 「うわ……」 パッと見て驚いた。 かろうじて股間が隠れているが、ややもすれば……ナニがコンニチワ〜な状態だ。 「おお〜、エッロ〜」 竜治がテンション高めに口走った。 「似合ってるじゃねぇか」 テツは褒めているが、下半身は紐パンみたいな感じになっていて、サスペンダー状に首のところで吊ってある。 筋肉質な体が殆どまる見えだ。 「いや、あのよ〜、お前らこんなの見て楽しいのか? 」 水野はやっぱりちょっと恥ずかしそうにしている。 「水野、後ろに向いてみな」 テツがリクエストした。 「おお……、こうか? 」 水野は言われるままに後ろへ向いた。 「おおっ、紐パンじゃねぇか、ちょい待て」 竜治は水野を見て急いでスマホを出したが、確かにケツがモロ出しになっている。 「おめぇ、いい体してるな、ケツも引き締まってるしよ〜、俺よりわけぇからな」 テツは水野のプリケツを見て羨ましがった。 「よーし、写真撮るぞ〜」 竜治は立ち上がって水野の傍に行き、スマホを構えて写真撮影を開始した。 水野の変態コスチュームの写真は、今や膨大な数になっていると思われる。 「おお、じゃ俺も便乗するか」 テツも傍に行ってスマホで写真撮影を始めた。 俺はソファーに座ったままだったが、2人は水野に『片足あげろ』とか言って、注文をつけている。 「いや、無理だ、あんまり動いたら……見えちまうだろ」 水野は拒否ったが、心做しか日に焼けた顔がほんのりと赤らんで見える。 それを見たら……妙な興奮を覚えた。 「ふっ、もう見えてるぜ、おいなりさんがよ〜」 テツはニヤニヤしながら指摘した。 「なっ……、マジか? ちょっ、見るな! 」 水野は慌てて股間を隠したが、惜しくも俺は気づかなかった。 「なははっ、いいぜ〜、恥じらうポーズが堪らねぇ」 竜治は嬉々として写真を撮っているが、図らずも水野は『いやーん』なモンローポーズになっている。 「う〜、もう……お前ら……、た、耐えられねぇ! 」 水野は顔を真っ赤にして叫び、隣の部屋に逃げて行った。 プリケツを見送りながら、ちょっと可愛いと思う自分がいた。 「あーあ、とうとう逃げたか……」 テツは残念そうに呟いたが、俺も同じ心境だ。 水野はパンツを穿き、シャツだけ羽織って戻ってきた。 「まったく〜、お前らやっぱ変態だ」 水野は床に座り込む2人に向かって言ったが、紙袋を持って再び隣へ歩いて行く。 ターザンに着替えるつもりらしいが、自分の事は案外わからないようだ。 「ふっ、ターザンも下だけだろ、しかも腰に巻くやつは、言ってみりゃスカートだ」 竜治はターザンにも期待してるらしい。 「へへっ、しかしよ〜、おもしれぇ奴だな」 テツは水野の事を褒めた。 「だろ? あいつな、太鼓持ちみてぇなとこがあるからな、太鼓持ちっつったら媚びへつらうみてぇに思うかもしれねぇが、そうじゃねぇ、場を盛り上げたり、華を添えるって意味だ、ああいう奴がひとりいると助かる」 竜治の言った事は何となくわかる。 「そうか、浮島は若頭と親父、共に気難しいからな」 テツは日向さんと田上組長について触れた。 「ああ、まあな、親父と若なら、どっちかって言うと……若が怖ぇな」 竜治は日向さんが怖いと言ったが、ミノルのお陰で、日向さんは俺に対して優しくなった。 今でもそれは変わらない。 「ん、そういや、いっぺんブチ切れてたが、とは言っても、おめぇは日向さんに気に入られてるんだろ? 」 竜治が日向さんに目をかけられているのは、昔監禁された時に2人のやり取りを見てわかった。 「ああ、気に入られちゃいるが、若は怒らせると怖ぇ、一旦キレると歯止めがきかなくなる、お前んとこはいいな、若頭はおめぇを慕ってるしよ」 だけど、竜治はテツを羨ましがる。 「まあ〜、そうだな、ははっ……」 テツは返事を返しただけで特に何も言わず、空笑いで誤魔化した。 もう長い間、黒木が翔吾をサポートしているし、翔吾も若頭として、社長として、立派にやれるようになった。 テツは一抹の寂しさを抱きながら、一歩下がって翔吾の事を見守っている。 「おう、お前ら、これはどうだ」 水野がターザン水野になって戻ってきた。 「おお、戻ってきたか、そのヒラヒラの下はノーパンか? 」 竜治が期待を込めて聞いた。 「あのな〜、なんでいちいちノーパンになるんだよ、きっちりパンツ着用してるわ」 水野は腰巻きをめくって見せた。 「なんだよ、つまらねぇな〜」 竜治は不満げだが、ちょっと疑問が浮かんできた。 竜治はむさ苦しい男は嫌いだと言っていた筈だが……。 水野は男っぽいタイプだし、どっちかと言えばむさ苦しい方だ。 どういう心境の変化が起こったのか、俺にはさっぱりわからない。 「お前、筋トレやってるのか? 」 テツがターザン水野をまじまじと見て聞いたが、水野は出会った時からずっと体型を維持している。 「ベンチプレス、スクワット、デッドリフト、きっちりやってるぜ」 水野は得意げに答える。 「ほお、酒もほどほどだよな? 」 「ああ、飲みすぎたら無駄に肉がつくし、トレーニングに支障をきたす」 「そうか……やっぱり酒はマズイな、ついな、風呂上がりにビール飲んじまったりするからよ」 テツは朝方帰宅して、シャワーを浴びた後にビールを飲んでベッドに入る事がある。 そのせいか、下腹が弛みがちだ。 「ビールもよくねぇが、酒は全般的によくねぇ、俺は酒より体を保つ事を優先するからな」 水野は筋肉の事を考えて酒を控えているらしい。 「だよな〜」 テツはため息をついて言ったが、今現在体型が崩れてるわけじゃなく、加齢もあって弛みやすくなってるからだ。 「まあ、筋肉談議はそれ位にして、昼飯どうするよ? 」 竜治が時計を見て言った。 いつの間にか11時半がきている。 「おお、そうだな、寿司でも頼むか」 テツは寿司を提案した。 「ああ、じゃ、俺が金出すわ」 竜治が気前のいい事を言った。 「あ〜、いい、こないだ出して貰った、今日は俺が奢る」 けどテツは断り、早速スマホを出して電話をかけ始めた。 その間に水野と竜治は元通りに座った。 ターザン水野はほぼ裸だが、いつもと変わらぬ顔でソファーに座り、隣に座る竜治も何も突っ込まない。 もしこれを知らない人間が見たら、とんでもなく異常な光景だと思うが、俺は2人を見て至極平和的な気分を満喫していた。 テツは寿司屋に出前を注文しているが、こうしてみんなで集まってコスプレショーをする時は、お人好しな水野をダシにして、竜治と共に悪ふざけを楽しんでいる。 俺が夢にまで見た光景だ。 水野にはちょっと気の毒に思うが、本人もコスプレを楽しんでるし、嫌だと言いながら結局変態コスチュームを着用している。 テツは水野が恥じらうのを見たいと言ったが、今日、実際に水野が恥じらうのを見たら……その気持ちがわかったような気がした。 [*前へ][次へ#] [戻る] |