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Snatch成長後編BL(完結)
87、lonely
◇◇◇

テツの葬儀は親父さんの屋敷で執り行われた。

葬儀にはマリアに琴里、日向さんやミノル兼三上、テツに関わりがあった人達全員が参加した。
蒼介はショックを受けたらしく、俺の前に顔を出さない。

どうしようもなく悲しいのに、時間は淡々と過ぎる。
生きてる以上、食うものを食って出すものを出さなきゃならない。
そんな当たり前の事を腹立たしく感じたが、何気ない日常の中で『テツはもういない……』って、ふとそう思う事がある。
茫然と立ち尽くし、恐ろしく孤独で、果てしない虚無が襲いかかってくる。

けど、テツがいなくなった日から、俺にはケビンがつけられた。
動きを止めてぼんやりしていると、ケビンが話しかけてくる。

「友也、大丈夫か?」

「あ、うん……」

「うん、それならいい、あのさ、こんな事を言っても慰めにはならないだろうけど、皆、いずれは死ぬ、兄貴はちょっと急過ぎたが、俺達だってどのみち死ぬんだ、だからさ、兄貴の分も生きなきゃ……、兄貴は友也に生きていて欲しいって、そう思ってる」

「だとしても、俺には……何も無い」

俺は陰で浮気をした。
テツを裏切ったから、きっとバチが当たったんだ。
神様か仏か……そんなのは知らないが、俺の一番大切な物を奪いやがった。

「そうきたか……、確かに兄貴は一番大切な人間だっただろう、けど、何も無いわけじゃない、霧島の仲間に君の家族がいる、違うか?」

ケビンが言いたい事はわかるし、励ましてくれてるのもわかる。
でも、素直に聞く耳はなかった。

「ああ、でも……テツの代わりはいない」

「この稼業は生死の保証はないからね、酷なようだが、君は代わりを探すべきだ」

代わりを探せと言われても、あんな変人で変態はそうはいない。
テツが亡くなって今日で7日目だが、俺はまだ仕事に復帰できずにいる。
ダブルの指輪は、テツの指から外した。
カバンに入れて持ち歩いているが、テツと一緒にいたいからだ。
刺青も中断したが、再開は未定にして貰った。
テツが急逝した事は鮫島さんも驚いていたが、それを思い出したら……反論する気力が失せた。

「ああ、だな……」

投げやりに返事をした直後に、ピンポンが鳴った。

「誰か来たな、出てみる」

ケビンが行ってくれた。

「あっ、木下の兄貴、どうも」

竜治が来たらしい。

「おお、友也は無事か?」

「はい、俺が見張ってます」

ケビンは好きな事を言ってるが、その通り……俺は監視付きだ。

「ちょいと邪魔しても構わねーか?」

竜治は俺の事を気にかけてくれてるんだろう。

「ええ、はい、どうぞ」

ケビンは快く招き入れた。

「友也……」

竜治は俺の方へ歩いてくると、何気に隣に座った。

「竜治さん……、テツは呆気なく逝ってしまった、何度か話した事はあるんです、ヤクザだから、いつ死んでもおかしくないって……、だけど、こんな突然……別れすら言えないなんて、酷すぎる」

愚痴るつもりはなかったが、馴染み深い間柄だから、つい口をついて出た。

「ああ、そうだな……、奴らしい死に様だ、パッと潔く散る、うちもな、まだ叔父貴が生きてるんだが、ボロボロになって苦しんで、それでもまだ生に執着する、ここだけの話……ああはなりたくねー、長生きしたとこで、最後の最後に苦しんで死ぬよりゃ、パッと散る方が楽だ」

竜治は叔父貴って人の事を持ち出したが、俺はその辺は詳しくない。

「そうっすか……癌ってやっぱ辛いんですか?」

「そりゃつれぇ、叔父貴は薬に望みをかけた、だからよ、抗がん剤の副作用がひでぇ、恰幅がいいがっちりした体をしていたが、今じゃミイラのようだ、抗がん剤は自分の免疫を叩くからよ、諸刃の剣になっちまう、効かなきゃ害にしかならねぇ、副作用はな、口ん中が口内炎だらけになったり、吐き気がおさまらなくなったり、体中にできもんができたり……、ま、散々だ、それで助からねーときたら……どのみち死ぬなら楽に死にてぇって思えてくる」

癌治療は予想以上に壮絶なようだ。

「そうなんですか……」

叔父貴って人には悪いが、その話を聞いたら少しだけ気持ちが楽になった。

「俺も撃たれたが、心臓を撃たれたら今頃あの世だ、矢吹は1度死にかけて……今回は本当に死んじまった、けどよー、物は考えようだ、最初に死にかけた時に死んじまってたらどうだ? その可能性も十分あった筈だ、だが奴は生き延びた、生き延びた分、おめぇと楽しくやれたんだ、友也、おめぇだってそうだ、確かに……ずっと一緒にいられりゃそれが何よりだが、人生ってやつはそう都合よくはいかねー、生き延びて得しただけでも儲けもんだと、そう思う事はできねーか? いや、今すぐじゃなくていい、孤独や寂しさってやつは、時間が薄めてくれる」

「あの……、はい」

竜治の言葉はじわっと心に染み入ってくる。

「で、今こんな事を言ったら嫌われそうだが……、なあ友也、もういっぺんやり直さねーか? 俺は浮島だが、今やお前は若にも気に入られてる、若がついてりゃ、誰もお前を痛めつけたりしねぇよ」

けれど、その頼みは勘弁して欲しい。

「すみません……、それはできないです」

たとえ死んでも、俺はテツのパートナーだ。

「やっぱりそうだよな、いや、わりぃ……、けど、俺は諦めねーぞ、お前の気持ちが落ち着くまで待つ、間違っても……矢吹の後を追うような真似はするな、そんな事をしても奴は喜ばねー、大体よ、最初に死にかけたのはおめぇを助ける為じゃねーか、命懸けで守ろうとしたお前が、自ら死んでどうするよ、この際ハッキリ言うが……、もし俺んとこに来たら……俺がお前を命懸けで守る、奴が果たせなかった分、その跡を俺が継いでやる、名前も矢吹のままで構わねー」

そんな強気に言われても……困る。

「兄貴、兄貴のお気持ちはわかりますが……、友也はまだ時間がかかると思います、俺が見張ってなきゃ危ういですからね」

見かねたのか、ケビンが言ってくれた。

「おい友也、おめぇやっぱり死ぬ気だな?」

「いえ、別に……そんな事は」

積極的に死のうって思うわけじゃなく、生きるのが辛くなって死にたくなる。

「嘘をつくな、コノヤロー、へっ……、馬鹿だな〜、俺がいるじゃねーか、俺は猫が好きだぜ、な、どうだ、それだけでもポイント高ぇだろ?」

竜治は肩を抱いてニヤリと笑う。
悪戯っぽく笑う顔がテツを彷彿とさせた。

「ハハッ……、はい、ですね」

似て非なる者……それがテツと竜治だ。

「おお、笑ったな、俺だってよ、もう付き合ってなげーぞ、へへっ、矢吹とは殴りあった事もあったな、奴は蹴りが得意だ、それに身軽に動く、俺は奴の素早い動きに翻弄された、俺のパンチは当たりゃ効くんだがな」

「色々……ありましたね……」

竜治が話した事は過ぎ去った過去で、思い出には違いないが、その思い出をテツと語り合う事は出来ない。

「思い出したらつれぇか、けどよー、こうして俺と語り合えるじゃねーか、俺も奴の事は知ってる、水野に変なコスチュームを着させたりした、俺らは思い出を共有してるんだ、ってこたぁ、そんだけ繋がりがあるって事だ、おめぇ、店はまだ行ってねーよな?」

「はい」

「だったらよ、暇を見てここに来る、ちょっとは気が紛れるだろ」

「はい……、すみません」

確かに、竜治とは色々あっただけに色々話が出来る。
今はまだテツの事を思い出にはしたくないが、テツと似通ったところがあるだけに、気持ちが楽になるような気がする。

「ははっ、嫌われなくてよかったわ、慌てるとろくな事がねーからな」

竜治は冗談めかして言ったが、そんな風に明るく振舞ってくれた方がいい。

「ニャ〜ン」

次郎長がソファーに上がってきた。

「おお、猫め、きやがったな、へへっ」

竜治は次郎長を抱き上げて膝に乗せたが、次郎吉もソファーに飛び上がって自分から膝に乗った。

「お前も来たか、へへっ、猫はいい、触ると柔らけぇ、ちょいと毛が抜けるのが玉に瑕だが、ま、そこはおおめにみるか、可愛らしいからよ」

2匹は膝の上で戯れあっている。
テツがいなくなっても、2匹には分からないらしく、特に変化は見られない。

「今日は初七日だな、あれだ、三途の川を渡る日じゃねーか?」

「三途の川……、そういうのはよくわからないし、無宗教だから」

三途の川を渡ったら、あの世へ逝ってしまうんだろう。

「そうだな、ま、俺らのような人間には縁のねー事だ、葬式をやって貰っただけでもありがてぇ、そもそも気持ちの問題だからな、儀式をやりゃそれでいいってわけじゃねー」

竜治の言う事は頷ける。

「はい……」

テツは地獄へ堕ちると言ったが、そんな筈はない。
俺はそう信じている。

「あの……兄貴、遅くなって申し訳ありません、なにか飲み物でも……」

ケビンが申し訳なさそうに言った。

「ああ、いや……、今日はぼちぼち帰るわ、まだ行かなきゃならねぇとこがある」

「そうですか」

「また来る、おめぇ、友也にしっかりついててやれ、目を離すなよ」

竜治は立ち上がって言ったが、注意しなくても、ケビンは常に離れない。
お陰でコンビニの店長が妙な誤解をしているが、今はそういう事を話したくないから、さらっと受け流している。

「はい、わかりました」

竜治を見送りに、ケビンと一緒に玄関に行った。

「じゃ友也、水野にも覗くように言っとく、俺はうんざりするぐれぇ通うからな、覚悟しとけ」

竜治は意地悪くニヤついて言ったが、それもまたテツと似ている。

「はい……」

その顔を見たら、身勝手に死ぬのはマズい……って、そう思った。
自信はないが、出来るだけ『死』から離れるように努力しよう。







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あきゅろす。
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