Snatch成長後編BL(完結)
20、無垢な悪戯っ子
◇◇◇
翔吾にチューをされ、三上と密会の約束を交わし、真夜中にテツの相手をする。
と言っても、ねむ過ぎてほぼ寝ていた。
夢の中で気持ちよくなり、テツの匂いに包まれて深い眠りに落ちた。
やがて世が明けたのはわかったが、チラッと目を開けてまた眠ってしまった。
このまま永久に寝ていたい。
そう思った途端、足に激痛が走った。
「あ"ーっ!」
ブスッ! と刺さるこの感じは……。
頭を起こして見たら、次郎長だ。
「ちょっ……、えっ、わっ、あ〜っ! 痛てぇ〜」
布団から出た俺のつま先目掛け、次郎長が飛びついている。
「なんだよ〜、うるせぇな〜」
「次郎長が……、わっ、わあ〜、ヤバい」
次郎吉までベッドに上がってきて、2匹して足を狙う。
慌てて足を布団の中に隠した。
すると、2匹は辺りをキョロキョロと見回し、テツの足を見つけた。
「ふっ……」
テツは寝ぼけて布団に潜り込んでいる。
2匹は別々の方向から狙いを定め、目を丸くして足先を狙い、ケツをフリフリし始めた。
姿勢を低くして……2匹同時にぴょんと飛びかかった。
「あ"ーっ! いってぇ〜っ!」
次郎吉がテツの足を前足でガシッと捕まえ、テツは叫び声をあげた。
「ぷはっ、あはははっ! やった」
すぐに足を隠したが、次郎長と次郎吉は目の色を変えて布団を凝視している。
テツがモゾモゾ足を動かすから、再び布団に飛びかかった。
「あ、足を狙ってやがる……、龍も懐く前は俺を引っ掻いてきたが、あれとは違う、こいつらは野生だ、足を出したら殺られる」
テツは布団にくるまって防御体勢をとったが、原始人並に鹿を狩った癖に、子猫2匹の攻撃にタジタジだ。
「あははっ、大袈裟だな〜」
「おお、あのよ、ノミ取りグッズはお前が出た後に買ってきた、まだ店が開いてたからな、シャンプーと首んとこに垂らすやつだ、首輪はこいつら嫌がるだろう、でー、まだ時間があったからよ、2匹をシャンプーした」
「あ、シャンプーしたんだ、2匹とも?」
「おお、やったぞ」
簡単に言うが、あの大人しい龍王丸でさえ、シャンプーだけは嫌がった。
野良出身の2匹がおとなしくするとは思えない。
「引っ掻かれたんじゃね?」
「いや、鳴き喚いてたが、まだちいせぇからか? 湯に浸けたらじーっとしてたぞ」
テツは意外な事を言った。
「へえー、そうなんだ」
暴れて傷だらけになりそうだが、小さい時は大人しいのかもしれない。
「まず洗面器に湯を入れてよ、そこへシャンプーを垂らして泡まみれにした、で、ゴシゴシやったら……ノミが出てくるわ、出てくるわ……、シャンプーで死んじまったのか、湯の中にいっぱい浮いてた」
「ひい〜、きんも〜」
ゴマみたいな虫が無数に浮かんでたら、ホラーだ。
「でな、あの敷物だが、ありゃ捨てた、多分ノミに汚染されてる、あれが無くてももう大丈夫だろ、うちにあるバスタオルを出してそれを敷いた、シャンプーした後はちゃんとドライヤーもかけてやったぜ」
「あ、そっかー、うん、タオルはそれがいいかも、けど……なんか悪いな、全部やって貰って」
テツがノミ退治をしてくれて助かった。
あんなキモイ虫と接触したくない。
「へへっ、礼はきっちりして貰うぜ」
「え……」
けど、タダでやってくれたわけじゃないらしい。
なにかやらせるつもりだ。
「なんだよ……、また女装?」
「ケツ割れだ」
「またそんなやつ〜」
こないだは水野に変態コスチュームを着させたが、飽きもせず俺にもきっちり要求する。
「いいじゃねぇか、もう恥ずかしくもなんともねぇだろ、おう、ちょっと待て、今出してやる」
起き上がってベッドから降りた。
「いや、あの〜」
猫2匹は我関せずで、しわしわになった布団にじゃれている。
アダルトグッズはベッドの下に置いてある。
今は衣装ケースに入れてあるので、猫達がいても安心だ。
テツは立ち上り、手にした物を目の前に放り投げてきた。
「ほれ、それだ」
「わざわざ今出さなくても……」
黒い物体がひと塊になってるが、目にしたら見なきゃ気が済まない。
「ん?」
紐パンみたいなやつに黒いキャミソールが繋がってくっついてるが、リボンがついたスケスケのやつだ。
他にもまだなにかあるが、とりあえず聞いてみたい。
「なあ、これ女物?」
「いいや、男もんだ」
ゲイ向けの変態コスチュームらしい。
それの下敷きになってるやつを引っ張り出してみたら、首輪もセットになって繋がっていた。
「これ、首輪じゃん……、こんなのつけさせてなにする気だよ」
「バカ、こういうのはな、雰囲気で楽しむんだよ、この鎖をつけりゃ完璧だ」
さりげなくスっと手を上げ、これ見よがしに鎖を翳してみせる。
「はあー……」
30半ばになって、まだ変態プレイ。
趣味だと言い張る位だし、まだまだ当分続きそうだ。
「なにため息なんかついてる、俺はこいつらのノミを退治したんだからな」
テツはムッとして言ったが、拒否るつもりはない。
「うん、わかった、付き合うよ」
もう慣れっこなので別に嫌だとは思わないし、俺には墓場まで持って行かなきゃいけない秘密がある。
せめて、テツが望む通りにするつもりだ。
「へっ……、よーし、それでいい」
テツは満足そうに言ってニヤついたが、こんな事で喜んでくれるなら……お易い御用だ。
それよりも、猫達が変態コスチュームを狙っている。
「こらこら、だめだよ、これはご主人様の宝物なんだから」
2匹を両手で1匹ずつ捕まえた。
まだ小さいから、片手でひょいと持ち上げる事が出来るが、毛が物凄〜くフワフワになっている。
「ん? この匂いは……」
テツは変態コスチュームを持ってベッドの下へ潜ったが、次郎長に鼻をくっつけて匂いを嗅いでみた。
「お〜、フローラルじゃん」
シャンプーのいい香りがする。
「へへっ、どうよ、綺麗に洗ってるだろ、ノミは全部取れてる筈だぜ」
テツは立ち上がりざまに言った。
念の為毛を掻き分けてみたら、黒い虫はどこにも見当たらない。
「うん、ノミはいない、よかったな〜お前ら、スッキリしただろ?」
次郎長と次郎吉に話しかけたが、2匹は離せ〜! と言って藻掻いている。
「わかったよ……、はい」
ベッドの上におろしてやったら、2匹はぴょんと飛び上がって布団の中にボフッ! っとダイブした。
次郎長が両手で布団の塊をガシッと捕まえ、猫キックを食らわす。
子猫だからか、やたら興奮して連続キックをおみまいしていたが、そこへ次郎吉が飛びかかった。
「あ〜あ、喧嘩だ、なははっ」
喧嘩と言っても戯れ合いだ。
2匹は絡み合ってくんずほぐれつしていたが、次郎長が下に組み敷かれてやや不利な状況になった。
次郎吉、案外やるじゃないかと思ったら、次郎長はバネが弾けるようにぴょんと飛び上がり、ダダッ! っと窓に向かって走って行く。
「んん?」
何をするのかと思ったら、ジャンプしてカーテンにしがみつき、爪を立ててのぼり始めた。
「うわ、カーテンを木みたいに登ってる」
テツは黙って見ているが、俺はちょっとびっくりした。
龍王丸はこんな事を1度もやった事がなかったからだ。
しかも、次郎吉までカーテンをのぼりだし、2匹してカーテンレールの上にあがった。
「すげーな、あんな狭い所によく上がれるよな〜」
2匹は細いレールの上を器用に歩いている。
「だから言っただろ? こいつらは野生だ」
「あ、そっか……、なるほど〜」
確かに……野良猫の血なのか、それとも短毛種だからなのか、どちらにしてもやる事がワイルドだ。
「で、どうすんの? このままほっといていいかな?」
ただ、放置していいものか、よくわからない。
「まぁ〜ほっといても怪我をするこたぁねーと思うが、猫は降りるのが下手糞だからな、しょーがねー、一応おろしといてやるか」
テツはぶつくさ言ってベッドにあがり、手を伸ばして1匹ずつ下におろした。
2匹は再び布団の中に埋まったが、これでひとまず安心だ。
まだテツには話してないが、俺は午後から青木の家に行こうと思っていた。
「あの〜、俺さ、ぼちぼち青木んちに行こうと思うんだ」
青木はニートだからいつでも待機しているが、テツは反対するかもしれない。
「そうか、あのよ、ゲイバーで働くなら、俺が話してやる、どうするのか、ハッキリ聞いてこい」
けど、行く事については特に何も言わず、代わりに思わぬ事を言った。
「あ、ほんとに?」
そうしてくれたら、めちゃくちゃ助かる。
「ああ、でもよ、そいつ、長い事ニートなんだろ?」
「うん」
「学生ん時は陰キャで〜、大学をやめちまって、就職した先じゃ人間関係が上手く行かずにやめた、その手の奴はどこに行っても難しいぞ、紹介するのは簡単だ、ただな、3日も続かねぇような奴はちょっとな、俺も紹介した手前がある、最低でもひと月はもたねぇと話にならねぇ」
けれど、テツは顔に泥を塗られる結果になる事を危惧している。
そこんとこは俺も不安だ。
「わかった、青木にちゃんと聞いて、続きそうかどうか確認する」
もう一度きちんと確かめてみようと思う。
「おう、そうしろ、ま、話はその後だ」
「うん」
3日坊主にならないか心配だが、本気でニューハーフになる気ならやれる筈だ。
頷いて朝飯の用意に取りかかった。
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