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Snatch成長後編BL(完結)
21、青木の意思
◇◇◇

昼から青木の家に行った。

今日は女装させてみようと思っている。
青木はヅラは持ってなさそうだったので、いくつか持ってきた。

「お邪魔します〜」

玄関に入って爺ちゃん婆ちゃんに頭を下げた。

「あ〜、石井君、また来てくれたんだね、どーぞどーぞ上がって」

爺ちゃんはテレビに釘付けだが、婆ちゃんは満面の笑みで言ってきた。

「はい、失礼します」

笑顔で言葉を返し、青木に続いて廊下に上がったが、婆ちゃんが本当に嬉しそうにするから、自ずと嬉しくなる。

部屋に入ったら、前より散らかっていた。

「あの、青木」

早速だが、ゲイバーの件を話そうと思った。

「ん? あ、あの〜お肌は手入れしてるよ、ほら、見て」

青木は勘違いしたらしく、顔を近づけてくる。

「あ、ああ、うん、わかった」

確かに髭はないし、肌もツルツルになっているが、ドアップは耐え難い。

「肌はOKだよ、ただ、ちょっと話がある」

「ん? なに」

「あのー、まずはその辺のゲイバーで働いてみないかって思ったんだ」

今度こそ言った。

「え……、ゲイバーって、ごっついカマがいる店?」

「そう」

「えー、やだな〜、怖いよ」

だが、難色を示す。

「いや、あの〜、これはうちの店のベテランニューハーフが提案したんだ、それに怖いって言うけど、そんなんじゃニューハーフになれないぞ、ちょっとキツい言い方かもしんねぇけど、今の状態でうちの店を目指したら……多分一生無理だと思う、まず格下の店で働いてカマに慣れる、と同時に金を稼ぐ、で、その金でホルモン注射を打つ、そしたらなんとか道が開けるかもしんねぇ」

「ベテランニューハーフがそう言ったの?」

「ああ、それがいいって言ってた」

「そうなんだ……、じゃあ……怖いけど、やってみたい」

『ベテランニューハーフ』というのは結構効果があったようだが、マジで働く気があるなら具体的に話を進めなきゃ駄目だ。

「うん、それで……知り合いがゲイバーを紹介したげるって言ってるんだけど、最低1ヶ月は頑張れる?」

「あ……、うん」

でも、どことなく自信なさげだ。

「本当に? あのさ、紹介する方も一応面子ってやつがある、すぐに辞められたらカッコつかねぇから」

ちゃんと確かめてくるってテツと約束したし、腹を決めて貰わなきゃ困る。

「ちょっと待って……、あのー、じゃあ、面接ついて来て」

なのに、意気地のない事を言う。

「その位、ひとりで行かなきゃ」

「でも、俺……水商売初めてだし、そういう場所に行くのも怖い、仕事は……使ってくれるなら、頑張ってやってみたいと思う、だからお願い」

そんな風に言われたら……ビビるのは仕方がないような気がしてきた。
俺は慣れてしまったが、青木は飲み屋に行く機会なんかないだろうし、そういう店に行くだけでも腰が引けるだろう。

「そっか……、じゃあ、わかった」

決まったら頑張ると言ってるし、ついて行く事にする。

「ありがとう、石井君がついてきてくれたら、心強いよ」

「へへっ、そう?」

頼られるのは満更でもない。

「うん、だってマネージャーさんだもん」

ただ、あんまり高く買われても、実益が伴わないのでむず痒くなる。

「いや、ほんと……雑用と変わらないからさ、あの〜、それより……今日はヅラを持ってきたんだ」

とにかく、今は青木を変える為に尽力しなきゃ駄目だ。

「ヅラ? カツラの事?」

「うん、そう」

「え、もしかして俺の為に?」

「うん、今日は女装して貰おうと思って」

「そうなんだ、あのでも……、石井君、まさかわざわざ買ったりしないよね? なんでヅラなんか持ってるの?」

「あ……、いや、それは……あれだよ、ニューハーフの友達がいるから」

うっかりしてた……。
そこまで考えずについ持ってきたが、こんな時に役立つニューハーフ達だった。

「あ、そっか〜、そうだよな、じゃあ、こないだ見せた服を着るよ」

「うん……」

青木はベッドの傍に行き、袋を引っ張り出して着替え始めた。

くたびれたジャージを脱いでパンイチになったが、今どき珍しい白のブリーフを穿いている。
パンツまでダサい……。

「なあ、そのパンツ」

余計なお世話だと思いつつ、言いたくなった。

「ん、パンツがなに?」

「ボクサーパンツにしたら?」

「ああ、これ、母ちゃんが買ってくるんだ」

パンツ位自分で買えよって思ったが、二ートだし、親に任せっきりなんだろう。

「そうか……、じゃあさ、お母さんにボクサーパンツをお願いしてみたら?」

「うん、そうする」

とりあえず、素直に聞き入れたのでヨシとする。

「あ、でもさ〜、ニューハーフは女物を穿くんだよね?」

青木は思いついたように聞いてくる。

「あ、ああ」

「母ちゃんに女物を買ってきてって言ったら、叱られそうだ」

まだ下着云々のレベルじゃないが、お馬鹿な事を言う。
ただでさえ二ートなのに、そんなことを言った日にゃ、母ちゃんが発狂するに違いない。

「そりゃ当たり前だろ……、もし必要なら自分で買わなきゃ」

「え〜、女物の下着を? 売り場に行くだけで恥ずかしいよ」

そんなのは当たり前だ。
テツはスーパーの下着売り場じゃなく、アダルトショップで購入している。

「あの、まだ下着を揃える必要はないと思うんだけど、買うんだったらアダルトショップがいい、その手の店なら周りの目を気にする必要ないし、男物で女物のデザインとかあるよ」

「へえー、そうなんだ、石井君、やけに詳しいね」

「いや、まあ〜、水商売なんかやってたら、色々詳しくなるんだよ」

実はパートナーがいて、パートナーは変態ヤクザで……なんて言えるわけがない。

「そっか〜、な、出来たよ、ほら」

「あ、ああ……」

ラーメン頭の女子高生の出来上がりだ。

百メートル位離れて見れば、本物に見えなくもない。

自前のラーメンがあるし、無理にヅラを被らなくてもいいだろう。

「じゃ、せっかくだから被ってみる」

だが、被りたいらしい。
持ってきたのはボブ、金髪、おさげの3種類だ。
どれを選択しても、今の青木には厳しいものがあるが、青木は何故か金髪を選んだ。
金髪のやつは、巻き髪のボリュームがあるヘアースタイルになっている。

「留め金はわかんねぇから、乗っけてみた、どう?」

金髪を頭に被せて俺に感想を求めてきたが、ここは褒めて伸ばすか……正直に言うか、悩みどころだ。

「邪魔するよ〜」

苦悩していると、婆ちゃんがやってきた。

マズいんじゃないかと思ったが、婆ちゃんは腰を曲げて前屈みになり、お盆を持っている。
そのせいで、異変には気づかずにテーブルの前に座った。

「どっこいしょ、ふう、腰が痛くてね、はい、お茶、とお菓子」

前回と同じように湯呑みを置き、菓子を入れた皿を真ん中に置いた。

「あの、すみません、ありがたいんですが……、腰が痛いのに、どうか無理しないで下さい」

2階まで持ってきて貰うのは悪い。

「ああ、いいんだよ、大丈夫だ、ん、広大……」

婆ちゃんは笑顔で言ったが、ふと青木へ目を向けた。

今度こそマズい。

「ああ、婆ちゃん、女装したんだ」

ところが、青木は堂々と言った。

「ほおー、今日のは歌舞伎らしい頭だね、連獅子のようだ」

婆ちゃんは全く驚かず、青木を見て連獅子だと言う。

「連獅子〜、もー、やだな、似合ってるって言ってよ」

「あははっ、ああ、よく似合ってるよ」

青木が文句を言うと、婆ちゃんは笑いながら褒める。
確か、青木は婆ちゃんは驚かないと言っていたが、本当に歌舞伎の女形だと思っているようだ。

「広大、せっかく衣装を着たんだ、連獅子やっとくれ」

婆ちゃんはノリノリでリクエストする。

「え〜、頭回さなきゃいけないじゃん」

「いいじゃないか、やっとくれ」

「わかったよ〜、じゃ、特別サービスだからな」

青木は初め嫌がっていたが、結局リクエストに答え、髪の毛の端を両手で掴み、足を踏ん張って頭を派手に回し始めた。

「あははっ、こりゃ縁起がいいね〜」

婆ちゃんは拍手して喜んでいるが、俺は笑えなかった。

「もういいだろ、首が疲れてきた」

セーラ服の連獅子を茫然と眺めていると、やがて青木は連獅子をやめたが、なんと言っていいやら……奇妙な祖母と孫だ。

「うん、ありがとよ、いいもん見せて貰ったわ、さ、あたしゃ爺さんのところに帰ろう」

婆ちゃんは盆を持ってゆっくりと立ち上がったので、俺も立ち上がって頭を下げた。

「いつもすみません」

「ああ、気にしなくていい、あんたが来てくれて、嬉しいからやってるだけだ、ゆっくりしていっておくれ」

婆ちゃんは足をとめて言ったが、そんなに歓迎してくれたら、やっぱり申し訳ない気持ちになる。

「はい……」

もう一度頭を下げ、腰を曲げて立ち去る婆ちゃんを見送った。

「ふう〜ちょっと疲れたけど……、へへっ、な? 婆ちゃんはびっくりしなかっただろ?」

青木は得意げに言ってきたが、俺は複雑だ。

「うん、俺さ、お婆さんには悪いと思ってる」

「なんで?」

「そりゃ……内緒でニューハーフになるのを手助けしてるし」

「いいんだよ、そんなの気にしなくて、だってさ、俺がこのまま遊んでるよりずっとマシだって」

「でもさ、青木一人っ子じゃん、お前がニューハーフになったら跡継ぎどうするの?」

跡継ぎ関連では……俺自身の事、翔吾の事、色々と思うところがある。

「こんなボロ家を継ぐ意味ないよ」

「ボロっていうか、歴史がある家だろ、お前の代で途切れさせていいのか?」

「いい」

「いや、お前はよくても、俺はお婆さんに申し訳なく思うよ」

「俺が会いたいって言って、で、頼んだ事だ、石井君がそんなこと思う必要ない」

確かに頼まれてやってる事だが……。

「うーん……」

お婆さんの事を考えると、テンション下がる。

「もう働くって決めたし、今更無しは駄目だからね」

青木は珍しく強気に主張する。

「うん、わかったよ……」

本人がやる気になってる以上、俺にはどうする事も出来ない。
テツに報告して、面接の日にちを決める事にしよう。






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