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Snatch成長後編BL(完結)
12ニューハーフ改造計画
◇◇◇

暇なようで気持ち的には忙しい。

バタバタと過ごすうちに月曜日がきた。
本日午後、青木のニューハーフ改造計画を開始するべく、ハンドルを握った。
髪はパーマをあてるように言っておいた。
上手く出来ていればいいが、不安だ。

待ち合わせは前に行ったスーパーの駐車場にした。
服はヨレヨレじゃなく、清潔な物を着ろとアドバイスしたが、なにをチョイスするかわからない。

空いたスペースに適当に止めて待っていたら、それらしき人物がやって来た。

下はダボッとした茶色いパンツ、上はTシャツにチェック柄のシャツ。
野暮ったい事に変わりはないが、ヨレヨレではなく、髪型はラーメンみたいになっている。
昔見た漫画に出てきたキャラに似ている気もするが、前よりはマシになった。

出入口の前でウロウロしているので、車をおりて行ってみた。

「青木、来たぜ」

「あっ、石井君……」

声をかけたら、何故かオドオドしている。

「ん、どした? 」

「あ、あの……、変じゃないかな? 」

イメチェンしたせいで緊張してるらしい。

「前より全然いいよ」

「ほんとに? 」

「ああ」

「えへへ……、石井君に言われたら、ちょっと自信でてきた」

青木は俺を見て言ったが、今日もテツのパクリを着てきた。
意識してるわけじゃないが、昔みたいにジーパンとかは、あんまり穿かなくなった。
相変わらず翔吾がお下がりをくれるので、スーツや開襟シャツは山ほどある。
翔吾の方がガタイがいいから、サイズがちょっと大きいが、お直しまでしてくれるという、超有り難い親友兼若頭だ。
そのせいか、なんとなくスーツの方が落ちつく。

今日は紙袋を持参してきたが、中には脱毛クリームやら何やらが入っている。
指南する側として、少しは協力してやろうと思ったからだ。

とにかく、家に行かなきゃここじゃなにもできない。

「で、家はこっから近いの? 」

「あ、そうだな、徒歩で30分くらいかな、俺、この店にはいっつも歩いて来る」

青木はさらっと言ったが、最近は車で移動する事が多いから、30分も歩いたら多分死ぬ。

「うーん……、じゃあさ、車で行っていい? 青木も一緒に乗ってさ」

「あ、うん、とめるとこはあるから、乗せて貰っていいの? 」

「勿論、じゃ、行こっか」

「うん」

青木を隣に乗せていざ出発だ。
道案内をして貰いながら走って行くと、山の方へ向かって行く。
途中から道が狭くなり、対向車が来たら面倒だと思ったが、田舎道だから対向車は来なかった。
坂道を半分くらい上がった時に、右側に古い建物が見えてきた。
築100年は経ってそうな古民家だが、街中からさほど離れなくても、こんな昔ながらの木造家屋がある事に驚いた。
珍しくてつい見ていると、青木はその家だと言う。
家は道よりも一段高い場所に建っているが、その前は私道みたいになっている。
私道のすぐ脇は空き地になっていたが、青木はそこにとめたらいいと言った。
言われるままに車をそこへ入れて隅っこにとめた。
後部座席に置いてある紙袋を掴み取り、車外に出ようとしたが……ちょっと気になった。

「あの〜、お爺さんとお婆さんはいるんだよな? 」

ジジババが気になる。

「ああ、大丈夫、気にしなくていいから」

そう言われても、手ぶらだとなんか申し訳ない。

「いや、俺さ……、なにも持って来なかったんだけど、いいかな? 」

青木の為に色々用意したが、ジジババへの土産までは気が回らなかった。

「いーよ、そんなの……、俺の友達なんだし、そこまで気をつかう必要ないって」

青木は友達だから……と言ったが、確かにそう考えれば、気にする事はないように思えてくる。

「そっか……、わかった」

車をおりて青木について行った。
ちょっとドキドキしながら表玄関から家に入った。
すると、広い玄関の横はいきなり居間になっていて、白髪頭のジジババがテレビをみている。
2人はこっちへ向いたので慌てて頭を下げた。

「あ、どーも、お邪魔します〜」

「広大、お友達か? 」

婆さんがデカい声で青木に聞いた。

「うん、そう」

青木はボソッと答える。

「おやまあ〜、ちょっとお爺さん、広大がお友達を連れてきたよ」

婆さんは驚いた様子で爺さんに話しかけた。

「おお、珍しいな、にしても……なんだか洒落た格好をしてるな」

爺さんは俺を見て言った。

「あ〜、そうだね、テレビで見たホストみたいだよ、へえー、広大とは縁もゆかりも無さそうなタイプだ、はははっ」

婆さんは笑いながらこっちへやってきた。

「はあ〜、近くで見たらイケメンだよ」

真ん前に座り込むと、俺を見上げて言った。

「あ、っと……」

褒められて悪い気はしないが、間近でジロジロ見られたら……困ってしまう。

「はははっ、いいベベ着て、あたしゃ生地には詳しいんだ、それは舶来の生地でオーダーだね? 」

『ベベ』という言葉は滅多に聞かない。
やけに古めかしい言い方をするな〜と思ったが、生地に詳しいのは嘘じゃないようだ。

「っと……、はい、そうっす」

「あれまあ〜、当たりだ、あはははっ! 」

婆さんは興奮気味に言ってゲラゲラ笑ったが、陰キャの青木とは全く雰囲気が違う。

「婆ちゃん、もういいだろ、石井君、こっち」

青木は婆さんがウザいのか、ムッとした顔で手招きする。

「あ、うん……、あの、お邪魔します」

もう一度ジジババに挨拶して後について行った。

「あ〜、どうぞごゆっくり、後で茶を持ってくからね」

婆さんはニコニコしまくりで言ってきた。
軽く頭を下げ、玄関から正面にあたる場所で靴を脱いで廊下にあがった。

廊下はまっすぐに伸びているが、青木は階段を上がったので、俺も一緒に2階を目指した。

上にあがったら、廊下を真ん中にして両側が部屋になっていたが、青木は一番近い部屋に入った。
板間って感じの化粧板の床に、パイプベッド、小学校から使ってそうな勉強机。
部屋の真ん中にガラステーブルがひとつ置いてあり、床には小物類が雑然と散らかっている。
壁にはジャンパーが針金ハンガーにかけて吊るしてあるが……地味な色でおっさん臭いデザインだ。

「散らかってるけど、座って」

「うん……」

促されてテーブルの近くに座ったが、ニューハーフを彷彿とさせる物は微塵もなく、こんなんでニューハーフになれるのか、不安が増してきた。

「あのさ……、女装するって言ってたよな、服は……どこに? 」

確かめなきゃ気が済まない。

「ああ、母ちゃんに見つかったらやべぇから、ベッドの下に隠してる」

「あ、そっか……」

ホッとした……。

「よいしょっと〜、へへっ」

青木はベッドの下に潜り込み、しわくちゃの紙袋を引っ張り出した。

「どんなのが入ってるんだ? 」

目の前に置くから、紙袋の中を覗いて見た。
中に入ってるのは黒っぽい服だ。

「ぷっ、じゃーんっ! 」

青木は服を出して目の前に吊り下げた。

「これって……」

セーラー服だ……。
俺もたまに『着ろ! 』と言われるから、何気に後ろ暗い気分になる。
若い頃ならいざ知らず、この歳になると尚更抵抗があるが、例によって……テツは言い出したら聞かない。

「これさ、大学ん時の先輩がやるって言って、貰ったんだ」

「ふーん……」

自分の事は忘れよう……今は青木の事を考えなきゃ駄目だ。

「あのさ、俺、脱毛クリームとか持ってきたんだ、まずは股間以外脱毛した方がいいって、その道のプロが言ってた」

その道のプロと言ってはみたが、要はテツの受け売りに過ぎない。

「あ、そっか〜、ちょっと中を見ていい? 」

「ああ、じゃ、全部出そ」

紙袋の中身を出した。
脱毛クリームに脱毛ワックス、T字カミソリ、あとはマリアにチラッと話をしたら、化粧品をいくつかくれた。

「おお、凄い、これ……わざわざ揃えてくれたんだ」

「ああ、化粧品はうちの店で働くニューハーフがくれた、あとは近場の店で適当なやつを買ってきた、で、どうする? まあー今やんなくてもいいけど」

急ぐ必要はないし、自分でひっそりやればいい。

「いや、やる、風呂場でやってくる」

「すね毛なら拭き取るだけでいけるかも? ワキは……ちょっとエグイな」

足位ならまだしも、ワキ毛は目に毒だ。

「うん、汚ぇし、風呂でやる、俺さ、ギャランドゥあるんだ、だからそれもやるよ」

ギャランドゥ……そんな毛深い奴が、脱毛してモノになるのか疑問だが、乗りかかった船だ。
やるしかない。

「じゃあ、とりあえずやってくる、石井君悪いけど、待ってて」

青木は脱毛セットを持って立ち上がったが、だったらついでに言っておきたい。

「あの、じゃ、ついでに顔も綺麗に剃った方がいい」

体だけ綺麗にしても、髭が残っていたら台無しだ。

「うん、わかった、じゃ、行ってくる」

青木は部屋を出て行ったが、風呂は下にあると思うから、下へ行くんだろう。

「ふう〜……」

にしても、長閑な雰囲気だ。
ちょっと山を上がっただけなのに、車の音や街の喧騒は聞こえてこない。

窓のそばに歩いて行き、外を眺めてみた。
空き地に俺の車があって、空き地を囲むように木が植えてある。
周りで雀か何かの鳥が鳴いている。

街中とは別世界のような場所だ。

「あ〜、お友達、あんた名前はなんていうんだい?」

突然婆さんの声がした。
慌てて振り向いたら、お盆に茶と茶菓子を乗せて抱えている。

「あ、石井といいます」

本当は矢吹だが、わざわざその名を名乗る必要はない。

「そうかい、よいしょっと」

婆さんは腰が悪いのか、前屈みになっていたが、お盆をテーブルの上に置いてその場に座った。
さっき茶を持っていくと言っていたが、わざわざ2階まで持ってきてくれたらしい。

「すみません……」

そばに行き、頭を下げて腰を下ろした。

「いいんだよ、あたしゃ嬉しい、広大が友達を連れてくるなんて、10数年ぶりだ」

婆さんは嬉しそうに言ったが、今のセリフ……翔吾の時と似ている。
翔吾も親父さんが『屋敷に友達を連れてきた』と言って喜んでいた。

「そうですか……」

「あの子は一人っ子で、あんな風に気弱なんだ、だからね、なかなか友達ができなくて、あたしは心配だったのよ、それがこんなイケメンなお友達を連れてくるなんて、びっくりしたわ」

「ははっ……、そんな事ないっすよ」

あんまり褒められると、恥ずかしくなる。

「まーまー、とにかくお茶をどうぞ、お菓子もよかったら」

婆さんは湯呑みを俺の前に置き、茶菓子を入れた皿を真ん中に置いて、青木の分の湯呑みを適当なとこに置いた。

「はい、ありがとうございます」

「で、石井君だったわね、その格好を見てホストって言ったけど、本当にホストなの? 」

「あ、まあー、近い……かな」

こんな年配の人に真実を明かすのは抵抗がある。

「あらまあ〜、じゃあ、水商売? 」

婆さんは明るい表情をして聞いてくる。

「っと……、いいにくいんですが、そうです」

水商売に嫌悪感を持ってるような感じじゃないが、胸を張って言える事じゃない。

「そうかい、いいんだよ、婆ちゃんはね、別になんともないさ、こんなババアになってしまったが、若い頃はイケイケだったんだよ」

婆さんはあっけらかんと言った。
やっぱり青木とは違う。

「そっすか〜、ははっ……」

「あの爺さんもね、若い頃はもうちょっとマシだったんだ、今は干し柿みたいに萎びちまったからね、あははっ! 」

干し柿……確かに痩せてはいた。

「ぷっ……」

イメージにあってる。

「まあ〜あれだ、広大はあんな子だけど、仲良くしてやってくださいね」

笑いを堪えていると、婆さんは青木の事を頼んできたが、それも翔吾の時とそっくりだ。

「あ、はい」

翔吾と青木はタイプが違うが、翔吾だって昔はなよなよしてて、今とは全く別人だった。

「じゃ、あたしは下へおりるわ、爺さんがうるさいからね、ははっ」

婆さんは立ち上がったので、俺も立ち上がって頭を下げた。

「あっ、どうもすみませんでした」

「いいえ、ゆっくりしてってね」

「はい」

腰を曲げて歩く背中を見送りながら、妙な懐かしさを感じていた。
あの時と同じような状況……。
青木は同級生だった時は全然関わりがなかったが、友人として付き合うのも悪くない。
但し、婆さんは青木がニューハーフになろうとしている事を知らないだろう。
それを知ってどう思うかを考えたら、やや心配になってくる。


婆さんが出してくれた茶をすすりながら待っていると、やがて青木が戻ってきた。

「石井君、毛をとったよ、これ見て」

青木はジャージに着替えているが、ズボンの裾をめくって見せる。

「あっ……ほんとだ」

脱毛クリームはかなり効いたらしく、足がツルッツルになっている。

「ギャランドゥも見る? 」

「いや……、見なくてもわかる」

そっちは遠慮しておこう……。

「で、顔なんだけど、髭は剃ったよ」

「うん、それでいい」

顔もすっきりした。

「あの〜、ちょっと思ったんだけど、俺はすぐに髭が生えてくるんだ、でもさ、石井君って……髭目立たないね」

「ああ、俺は元から毛が薄いんだ」

「へえ、いいな〜、じゃあ、体も? 」

「うん、あんまし生えねぇ」

股間はテツの気まぐれによって半分永久脱毛されたまんまになっているが、その影響なのか、生える筈の半分もほとんど生えてこない。

「そうなんだ、羨ましい」

「金に余裕ができたら永久脱毛もありだけど、すげー時間かかるからな、若干痛てぇし」

「え〜、痛い上に時間かかるの? 」

「うん」

「そっかー、金がかかるのは無理だし、当分大変だな、いちいち脱毛しなきゃいけないし」

「まあーニューハーフの人達は結構努力してるからな、ホルモン注射打ったり」

「ホルモン注射? 」

「ああ、女性ホルモンを打つ」

「ああ、そっかー」

「自力でニューハーフになるなら、努力あるのみだよ」

「そうだよな、頑張る」

「ああ、俺さ、ニューハーフの人に色々聞いてみるよ」

「うん、頼む」

青木は本当になりたいようだから、もう一度ちゃんとマリアに聞いてみようと思った。





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