SMILE!
3
「おかーさん、おかーさん」
「……ん?」
おかーさん呼びが定着してしまった。でも、滝登が笑っているから、それでもいいと思えた。
「おかーさんは鶴つくれる?」
「…いや、つくれない。折り方を、知らない」
折り紙で遊んでたのはいつ頃だろうか?何十年も前だ。
おれの記憶が正しければ、変な猫を折り紙で作っていた。その猫の耳を折れば犬にもなる。平面的な猫だった。
「じゃあ、今度おかーさんに、おしえてあげるよぉ」
「…ああ、ありがとう…」
「おかーさん、」
滝登はふわりと微笑むと、おれと手を繋いだまま立ち上がった。
「お腹すいたから、いこぉ」
どこに…?お腹すいたって、食堂に行くのか?
それはちょっとまずい。昨日は歓迎会だったし、紅の食堂はおれと五十嵐しかいなかったから大丈夫だったけど…
今は、生徒がいる。
「……いや…おれは…、」
「一緒にいってくれないのぉ?」
駄目だ、滝登には勝てる気がしない。
わかった、行くからと言えば、滝登に手を引かれ食堂に行くはめになった。
滝登と食堂に行く間、廊下にいる生徒からの視線が痛かった。こっちを見て、こそこそと話す生徒達。聞こえてくる内容は、あきらかにおれの中傷だった。
慣れている事だったが、最近はあんまり悪口を言われてなかったから、ちょっと心が折れそうになった。
「おかーさん、もお少しでつくからねぇ」
「……ああ」
隣に滝登がいる事が救いだった。おれよりも小さくて暖かい手に、癒された。
「そうだあ、おかーさんにこれあげるね」
滝登はビニール袋から折り鶴を二羽取り出した。
大きい鶴と小さい鶴。どちらも緑色だった。
「…でも、これは…お母さんにあげるんだろう…?」
「おかーさんも、おかーさんだから、いいのぉ」
はいと渡され、二羽の折り鶴を受け取る。
「ちっちゃい方が滝登で、おっきぃ方がおかーさんなんだよぉ」
ニコニコ笑って話す滝登にまた癒された。
今度から疲れたら、シマと滝登に癒してもらおう。
繋いでいない方の手で頭を撫でてやると、ぎゅうっと腕に抱き着いてきた。そのまま、滝登の誘導で食堂に向かった。
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