SMILE!
コンプレックス
鈴によって上げられる前髪。眩しくて、細い目をもっと細めた。
「……すず」
コンプレックスの目。こんな目を見られるのは嫌だ。気持ち悪いと言われたくない。
鈴の腕を掴む。もう遅いけど、これ以上見られたくはない。
「…嫌だ、見るな」
「八さん…?」
戸惑ったような声を出す鈴。
せっかく仲良くなれたのに、鈴に嫌われたかもしれない。なんだか、泣きたくなってきた
ふわりと頭を撫でられた。見上げると、鈴は笑っていた。
「大丈夫ですよ」
「……だって、目」
「目?……あ、もしかしてコンプレックスだったりしますか?」
コクンと頷く。
「俺は好きですけどね、八さんの目」
「……嘘、」
好きだなんて一度も言われた事なんてない。こんな細い目、嫌に決まってる。
「嘘じゃないですよ」
「……本当、に…?」
「はい」
「…ありがとう」
ふにゃりと笑う。
笑ったの久しぶりだ。笑うと目が細くなるから、あんまり笑わないようにしてたけど、鈴なら大丈夫だから。
「…ッ…か、」
「…か?」
「っ何でもないです」
鈴の顔がちょっと赤いのは気のせいだろうか…?
突然どこからともなく、音楽が鳴り始めた。それの発信源は目の前の人物のようだった。鈴はポケットに入っていた携帯電話を取り出し、確認していた。
「八さん、すみません。ちょっと呼ばれてしまったんで俺行きますね」
あきらかに行きたくなさそうな鈴を見ておれは待ってと一言言って、あるものを温室の奥に取りに向かう。
「八さん、それ…」
「……あげる」
持ってきたのは一輪の真っ赤なバラ。まだ、蕾だけど咲いたらきっと綺麗だ。それに鈴なら枯れるまで大事に育ててくれそうだから。
「ありがとうございます。大事に育てます。…じゃあ、俺行きますね。また来ます」
「……ん」
去り際に頭を撫でられた。
桐也先生もそうだけど、何でこんなに頭を撫でるんだ。こんなボサボサの頭なんて撫でて良いことなんて、ひとつもないのに。
鈴が去って静かになった温室は、少し寂しかった。一人になったおれは、また花に水をやり始めた。
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