SMILE!
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「江夏さん、それとこの前言いましたよね。名前で呼んで下さいって」
耳元で話され、びくりと肩が震えた。
「呼んでくれますよね?八さん」
拒否出来ないような声で言われて、おれは半木の腕の中で固まっていた。
「八さん、呼んで下さい」
「……い…、すず」
「…っくく」
何故か名前を言ったら笑われた。振動がおれにまで伝わってくる。
「……何で、笑うんだ」
「すみません。だって八さん、ちゃんと名前呼んでくれないから」
「…呼んだ」
「俺には鈴しか聞こえませんでした」
「……、」
「じゃあ八さんは俺の事、鈴って呼んで下さい」
「……鈴?」
ちょっとだけ首を傾げて、確かめるように鈴と呼ぶ。すると半木は何か悶えていた。
「…っ、八さん…不意打ちは卑怯ですよ」
言葉とともに、ぎゅうっと力強く抱きしめられ、苦しくなる。
「……っ、苦しい」
「あ、すみません」
身体を離し、半木はおれの背中をさすった。
「……水やり」
「そうでしたね。すみません、邪魔して」
「……邪魔じゃ、ない」
むしろ、嬉しい。口下手で嬉しいと伝える事も出来ないけど、半木が…鈴が来てくれると、生徒全員に嫌われてる訳じゃないと感じる事が出来るから、すごく嬉しい。
「じゃあもうちょっと、ここにいていいですか?」
「…ああ」
―side.依鈴
出会ったのは一ヶ月前
たまたま温室に行ってみれば、八さんがいた。最初の印象は、根暗な人だと思った。髪で顔はほとんど隠れてるし、目は細い。そのわりに身長は高くて、細い身体。
失礼だけどもやしというあだ名が似合ってると、最初の頃は思っていた。
好奇心で話してみると、無表情なのに、おどおどして、行動が小動物みたいだった。
人付き合いが苦手で口下手。それでも、必死に俺に伝えようとする姿が可愛くて、見事に八さんにハマってしまった。
それ以来、毎日温室に訪れるようになった。ここでしか八さんに会えないし。いや、会おうと思えば会えるけど他の場所で会うといろいろマズイ事になるから。
特に親衛隊に見つかったら、八さんが危ない。
「……す、ず」
「っ、八さん、」
物思いにふけっていたら、水やりを終えた八さんが近くにいて驚いた。
「……ごめん」
このごめんの意味は、驚かせてごめん。最近やっと八さんが何を伝えたいのかが分かってきた。
「大丈夫ですよ」
八さんのくしゃくしゃの髪を撫でるとわたわたし始めた。
ああ、この人本当可愛い。
顔見たいな。髪に隠れた顔を俺は一度も見た事がない。手を伸ばして、八さんの長い前髪を上げる。
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