SMILE! 温室 校舎近くの花壇の水やりを終えたおれは、温室に向かう事にした。校舎から少し離れた所にある温室は、生徒が花を見て楽しめるようにと、造られた。 でも、おれが知ってる限り、温室に来るのはたった一人だけ。 温室の扉を開けると、ふわっと花の香りが漂ってきた。温室の中は薔薇が咲き誇っていた。 中には、テーブルとイスも置いてあって休憩出来るようになっている。 そこに誰か座っていて、また来てくれたのかと嬉しくなった。おれの気配に気づいて、その生徒はこっちを向いた。 「江夏さん」 「……また、来たのか?」 「はい。暇だったんで」 半木依鈴はこの学園の二年生で、一ヶ月前程から温室に来るようになった。 おれよりも身長が高くて、顔も整っている。羨ましいくらい爽やかな青年だ。 「邪魔でした?」 「……そんな事、ない」 「よかった。…江夏さん、」 半木は立ち上がり、おれに近づいて来る。 「癒して下さい」 そう言った半木は腕を伸ばし、おれを正面から抱きしめた。 「…な、なからぎっ…」 わたわたと暴れていると、押さえ込むように強い力で抱きしめられた。 「江夏さん、落ち着いて下さい。何回目だと思ってるんですか」 抱きしめられるのは、これが初めてじゃない。だけど、やっぱり人に触られるのは慣れない。それに半木と会ってまだ一ヶ月だ。 やっと最近、桐也先生のスキンシップ…、頭撫でるとかに慣れてきたのに。 . [まえ][つぎ] [戻る] |