SMILE!
憂鬱
案内している間、会話はあまりなかったが、後ろからついて来ている少年は、独り言を言ったり、学園の広さに驚いたり、忙しそうだった。
校舎の近くまで来ると、入口の所に人影が見えた。たぶん、この子を待っているんだろう。その人影は、しきりに腕時計を見ていた。
「……ついた」
「え?…でかー…、」
「…あの人、待ってる」
校舎の大きさに驚いている少年に人影を指差し教える。
「うわ、本当だ。…あのっ案内してくれて、ありがとうございました!」
そう言って少年は、走って校舎の方へ向かった。なんか、すごく良いことしたような気分だ。
よし、この気分のまま、水やりに行こう。
校舎の近くにある花壇を目指して歩き始めた。
よかった、無事だ。
校舎近くの花壇はよく踏まれている事がある。今回は無事だった。
ここにはパンジーを植えている。
少し離れた所にある水道から、ジョウロに水を注いで、パンジーに水をやっていると後ろから名前を呼ばれた。
「八、」
後ろを振り向くと、金武桐也がいた。この人は、この学園の教師だ。おれよりふたつ年上で、何かと良くしてくれる。
おれは理事長の紹介で働いてるから、ほとんどの教師はおれの事を良く思ってない。妬まれてる。
その中でこの人は本当に優しい。
「…桐也先生」
「先生はつけなくて、いいって言ってんだろ?」
「…でも、先生だから」
桐也先生は、ハァとため息をついて、おれの頭をぐしゃぐしゃに撫でた。
「そういえば、お前に理事長から伝言があったんだよ」
「…?」
ニヤリと笑う桐也先生に嫌な予感がした。
「明日の入学式、お前も出席しろってよ」
「無理です」
「…即答かよ」
嫌だ、入学式なんて人が大量発生してる所に自ら、行くなんて
「…絶対死ぬ」
「いやいや、死なねぇから。とりあえず、八に拒否権はないぜ?理事長命令だしな」
何でなんだ。去年は出なくてよかったのに。
しょんぼり落ち込んでいると、桐也先生がまたぐしゃぐしゃに頭を撫でてきた。
「まあ、いいじゃねぇか。これも仕事だ。…いいな?」
「…わかりました…」
しぶしぶ頷くと桐也先生は、よし、いい子と言って今度は優しく撫でた。桐也先生は、おれの事何歳だと思ってるんだろう。
「…桐也先生、時間」
「ああそうだった。じゃあな八」
付けていた腕時計を見せ、時刻を伝える。桐也先生は、おれに手を振って足早に去って行った。
…入学式か。嫌だ…
憂鬱な気分を抱えながら、水やりを再開した。
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