16:【寂しいのだよ】
『ひーまーだー・・・チックショイ!マルコ隊長めー!』
ひずには一人、甲板で座り空を眺めてボーっとしていた。
もちろん他にも留守番はいるのだが皆それぞれに仕事をしていて話しかけづらく、仕事の邪魔になるかもしれない。
ハァ、ひずにはため息をついた。
一人になると、どうしても考えてしまうものがある。
自分がいた元の世界の家族や友達のことだ。
『皆元気かなー・・・』
自分がいなくなった世界は、どのようになっているのだろうか。
ひずには空を見上げつつ寝転んだ。
『父さん、母さん、兄さん、ペットの猫ー・・・元気かな〜、いっつもオタ話していた皆も元気かな〜』
平和でのんびりしていて、いつでも笑えていたあの頃。何にもなく、退屈だったあの頃。
でも、それが一番幸せだったとうのも、実は知っていた。
『皆僕が居なくなって探してるとか?失踪事件みたいな?でもこっち来て結構経つからもうすでに死んだ事にされてる?でも遺体なんて見つかるはずないしなー。こりゃあっちじゃ永遠の謎になるね。僕が戻れば話は違うだろうけど・・・』
『まさか僕の存在が消えているとか?あっちは僕がいたということ次第なくなっているとか?えっ、それはちょっと寂しいんだけど。ちょっとじゃないよ、かなり寂しいよ』
『アレ・・・目から鱗・・・違うな、目から汁が・・・汚いって、って友達に言われたっけ・・・アハハハ』
ひずにの頬には涙の後があった。
ひずには一人をいいことに、嗚咽を漏らして泣き始める。
今まで、考えるたびに抑えてきたけれど、それも限界だった。
腕で顔を覆いながら、ひずには泣き続けた。
* * *
夕方、クルー達が段々と帰ってきた。そこでびっくり仰天したのはもちろんひずにが甲板で寝ていること。
詳しく言えば泣き腫らした顔で寝ていると言う事だ。
あの後、ひずには泣き疲れて自分の部屋に戻ることもできずにその場で寝てしまったのだ。
それを見たクルー達はただただおろおろしていた。ここはどうしたらいいのか、エースが帰ってくる前に何とかしないといけない、思考を皆で巡らせているとき、マルコが帰ってきた。
「どうしたんだよぃ」
「マルコ隊長・・・その、」
ひずにの寝顔を見て、マルコは少し目を見開いた。いつもヘラヘラ笑っているアイツが何故泣き腫らした顔をしているのか。
エースには見せない方がいいと即判断したマルコ。奴の溺愛っぷりからしてコレを見たら何をするか分からない。
「お前等、とりあえずひずにを部屋に運んでやれ」
マルコは向こうに帰ってきたエースを見つけるとサッと寄っていく。
クルー達は慌ててこそこそとひずにを運んだ。
「あ、マルコ!見てくれよコレ!」
エースは近寄ってきたマルコにとても楽しそうに持っていた袋の中身を見せる。
「今日ひずに島に出れなかったからよ、お土産で服とか買ってきたんだ、ひずにに似合いそうだろ?」
「すげェ量だな・・・アイツも喜ぶだろうよぃ」
「だろ!?今からひずにのところに行かないとな!」
「やめとけよぃ、ひずには今他の奴等が帰ってきて『やっと寝れる』とか言って部屋のほうに戻っちまったよぃ」
「そうなのか・・・じゃァまた晩飯の時に話すか」
「そうしとけ」
エースが去った後、マルコはひずにの部屋に急いだ。
部屋の前には一人クルーがいてマルコにひずにをベッドで寝かせた事を告げると行ってしまった。
マルコは一応ノックしてから入った。
部屋に入ると布団を深く被ったひずにの姿。
そっと近くに寄って話しかける。
「俺だよぃひずに。エースにはお前の事は言ってねェから安心しろぃ」
少し間をおいて返事が返ってくる。
《・・・びっくりさせてゴメン》
「まァな。でも俺はお前が何で泣いていたかなんて知らないからよぃ」
《・・・》
「・・・今は言えないなら言わなくていい。だがまずはエースに言ってやれ」
《・・・分かった》
「それと今のうちにその顔をなんとかしておけ、そんな顔じゃエースに会えないだろぃ」
《うん・・・》
言い終わると部屋を出て行こうとするマルコ。
《マルコ隊長、ありがとう》
ひら、と手を振って部屋を出た。
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