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GOD GAME
ページ:2











修道院――――――

「燃えロロロ…!燃えロロロ…!ヒャッヒャッヒャ!」
「どうしてこんな事するの!?」
修道院の中庭を燃やして頭上で手を叩き喜ぶテペヨロトル。
メアの両手両足は、テペヨロトルが造り出した透明な四角の手錠で拘束されている。
「こうすれバババ…炎を見つけたアガレス達ヲヲヲ…誘き寄せれルルル…」
「最っ低…!きゃっ!?」
右手の平にメアを乗せたままのテペヨロトルは左手でメアを自分の方へ向かせ、顎をくいっ、と持ち上げ巨大な顔を近づける。メアは嫌がり、外方向く。
「嫌!放して!」
「僕のダーシー…可愛イイイ…」
「気持ち悪い事言わないで!私、テペヨロトル神のモノになった覚え無いもん!きゃあ!?触らないで!やめてよ!!」
「僕のダーシー…可愛イイイ…可愛イイイ…」
そう言いながら、テペヨロトルから見たら小人なメアの頭を人差し指で撫でたり体を執拗に人差し指で弄るから、メアはテペヨロトルの手の平で四つん這いになって肩をヒクヒクさせ涙目。
「嫌ぁっ…、ひっく、嫌っ!!貴方みたいな、ひっく…、意地悪で…ひっく、人間殺しに触られるのなんて嫌っ!」
「僕のダーシー可愛イイイ…1000年前かラララ…好キキキ…チューしテテテ…」
ぐっ、と口を近付けてくれば巨人なテペヨロトルの吐息だけで吹き飛ばされてしまいそうなメア。顔を極限まで背けるが、テペヨロトルは口を近付けてくる。メアは手錠をされた手の中で古びて色褪せた朱色の御守りをぎゅっ…!と握り締める。
「嫌っ!嫌イヤ!御殿さんじゃなきゃ嫌!御殿さん助けてお願い…!」


ピチャッ!

床にメアの涙が一粒滴る。
「僕のダーシー…可愛イイイ…チューしテテテ…結婚し、」


ガッシャーン!!

「グワアァアァア!?」
「!?」
テペヨロトルの口が近付けいた瞬間。テペヨロトルの後頭部すぐ後ろの小窓のガラスが外から割られた。小窓を蹴破りながら修道院内へやって来たのは…
「アガレス君!!」
激しく飛び散ったガラス片がテペヨロトルのスキンヘッドに突き刺さる。ブシュウウウ!と上がる真っ青な血。
「痛だイイイ!痛だイイイ!痛だいよオォオオェ!」


ドシン!ドシン!

赤ん坊のように暴れるテペヨロトルに、手の平から落ちたメアが床に座って呆然と見ていると。
「無事かダーシー殿」
「だ、大丈夫だもんこのくらい!どうして助けに来たの!私、実は修道長が造り直しの儀を施された操り人形で、此処に張り付けにされていた修道女達はまだ造り直しの儀を受けていない人間達だって分かってたからわざとアガレス君達を町へ行かせたのに!私の晴れ舞台また邪魔する気でしょ!」
「手足拘束されてよく言える。さすがは雌豚だ」
「雌豚言うなって言って、…!アガレス君危ない!」
「ん?」
「僕のダーシーだぞオォオオ!!」


ドスンッ!

「ぐあ"っ!!」
「アガレス君!!」
背後からドスドス走ってきたテペヨロトルは、アガレスの肩をガシッ!と掴み、そのまま壁に叩き付けた。
















バキバキ!メキメキッ!

「っ"…!?」
肩を掴まれたまま背を壁に押し付けられているアガレス。怒り狂ったテペヨロトルの強大な力で掴まれている為、壁に押し付けられる度アガレスの体が壁にめり込むし、細い肩や腕がバキバキ!メキメキッ!と、軋む音がするからアガレスは瞳孔を見開き、強烈な痛みに最早声すら出せない。
「ッーー!!」
「アガレス君!!」
ブン!ブン!音をたてて砲丸を振り回すテペヨロトルはフーッ!フーッ!と鼻息を荒くする。
「僕のダーシーニニニ…近づくなアァァアアア!!」


ドガンッ!!

「がはっ!!」
「アガレス君ー!!」
砲丸でアガレスの腹部を思いきり叩きつければ壁ごと突き破り外へ投げ出されたアガレス。白眼を向き、口と腹部から真っ黒な血を噴く。
「アガレス君!!きゃっ!」
駆け寄ろうとしたが、両足手錠をされているから歩けず立ち上がっただけで転んでしまうメア。
「僕のダーシー…チュー…チューしテテテ…結婚しテテテ…」


ズシーン、ズシーン…

アガレスの返り血を裸の上半身に浴びた惨たらしい姿のテペヨロトルが、再びメアの元へ歩み寄る。メアは首をゆっくり横に振り、「嫌…!嫌…!」と言いながらジリジリ後退り。
しかしもう後ろは壁で、下がれない。テペヨロトルは目の前。メアは目を強く瞑る。
















「僕のダーシー…チュー…チューしテテテ」
「嫌っ…、嫌だよっ…、アガレス君助けてっ…」
「最初から素直にそう言えば良い」


スパン!

「えっ…?」
声がして、メアがハッ!と顔を上げると。
目の前に居るテペヨロトルが真っ二つに斬れ、その間からアガレスの姿が見えた。


グラッ…、

斬られたテペヨロトルがメアの方へ倒れてくる。
「貸せ」
「えっ」
アガレスがメアを抱き上げ、倒れてくるテペヨロトルを横に避ける。


ドッスーン!!

真っ二つになったテペヨロトルの巨体が、崩れ落ちた。アガレスが抱き上げて避けてやらなければ今頃メアはテペヨロトルの巨体の下敷きになっていただろう。


















しん…。

先程までの戦いの音が嘘のように静まり返った。
真っ二つになりうつ伏せで倒れているテペヨロトルをアガレスに抱き上げられたままポカーン…と見ているメア。
「テペヨロトル神…死んじゃったの?」
「まだ分からん。堕天前の俺の力なら確実に仕留められたが今の力では殺れたかどうか確定できん」
「そっか…。…って!何で私がアガレス君にお姫様抱っこされなきゃいけないのー!!」
耳まで真っ赤にしてギャーギャー暴れるメアに、アガレスはキョトン。
「お姫様抱っこ?何だそれは」
「アガレス君がしてるこれがそういう名前の抱っこなんだよっ!」
「?そんなに目くじらたてる事なのか」
「当っ然!!だってこれはいつか御殿さんにしてもらう為に2000年も誰にもされないようにしてきたんだよ!それなのに…はあぁ〜…何でアガレス君なんかに…。もう嫌っ…」
手錠されたまま顔を手で覆うメア。アガレスは未だお姫様抱っこが何なのかさっぱり分からず、キョトンとしていた。
「あ!アガレス君それ取って!」
「ん」
「それ!床に落ちてる朱色の御守りだよ!」
「ああ。あれか」
「うんっ」
床に落ちている御守りを指差すメア。メアを抱き上げたままアガレスが右手を御守りに伸ばす。
「僕、の、ダーシーィイイィイイ!!」
「きゃあ!?」
ふわっ!と、アガレスの手からメアがつまみ上げられる。何とテペヨロトルは真っ二つになりながらも立ち上がり、メアを奪ったのだ。
「ダーシー殿!」
「汚ったねぇ御守りだなぁ」


グシャッ!

「!」
御守りを黒いヒールで力強く踏みつけて真っ二つに引き裂いた者。アガレスはバッ!と顔を上げる。そこには、白地に黒と白のストライプのドレスを着て真っ黒い短髪に、目の下に黒い不気味なペイント、口の中と爪が真っ黒な長身の女が。
「ベルベットローゼ…!」
「様、だろ。アホアガレス」


ゲシッ!

「っ"!」
「アガレス君!」
アドラメレクの配下の膝ベルベットローゼに思いきり顎から上へ突き上げ蹴られたアガレス。後ろへ転倒。その腹部を…


ドスッ!

「ぐあ"ぁ"ぁ"あ"!!」
「ヒャッヒャッヒャッ!さっきテペヨロトルのデブにやられた腹だぁ!痛てぇだろ?痛てぇよなぁクソアガレス!ヒャッヒャッヒャ!」
「ベルベットローゼ神!何て酷い事をするの!!」
「ピーピーうるせぇんだよ裏切り者。俺らと敵対して人間共につくなんざ、善人気取りか?あぁ?」
「善人気取り!?私とアガレス君は神として当然の事をしているだけだよ!!ベルベットローゼ神達のやっている事は間違っているよ!!気に入らない人間を神の力で殺しているだけでしょ!!」
「愛欲による不浄、穢れ。オレらはそんな事をするように人間を創っちゃいないんだぜ?なのに人間はそれを平気でする。愛欲による猟奇的事件を下界の警察共がそいつらを裁けねぇでモタモタやってるから俺らが代わりに裁いてやってんだよ」
「確かに罪を犯す人間は裁かれて当然だよ!!でも下界には下界のルールがあるの!神が手を加えちゃ下界の均衡が崩れちゃうよ!!それに最近は気に入らない人間に造り直しの儀を施しているでしょ!!此処の修道長さんにだってそうでしょ!!」
「あのババァは修道長ってだけで神気取りしてたからムカついて殺ったんだよ」
「ほら!!気に入らないだけで殺めているでしょ!!」
女だが男口調なベルベットローゼは頭を掻きながらはぁ、と溜め息吐くとメアをギロッ!と睨む。
ビクッ!
さすがのメアも物怖じ。
















「ピーピーピーピー。2000年前からうっせぇんだよダーシーてめぇ。追放された分際でまーだ神気取りかよ?うぜぇ。おーいテペヨロトル」
「フーッ!フーッ!」
真っ二つにされたのに普通に生きているテペヨロトルは、まだ鼻息を荒くして怒りながらもベルベットローゼの方を向く。ベルベットローゼは足を組み、腕も組みながら右手人差し指でメアに差して真っ黒い歯を覗かせてニィッと笑う。
「そいつチョーうぜぇから黙らせる為にヤっちまえよ。てめぇの言う事しかきけねぇように調教しながらさぁ。ナイスアイディーア。だろ?」


ゾッ…!

メアは一瞬にして血の気が引くのに、テペヨロトルは顔を真っ赤にして頭上でバシン!バシン!両手を叩いて大喜び。
「僕のダーシーィイイ!僕のダーシーィイイ!何でもしてイーイイイ?」
「ああ。なぁんでもして良いぜ。ヒャッヒャッヒャ!んで。背後から攻撃しようとしてんのモロバレだからクソアガレス」
「!」


ブスッ…!

「アガレス君!!」
「あ"ぁ"あ"ぁ"あ"!!」
気配を殺してベルベットローゼの背後にまわったアガレスに背を向けているのに、アガレスに背を向けたまま背中から生えたコウモリの黒い羽でアガレスの腹部を貫通して攻撃するベルベットローゼ。


ドサッ!

「う"あ"ぁ"あ"!!」
「ヒャッヒャッヒャ!てめぇ堕天されて悪魔になっちまったんだろ?悪魔の気配ってもんは殺しても殺しきれねぇんだよ!バレバレだクソアガレス!」
羽にアガレスを突き刺したままブンッ!と振り落とす。
「ぐあ"!」
「アガレス君!」
「ダメダメメメ…!」


ガシッ!

行かせまいとメアを掴むテペヨロトル。ジュルジュル気持ち悪い唾液を滴ながらメアを舐めるように眺める。
「僕のダーシー…、僕のダーシー…、可愛イイイ…」
「やめてよ!放して気持ち悪い!」

















「おっと。忘れ物だぜダーシー」


パラ…パラッ…

「酷いっ…!!」
先程踏み潰した御守りをわざとメアの目の前でバラバラにして落とす。
じわっ…
メアの目に涙が浮かべば、それを待ってましたとばかりに声高らかに笑うベルベットローゼ。
「ヒャッヒャッヒャ!最っ高だぜその面!」
「御殿さんが初めてくれたプレゼントなのにっ…!」
「御殿?ああ。オンボロ神社の神か。あいつもオレらに反対みたいだったからなぁ近々ぶっ殺しに行くかぁ。思い出させてくれてありがとよ、ダーシー」


ガンッ!

「っあ"!!」
メアの顔面をグーで殴れば青い鼻血が垂れる。
「ヒャッヒャッヒャ!最っっ高!!」
「ダメメメ…!僕のダーシーいじめちゃダメメメ…!」
「あー?こういう可愛がり方もあるんだよ。一発やってみろよ。クセになるぜ。ヒャッヒャッヒャ!」
「こウウウ…?」


バシン!

「あ"う!」
メアを叩いたテペヨロトルは叩いた自分の手を見て、感動。
「おオオオ…!おオオオ…!」
「だろ?クセになるぜ」
「楽しイイイ…!可愛イイイ…!」


バシン!バシン!

テペヨロトル的には可愛がっているつもり。だがメアは何度も何度もその巨大な手の平に叩かれ血を噴き、意識朦朧。




ズシャァ…!

「あレレレ…?もうおしまイイイ…?」
力尽き、床に崩れ落ちるメア。ヒュー、ヒューと微かな呼吸音しか聞こえない。
「そう。そうして弱ったとこをヤっちまえよ。裏切り者だ。何されたって仕方ねぇんだよ。ヒャッヒャッヒャ!」
「可愛イイイ…可愛イイイ…僕のダーシー可愛イイイ…。もっと可愛がってあげルルル!!」
気を失っているメアを仰向けにさせ、ボロボロで青い血塗れの制服のブレザーをビリッ!破く。
「可愛イイイ!ダーシー可愛イイイ!」


ビリッ!ビリッ!

リボンをワイシャツを破き、下着に手をかけた時。巨大なテペヨロトルの手の甲を、真っ黒いブーツを履いた右足が踏みつける。テペヨロトルはゆっくりゆっくり顔を向ける。
「ハァ…、ハァ"…」
そこには、フードをかぶっているものの額からポタポタ黒い血を流し…いや、額だけではなく集中攻撃を受けた腹から最も血をボタボタ流す真っ青な顔のアガレスが睨み付けていた。テペヨロトルの手の甲を踏みつけているアガレスを視界に捉えた瞬間、恍惚状態だったテペヨロトルの表情が一変。怒り狂う。
「邪魔マママ!お前さっきから邪魔マママ!ウガアアアアアア!!」


ブンッ!

砲丸を振り回す。
「うるせぇんだよ!!」


ドゴォッ!!

「え…えエエエ…?」
何と左手拳だけで、アガレス達の体より遥かに巨大な砲丸をかち割ったアガレス。テペヨロトルもさすがのベルベットローゼも目が点。あんぐり。


バラバラッ…

愛武器が無惨にも欠片になって落ちていく様を悲しげに見つめるテペヨロトル。
「何デデデ…?どうしテテテ…?こいツツツ…弱っちかったのニニニ…」
「…ハッ!馬鹿野郎!避けろテペヨロトル!!」
「え、」


ブシュウウウ!!

真っ黒い闇を纏ったアガレスが武器の槍で背後からテペヨロトルを斬りつけた。
「ウギャアァアアア!!」
今度は4等分に斬られたテペヨロトル。4つの肉片がゴロン!ゴロン!転がる。粉々になったテペヨロトルの肉片が四方八方にビチャ!ビチャ!と飛び散り、ベルベットローゼ自慢のドレスにも飛び散る。
「なんっ…だよ…!?さっきまで弱っちかったクソアガレスに一体何が、ぐあああ!」


ドスッ!

ベルベットローゼの背中をアガレスの武器の槍が貫く。
「ガハッ!!」
ベルベットローゼの体を槍で貫通したまま。串刺しのままにするからベルベットローゼは、
「ギャアアァアアア!」
暴れ、口から血へどを吐く。


















「ク、クソアガレス…!てんめぇえ!何したぁあ!…!?」


ザワッ…!

振り向くとそこには。無表情だったはずのアガレスがベルベットローゼを串刺しにしたまま、黒い闇を纏い笑っていた。その笑みはまるで悪魔。ベルベットローゼも背筋が凍る。
「んなっ…!?クソアガレスてめ、ウギャアァアアア!!ヤメロヤメロヤメロヤメロォオオ!!」
串刺しにしたまま槍でベルベットローゼの内蔵をビチャビチャ!グチャグチャ!掻き回すアガレス。
「ヤメロヤメロォオオ!ギャアァアアア!!」
「ハハハハハ!それだよそれだよォオ!!もっと啼けよ!喚けよ!神共!ハハハハハ!!」
「僕…の…、ダーシー…チュー…しテテテ…結婚…しテテテ…」
「あぁ?」
4等分されてもまだ肉片達が床を這い、メアに近付くテペヨロトル。


ピタッ…、

下は制服のスカート、上が下着姿の気絶しているメアの体にテペヨロトルの指が触れる。が、その指を踏みつける闇を纏ったアガレスの足。
「僕の…ダーシー…だ…ゾゾゾ…!」
「あ?気持ち悪るい喋り方してんじゃねぇ豚!」


ガン!ガン!ガンッ!

たった一蹴りでテペヨロトルを修道院の外まで蹴り飛ばしてしまったアガレス。
「ハハハハハ!無惨だ無惨だ!無惨な最期だぜ神!アハハハハハ!」
「てんめぇ…!クソアガレス、調子に…乗るのもいい加減、」
「てめぇも黙れよ男女!!」
槍に串刺ししたままベルベットローゼをブンッ!と放り投げ、壁に叩き付ける。


ドスン!

「があっ!」
「ハハハハ!死ね死ね死ねェエ!!てめぇら全員死に絶えやがれ!ハハハハハ!!」


















――っぐ…!くっそ…が!何でこんな堕天された腰抜け野郎になぶられなきゃならねぇんだよ!それにこいつ、明らかにさっきまでと違う別人かよ!?…ハッ!そうか…。こいつは神の力は失ったが、堕天されて悪魔になったんだよな?なら纏っている闇も、攻撃力も悪魔のモノなのかよ?心なしか顔付きも口調も性格も普段のクソアガレスと違って…、――
「トドメだ。神」
「!!」
目の前に槍を向けられたベルベットローゼ。
――しまった…!考えに集中して気づかなかった…!――


カラン!

「う"あああああ!!」
「あぁ…?」
絶体絶命のピンチ。…だったはずのベルベットローゼ。あと一歩のところで突然アガレスは武器を落とし、自分の顔を覆い、仰け反り狂ったように声を上げる。
「う"あああああ!!」
「なん…だよ?…ハッ。訳わかんねぇけど…オラよ!!」


ドガン!ガン!

壁を突き破る威力でアガレスを蹴飛ばしたベルベットローゼ。修道院の外まで吹き飛んだアガレス。トドメめを…と思ったが…


ガクン…!

「チィ…!このままじゃ天界へ戻る力も残ってねぇ…!次会う時がてめぇの墓場だクソアガレス…」


フッ…!

ベルベットローゼは貫通された背中と腹を押さえながら、煙のようにフッ…!と消えてしまった。



















「っあ"…、俺…は…一体…?」
正気を取り戻したアガレス。纏っていた闇も消え、頭を抱える。
「あ…!」
視界遠くに、修道院内で気絶しているメアを捉えるとボタボタ血が止まらない腹を押さえ、ヨタヨタおぼつかない足取りでメアの元へ歩み寄る。
「ゲホッ!ゴホッ!…ダーシー殿…」
返事は無い。下着姿の彼女を哀れに思ったのか、アガレスは自分のフード付きの上着を脱ぐと、メアにかけてやる。
「ん…」


ピクッ、

メアがゆっくり目を開く。ぼやける視界にアガレスらしき人物の顔が歪んで見えて…だんだんとはっきり見えるようになると目を見開く。
「あ…れ…?テペヨロトル神と…ベルベットローゼ神は…?」
テペヨロトル神の肉片が転がっており、ベルベットローゼの姿が見当たらない。メアはアガレスを見る。
「アガレス君…?」
「……」
「ありがとう…」
「いや。俺は」
「ありが…、うぅっ…うわああん!」
「!?」
突然声を上げ、子供のように泣き出したメアにアガレスはギョッ。
「どうしたダーシー殿」
「うっ…うわああん!私ダメだぁ!また意地張ってアガレス君に助けられてアガレス君を危険な目に合わせたよぉ!うわああん!」
「意地っ張りなのは今に始まった事ではないだろう」
「そうだけどっ…、そうだけど!ごめんね、ごめんねアガレス君!私なんかと同じ班で嫌だよね?もう意地っ張りやめるから!ごめっ…うわああん!」
はぁ…。肩を竦め、溜め息を吐く。
「ダーシー殿。貴様は本当人間のようだな。笑いたい時に笑い。怒りたい時に怒り。泣きたい時に泣く」
「怖かった…」
「ん」
「怖かったんだよっ…テペヨロトル神に何されるか怖かった…怖かったんだよすごくっ…」
アガレスがかけてやった上着をきゅっ…と握り、体を隠すメア。
「私の知ってるテペヨロトル神は山に住む人間に手助けしてあげる優しい山彦神だったから。あんなテペヨロトル神見た事無かったから怖かった…」
「……。テペヨロトル殿が祀られていた山は人間の手により伐採され今は高速道路が造られたらしい」
「それで…」
「祟り神になった。と以前聞いたがな」
「それで人間を恨んでアドラメレク達の案に賛成したんだ…」
アガレスは片膝立ててメアの前に屈み、ポン、と頭を撫でる。
「無事か」
「え…?」
「何もされなかったかと聞いている」
「…!うん。大丈夫だよ。えへへ。アガレス君に心配されるとびっくりしちゃうね。突然優しくされるとびっくりしちゃうからやめてよねっ」
「何だそれは。失礼な」
「アガレス君。手、出して」
「む」
右手の平を出す。メアはアガレスの右手の平に何やら文字か記号を描くからアガレスは首を傾げる。













「何をした」
「御殿さんがね。私が小さい時教えてくれたおまじない。良い事がありますように、って」
「くだらん」
背を向けるアガレスの、ポケットに入れたままの左手をじっ、と見るメア。
「アガレス君。左手も出して」
「断る」
「両手に描かないと効果が無いんだよ!」
「無くて良い」
「いいから出ーしーて!」
ぐいっ!
後ろから左手を引っ張る。
「おい。ちょっと待て。やめろ!」


スポッ!

ポケットから抜けた左手。
「はい。出た〜。じゃあ手の平にさっきと同じおまじない描くからねー……え?何これ」
「放せ!」


バッ!

左手をすぐさまポケットに入れ、背を向けるアガレス。メアはきょとん。
「あれ?アガレス君今のって…」
「ダーシー殿」
「え?何?」
「何事も無くて良かった」
「え!もーっ。アガレス君!だからそうやって突然優しくなるのやめてよね!いつもみたいに蹴り入れられなくなっちゃうでしょっ。えっへん!何だかんだ言ってアガレス君は、下界在住歴の長い先輩の私が居ないとダメだもんね!」
「自分で言うな雌豚が」
「はいはいっ!」
メアは後ろからアガレスの肩にぴょん!と手を乗せる。アガレスは嫌がって顔を背けるが。














「また、食事をうまくこなす事とか神様だってバレないようにする方法いっぱい教えてあげるからねっ」
「……。ああ。頼む」
「じゃあ、ベリーキュートなメア先輩よろしくお願い致しますって言って!」
「断固断る」
「もうっ!あれ?どこ行くのアガレス君」
「木偶の坊と雌豚が町で造り直しの儀を施された人間と交戦中だ」
「トム君とアイリーンちゃん!?急いで行かなきゃ!人間の2人だけじゃ不安だよ!」
テペヨロトルが死んだ事でテペヨロトルが造り出した手錠がほどけたメアは立ち上がる。が…


ガクン!

「あれっ?足に力が入らないっ!」
仲間を助けに行きたい気持ちとは反対に、体に力が入らず膝から崩れ落ちてしまう。
「いい。そのままそこで待っていろ」
「ダメだよ!私だけ助けられてばっかりだもん!私は班長だから行かなきゃ、」
ビシッ!
アガレスはメアを指差す。
「意地を張るのはやめたのではなかったか」
「そうだけど…。アガレス君だって怪我してるのに私ばっかり…あ!ちょっと待ってよアガレス君!」
メアが話し途中なのもお構い無し。跳び上がり、タンッ!タンッ!と修道院や民家の屋根を伝って去っていってしまうアガレス。メアは、ふぅ…と息を吐き壁にもたれかかり、天井を見上げる。
「アドラメレク神達に賛成した神はみんなあんな風になっちゃってるのかな。御殿さんも祟り神になってたら嫌だなぁ…」
























町――――

「遅いんだよ転入生!」
「すまん」
「神ニ逆ラウ人間…殺ス…」
「くっそ!いい加減にしろ操り人形共!!」


ドン!ドンッ!

トムは息を上げながらも、造り直しの儀を施された人間達を一掃する。見たところあと30数体。
「アガレス様!そのお怪我は!」
「ん。ああ。どうって事ない」
「大丈夫かよ転入生!?なあ!お前が戻ってきたって事はルディや修道長は無事なんだろうな!?くっそ!話し途中にも襲い掛かるなよ泥人形!!」
「メア殿なら大丈夫だ。修道院についてはこの後話す」


ズズズ…!

「!?転入生何だよお前のその武器…!?」
アガレスが体内から繰り出した真っ黒い闇を纏った禍々しい武器に、トムは顔が青ざめ呆然。
だが、アイリーンはアガレスとトムには見えない位置で目を見開き、口元を笑ませていた。
「真っ黒いその槍まるで悪魔の武器かよ!?」
「下がっていろ」
「ムカッ。何だよそれ!まるで俺が戦力外みたいな言い方、」
「巻き込まない保証は無い」


ゴオッ…!

「うわっ!?」
アガレスが武器を構えれば武器から放たれる真っ黒い闇が辺り一帯を飲み込み、その闇が強風を起こす。トムは顔の前に腕を翳して強風を何とか踏ん張って堪える事で精一杯。
「っ…、なん、だよその武器!おい!アイリーン無事か?…?アイリーンお前平気なのかよ?」
小柄とはいえ男のトムも吹き飛ばされそうな強風なのに、トムより小柄で細身のアイリーンは強風にビクともせずただただアガレスが取り出した武器をボーッと眺めている。トムは不思議に思い、アイリーンに歩み寄る。
「おい、アイリーン?お前どうし、」


ドン!ドンッ!

「うわあ!?」
「神ニ逆ラウ人ゲッ…、」
アガレスが武器を降り下ろせば闇に包まれた泥人形達はたちまち塵となり、一掃。武器を体内へ戻し、平然とトム達の方を向くアガレス。
「終了した。帰還するぞ。早く休みたい」
「お、おお…。転入生お前めちゃくちゃ強えんだな…」
アガレスの脳裏で、先程ベルベットローゼにコテンパンにされた自分の姿が甦る。アガレスはくるっ。背を向ける。
「そんな事はない」
「自慢かよ。アイリーン。アイリーン?行くぞ」
「…ハッ!は、はいですわ!」
「?さっきからボーッとして。どうしたんだお前?」
「何でもありませんわ!」
「…?それなら良いんだけどよ」
ハッ!と我に返り、にこにこ。いつもの美少女スマイルで微笑むアイリーンを、顔だけを向けてチラッと見るアガレスだった。






























ヴァンヘイレン――――

「お前らよくやったなぁ!」
「もっちろんですっ!」
無事ヴァンヘイレンへ帰還した4人を1Eの担任教師は感心感心!と頷きながら誉めてくれる。教師は顎に手をやる。
「でもまあ、マルセロの町全体が造り直しの儀を施されていたとはなぁ…。操り人形は見た目、造り直しの儀を施される前の人間のままだから見分け辛いな」
「先生も実は造り直しの儀を施された人間かもしれないという事ですわね」
「ははっ。そうかもしれないぞ〜?」
「きゃっ!そうでしたらアガレス様に助けて頂かなければいけませんわ」
いつもの調子なアイリーンを皆スルー。
「よっし。初任務ご苦労!今日はオフで良いぞ。ゆっくり休め」
「はーい」






















天界―――――

「くっそがぁあ!!」


ガッシャン!!

「お、落ち着きなさいベルベットローゼ神!」
「落ち着けるかよジジィ!」
堕天された元神アガレスにあそこまで攻撃を食らうとは思いもしていなかったベルベットローゼ。天界に戻り、受けた体の傷は早くも完治した。が、受けたプライドの傷は癒えるどころか憎しみを生んでゆく。
テーブルや椅子を気の済むまで蹴散らし荒れ狂うベルベットローゼに、他の神達は手の施しようが無い。ただ見ているだけ。
「くっそ!」


ドスン!

椅子に腰掛け、頬杖を着く。
「堕天されても尚、神の力が彼に残っていたという事ですか?」
「いいや。違げぇ。あれは堕天されて悪魔になった力だ」
「ほう。では彼は悪魔側についたのですか?」
「違うんじゃねーの。そこまで分っかんねぇよ。オレは神時代からあいつの事が大嫌いだったからな。あいつの事なんざ知りたくもねぇ」
「昔から彼とは考えが合わないと嘆いていましたね。同郷に祀られていたのでしたっけ?」
「まあな。くっそ…!ダーシーの奴もムカつくし!神のクセに人間側につくあの裏切りコンビいつか絶対塵にしてやる!」
































ヴァンヘイレン宿舎、
メアとカナの部屋―――

「へえ!じゃあアガレス君が頑張ってくれたんだね」
「今回はね」
メアはカナのベッドに体育座りして頬を膨らませ、ちょっと不服そう。そんなメアをカナは気付かれないようクスッ、と笑う。
「それより!カナちゃん熱下がったんだね。大事に至らなくて良かった〜」
「ありがとう。メアちゃん。任務、行けなくてごめんね」
メアは首を横に振る。
「うんうん。行かなくて正解だったよ。神が2人も襲撃してきたんだよ!」
「えぇ!それなのにアガレス君1人で撃退したの?すごいね」
「カナちゃんほっぺ赤い」
「えぇ!」
「やっぱ趣味悪いよカナちゃん」
そうかなぁ?と顔を赤らめて言うカナ。
「でもアガレス君はメアちゃんの事が好きだよね」
「はあ?!どうしてそうなるのっ!?」
「だってよくお喋りしてるしこの前だって…」
「あれは事故!事!故!引っ張ったらたまたま私が倒れてその上にアガレス君が倒れてきただけだから!勘違いしちゃダメだよカナちゃん!私には、」
「2000年前から好きな人がいるんだもんねメアちゃん」
「そ、そうだよっ!そのくらい、って意味だよ?本当に2000年も生きてないからね!神様じゃないんだから」
あわあわするメアの話を、カナはいつもの穏やかな笑みで聞いてあげる。
「見てみたいなぁ。メアちゃんの好きな人。どんな人なの?」
「優しくて穏やかで可愛いところもある年上!」
「えぇ!年上なんだ。すごいねメアちゃん。大人だぁ」
えっへん!
何故か自慢気なメアを、パチパチ拍手するカナ。














「あ。そうだ。私、保健室から風邪のお薬貰ってくるね」
「うんっ!戻ってきたらまたトランプしようカナちゃん!」
「良いよ。しようしよう」
手をひらひら振って部屋を出るカナ。


パタン…、

「ふーっ!」
ベッドに横たわり、自分のツインテールの長い髪を指にくるくる巻き付けるメア。
「テペヨロトル神…あんなに優しいおじさん神様だったのにな。御殿さんもそうなってたら嫌だな…」
自分の左手をかざすと、何か思い出したように「あっ」と呟く。
「そういえばアガレス君の左手。いつも両手ポケットに入れていたから気付かなかったけど。意外とお洒落さんなんだなぁ。左手薬指に指輪なんかはめちゃってさ。あはは。似合わないでやんのー」
腹を抱えて笑うメア。
「…ん?左手薬指…?………………。え"ぇ"ぇ"!?まさか!?そんなまさかだよね!?あんな性悪が!?え"ぇ"ぇ"!?」
ガバッ!と体を起こすメア。ぶんぶん首を横に振る。
「ないないありえないありえないよー!!アガレス君バカだから、はめる指に意味がある事知らないんだよ!うん!きっとそう!絶対そう!」
下の階の廊下を歩くカナを小窓から見下ろすメア。
「……。とりあえずカナちゃんには言わないでおこーっ…」




















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あきゅろす。
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