GOD GAME ページ:1 「住職の後を継がずヴァンヘイレンへ入学する…!?本気で言っているのですか天人!」 天人の脳裏に甦るのは一ヶ月前のMARIAサーカス任務後、実家京都の尼子寺へ帰宅した時の出来事。夏だというのにひんやり寒いくらいな暗い寺の中。厳格でいかにも神経質な母と向かい合い正座をしている天人。 「天人貴方は尼子家の長男です。高校を卒業する来年には住職となり人間が通う仏教大学へ進学し、尼子寺を継ぐ宿命があるのです」 「それはよーく分かってるよ。物心ついた時から、あ。俺は将来の夢を叶えられないんだな、坊さんになるしかないんだな、って気付いたしさ。でも俺がヴァンヘイレンへ入学したいのは奏が心配だからだって言ったじゃん。坊さんになるのは先伸ばしできるけど、奏の事は後回しにできないんだって。悪魔化が進んで手遅れにならないようにする為に俺が今ヴァンヘイレンへ入学しなきゃ意味が無いんだって。明の二の舞になる前にさ。奏にかかった呪いを解けたら帰ってくるからさ。そしたら坊さんにでも何にでもなってやるって!」 太股に手を着いて立ち上がり、障子戸に手をかけて背を向ける息子を母が苛立ちながら声を荒げて引き止める。 「待ちなさい天人!私はそれが許せないと何度も言っているでしょう!貴方が何故椎名家にそこまでして命を張らなくてはいけないのですか!私は己の美貌だけで富を得るやり方しか知らない椎名まひるが大嫌いです!椎名まひるの血を継いでいる椎名奏も、椎名家が大嫌いなのです!現に天人貴方は11年前、奏のせいで呪われたのですよ!?なのに何故貴方は自分の呪いをそっちのけで奏の呪いを解いてやるのです!?貴方が呪われた理由の奏など、悪魔に呪われても自業自得!放っておきなさいあんな子!」 「何故呪いを解いてやるかって?」 天人は障子戸に手をかけたまま顔だけを振り向いた。口は笑っているのに酷く悲しそうな表情をして。 「そんなのも分からない人になっちまったのかよ母さん」 「なっ…!?」 ピシャン、 「天人!待ちなさい!天人!天人!!」 場面は戻り、現在―――― 新幹線に揺られながら窓際に肘をかけて、流れ行く車窓からの景色をボーッと眺めている天人。実家を継がず飛び出してきた事やこれから果たして本当に自分は椎名の呪いを解いてやる事ができるのか?という考えがぐるぐる渦巻いていた。 「――人」 「……」 「―人」 「……」 「天人!」 パチン! 「痛っつ〜!?何奏!?」 ボーッとしていた天人の額に勢いよくデコピンをした椎名。我に返った天人は大袈裟に額を押さえながら「うおおおお!」と叫ぶ。 「あ"ーーッ!奏にデコピンされたおでこ割れたァー!あ"ー!」 「うるさいよ…車内では静かに…。だって…何回呼んでも天人…反応無かったんだもん…」 「へ?あー…、悪い悪いっ!ちょっと考え事しててさ!」 「どうせ…変態な事…だね…」 「そっそ〜!女の子の事考えてたの〜♪」 「きもっ…」 「きもって言わないの!!」 1E夏休み初日。故郷日本の京都へ向かう新幹線に揺られる椎名と天人の夏休みが始まった。 ガサガサ音をたてながら駅弁の紙を破き、割り箸を持ちながら合掌する2人は声を揃える。 「いっただっきまーす♪」 「いただきます…」 世間の夏休みとはズレているからか、新幹線の中の2人以外の乗客は会社で出張先へ向かうサラリーマンばかりだ。 「天人…どうしてヴァンヘイレンに…入学したの…」 「だって〜坊さんになると頭坊主にしなきゃじゃん!?それがヤダっただけ!」 「それだけの理由…。はぁ…天人…お洒落気にするもんね…。しいたけ…あげる…から…何か…ちょうだい…」 「奏まーだしいたけ食えないのかよ〜!ん、じゃあトマトプレゼーンツ♪」 「トマト…だけ…?」 「分ーったよ!はい、唐揚げもプレゼーンツ!」 「ありがとう…」 「あと…どれくらい…で着く…?」 昼食を食べ終えた2人は眠気に襲われながらも寝ないように堪える。 「あと30分ちょい?」 「じゃあもうちょっと…だね…」 「奏さー」 「うん…?」 「造り直しの儀を施された人間…天人クン命名dollってどんな感じなの?」 天人の質問に、椎名は顎に人差し指をあてながら天井を見てから答える。 「うーん…見た目だけじゃ…dollかどうか…判断し辛いよ…。でも…"アドラメレク様万歳"とか…アドラメレクを讃えている言動があれば…dollだ…って判断できるから…」 「ふーん。じゃ、喋らなきゃ見た目普通の人だから分かり辛いってやつね。じゃあどうして奏達ヴァンヘイレンの奴等はdollの居場所が分かるん?」 「dollって…馬鹿だから…"アドラメレク様万歳"って騒いだり…している人がいる…って近隣住民から…通報があって…出動したり…。dollが…普通の人間に襲いかかるから…襲われた人間が…dollが居るって…通報したり…してくれるから…居場所が…分かる…んだよ…」 「なーるほどね!はーぁ。奏はエースだから心配無いだろうけど。俺、神やdoll達と戦えるか実は不安なんだよね〜」 頭の後ろで手を組み、背もたれにもたれかかる天人。 「大丈夫…だよ…。天人は…ヒーロー…だから…」 ニカッ。と笑う天人。 「だよな!?」 「うん…」 『次は京都〜京都〜。お降りの際はお忘れ物の無いようお気をつけ下さい』 新幹線が京都に到着した。 茶屋――――― 「えー!天人君ヴァンヘイレンに編入しちゃったの!?通りで最近見掛けないしお店に来ないわけだよー!」 「ごめんごっめーん!寂しい思いさせちゃった?」 「寂しかったに決まってるよ〜!」 京都に着き、天人馴染みの茶屋であんみつと八ッ橋を笠の下で食べる椎名と天人。 天人は相変わらず、茶屋の娘であり天人の同級生と楽しそうに話しているから、天人のそういうところは大嫌いな椎名は八ッ橋を食べながらイライラ。 「じゃあ夏休み中は京都に居るの?」 「まあねー。って言っても夏休みは一週間しかないけど」 「うっそー!?短ーい!信じらんない!」 「ま、学校って言っても軍みたいな場所だからね〜。夏休みあるだけマシかも」 「じゃあ夏休み中泊まりに来てよ!」 「マジでー!?行く行、痛だだだだ!?奏!耳引っ張らないで!」 ギューーッと天人の耳を引っ張る椎名に、茶屋の娘は引いてしまい「あ、あたし仕事あるから…じゃあね」と店の中へ戻ってしまった。そこでパッ!と耳から手を放す椎名。 「かなちゃん!!俺が耳無し芳一になっても良いのっ!?」 「なれば良いじゃん…」 「あんみつと八ッ橋おごってやったってのにお前って奴はーー!しかも鈴ちゃんドン引きして逃げちゃったし!奏のバカー!!」 「お花…?」 茶屋を後にし、久しぶりの故郷の下町商店街を歩きながら天人がやって来たのは一軒の花屋。 「そっ。おばちゃーん。この仏花三束プリーズ!」 「あいよ〜。って、あれぇ!?天人君じゃないかい!?帰ってきてたんやねぇ!」 「ま、ね〜」 花屋のふくよかでエプロンをつけた中年女性も天人の顔馴染み。天人は購入した仏花片手に中年女性ににこやかにヒラヒラ手を振り、店を出た。 「天人君帰ってきてたんや?!ちょっと寄っていきな〜!良いお茶葉入ったんよ!」 「尼子寺の坊っちゃんおかえりなせぇ!坊っちゃんの好きな抹茶アイスサービスしますぜ!」 「天人くーん!新作の和菓子なんやけど味見してくれへん?」 商店街を歩けば天人を知らぬ者はいないという程店員達から声をかけられ、食べ物やお茶をサービスしてもらったり新作の試食を頼まれたり…と相変わらず顔の広い天人。とは対照的に誰1人として、後ろからついてくる椎名の事は呼び止めないから椎名は内心落ち込む。 「うんめー!やっぱ田中のオッチャンが挽いたお茶は逸品だぜー☆」 「天人…。夏休み中…本当に…天人の実家に…泊まって…大丈夫…なの…?」 「大丈夫って言っただろ〜?父さんと母さん2週間仕事で留守にしてるからさ。家に居るのはお手伝いさんと弟と妹だ・け☆だから安心しろってーぃ!」 ガシッ!と肩を組んで親指をグッ!とたてる天人の腹に一発蹴りを入れる椎名。 ドスッ! 「ぐはぁ!!」 「じゃあ…早く…行こう…僕疲れたから…早く…横になりたい…」 スタスタと舗装された山寺の方へ歩いていく椎名の後を腹を抱えてひぃひぃ言いながら追い掛けていく天人だった。 尼子寺――――― 坂を登り、生い茂る樹木達の山を少し登った所に構えている大きな墓地と寺が尼子寺だ。 墓地の間を通り、本堂へ行く前に一つの新しく光る灰色の墓の前に立ち寄る2人。墓石には「早矢仕」と刻まれていた。 「このお墓って…」 「そ。明と明の父ちゃんの墓!」 屈み、先程買った仏花の内一束を添えて合掌する天人を見て、天人の後ろで立ったまま合掌する椎名。 「明。お前が本当の弟のように可愛がった奏が会いに来たよ。一ヶ月振りかぁ。寂しかっただろ。奏なかなかお参り来れないんだから、奏の顔よーく見とけよ」 「……」 「よっし!次はあっちー!」 立ち上がると、二束の仏花を持って奥へ進む天人。 「奥…?」 「そ。お前まだお参りしてなかっただろ由樹ちゃんの墓…って何だよこれ!?」 明(ババロア)の墓を参り終えて2人が次に向かった墓は由樹の墓…なのだが。何と、由樹の真っ黒く光る墓石は倒れ、辺りには枯れた仏花達が無惨に散らかり、果てには墓の下が掘り返された跡も見られ、酷く荒らされていた。 すぐに駆けつけた天人が墓石を立てて、掘り返された跡を埋め、散らかる枯れ花を集める。 「何だよこれっ…!どこのどいつだ!由樹ちゃんの墓こんなにしやがった罰当たりは!」 スンッ… 「…?」 片付ける天人の後ろに立っていた椎名は、一瞬かすめた臭いに反応する。 「ったく!見つけたら天人クンがボッコボコにしてやる!」 「今…変な臭い…した…」 「ちょーーっ!?こいてない!こいてないからね俺は!?」 「バカ…。そっちの臭いじゃなくて…何か…湿ったままの洗濯物…みたいな…臭い臭い…した…よ…」 天人は犬のように鼻をくんくんさせて、静まり返った墓地のニオイを嗅ぐが… 「?全然しないけど?」 「そう…かな…。一瞬…だったけど…した…よ…」 「あ〜!分かった〜!かなちゃん自分が屁こいたのにそう言って俺のせいにしようとしてるで、痛だだだだ!ちょ、ギブギブ!タンマ!墓地で首絞めないで!このまま墓行きとかヤだから!!」 ガラッ、 「お兄ちゃんおかえりなさーい!」 昔懐かしい木造の引き戸を開ければ天人の弟達3人と妹達2人が元気よく家の中から飛び出してきた。同時に彼らは椎名の従弟妹達でもある。 「おーただいま〜!お兄ちゃん帰還したぞーッ!」 「あっ。奏兄たんも一緒だ〜!」 末妹真由が4歳が椎名の足にしがみつけば、無表情クールな椎名もさすがに目を見開いて頬をほんのり赤くする。 「奏兄たんおかえりなさぁ〜い!」 「た…ただいま…」 「真由ね〜おおきくなったら奏兄たんのお嫁さんになるの〜!」 「!?」 「真由ーー!!こんな仏頂面無愛想毒舌野郎のお嫁さんになっちゃいけませんッ!!お兄ちゃんみたいに優しくてイケメンな人を選びなさいッ!!」 「きゃ〜!」 バタバタと逃げていく末妹真由を追い掛ける天人。椎名はまだ4歳の真由だがその発言に少しドキドキしていたそうな。 「ったく〜。まだ4歳だってのにどーこで覚えてくるんだかっ!あ。奏、今からも1つ出掛ける場所あるから行くよーん」 「え…何処…?」 「お前らー、お兄ちゃん帰ってくるまでに夕飯作っといてー」 「はーい」 「じゃ、行こっか奏」 「??」 何処かも知らされていない椎名が首を傾げているのもお構いなしに天人は弟と妹達に夕飯作りを頼むと、再び家を出た。 ピシャン、 家を出て境内も出た天人についていく。山の中の尼子寺の裏手を登っていくと現れたのは開けた小川。だが人の気配は無く、しん…と静まり返っていて不気味。 小川にかかる苔むした木造の小さな橋をずんずん渡っていく、仏花を一束携えた天人の背中を眺めて椎名は不安そうに後ろから天人の上着の裾を引っ張り、立ち止まる。 「天人…やだ…行くのやめよう…」 裾を引っ張り立ち止まる事で天人も立ち止まってくれると思っていたのだが天人は止まってはくれず背を向けたままずんずん橋を渡り、やがて渡り終えてしまう。 渡り終えた先には雑木林の中に苔むした小さな鳥居があり、その下には舗装はされていないものの誰かが入った形跡のある小道らしきものがある。そこを見ると、ただでさえ不安そうだった椎名の表情が更に歪んでいく。 「天人…この先って…」 「そ。御子柴神社」 「やだ!!」 「奏?」 珍しく張り上げた大きな声で意思表示をした椎名に驚いた天人は振り向く。椎名は橋の袂で頑固として立ち止まったまま動こうとしないし、天人を睨み付けている。 「何で…自分から行くの…。もう行かないって…行ったのに…。何で…」 「御子柴神社に祀られている御子柴神。この前MARIAサーカスで神々が襲撃した時居ただろ?」 「……」 椎名は不機嫌そうにブスッとしたまま返事も返さない。だがそんなの慣れっこな天人はお構いなしに話を続ける。 「俺の顔見て覚えてたよ。11年前ワタシが呪ってやった童だ…って」 「……」 「やっぱ悪神アドラメレクの手下は人間呪うくらい悪りぃ神だわーなんて思ってたんだけどさ。何気無く調べたわけ。御子柴神社と御子柴神の事。古書で。そしたら、俺ら呪われてもちょい仕方なかったんかなーって事が分かってさ」 天人は携えた仏花の束を見る。 「ま。それは神社行く道で話すよーん。おいで奏〜」 「あ…」 さっさと鳥居を潜り、小道を進んでしまう天人にイライラしながらも結局は嫌々ついて行ってしまう椎名だった。 「ガキの頃はまだ小さかったから階段が超長ッとか思ってたけど、高校生になってもやっぱ長いって感覚は拭えないわー」 雑木林の小道を進むと、山奥には数百段もの石段が現れた。石段も苔むしているし、まだ昼間だというのに山奥の獣道だからか太陽の陽射しが届かず暗く、ひんやり冷たい空気が張りつめていて不気味。 「はぁ、はぁ…あ"ーー!疲れたー!」 「まだ…20段も登ってない…よ…」 「奏」 「何…」 「友達できた?」 「……。そんなの…必要無い…よ…」 階段を歩きながら話し掛ける天人の後ろをついていく椎名は俯きながらそう答える。 「友達くらい作れよーこの根暗っ」 「ムカッ…」 「俺もずっと奏と一緒に居てやりたいけどそうもいかないだろうしさー」 「……!」 そう笑いながら言って振り向いた天人はまだ石段を20数段しか登っていないというのに本当に酷く息が上がり、汗をかいて疲れていた。それに仏花を携えた右手の皺がまるで年寄りのようだったから椎名は目を見開き驚く…だが、言いたい事は飲み込み、下を向いた。 「そんな事…言わないでよ…。縁起でも…無い…」 「悪い悪いっ!ポジティブシンギング天人クンらしくなかったかな!?」 「そんな事より…御子柴神の話…教えてくれるんじゃ…なかったの…」 ポン!と手を叩く天人。 「おー!そうそうっ。忘れてまっした〜☆」 再び石段を天人が先頭でその後ろに椎名が続いて登りながら話し出した。 「俺ら11年前に初めて御子柴神社行っただろー。その時さ、奏が神社の裏手を登った先に苔むした小さい祠見つけたじゃん」 「うん…」 ミーンミーン… 暑さを増させるうるさい蝉の鳴き声。 「それってさ御子柴神の祠なんだって」 「当たり前…だよ…だって…神様は…祠に…祀られているんだ…から…」 「うんー。でもさ、御子柴神の祠ってただの祠じゃないんだって。祠の周りにチョーいっぱい地蔵が囲むようにして置いてあったじゃん?あと真っ黒い鳥居もあったじゃん?」 「…?うん…?」 「御子柴神ってこの神社の神として生まれてきたんじゃないんだって」 「……。どういう…事…?」 天人は立ち止まる。だから椎名も立ち止まる。首を傾げながら。 「3000年以上前にこの土地の大蛇を鎮める為に人柱にされた元は人間だったんだって」 ザアッ…! それまで一切の物音がしなかった山奥で、突然風鳴りがして木々が風に揺れ出した。 ビクッ!として辺りをキョロキョロ見回す椎名。 「大丈夫だよ。今日は御子柴神は此処には居ない」 「…?」 「だから今日御子柴神社に行こうって言ったんだよ」 天人は淡々とそう言うと、再び石段を登り出した。 「元は…人間…?人間から…神様になんて…なれない…よ…」 「まあねー。そこら辺は俺もよく分かんないんだけーどさっ。でも人柱にした後その罪悪感からか村人が御子柴を祀るようになったから神になったとかじゃないのー?」 「……。鬼を…鎮める為に…?」 「そ、そ。古書にはさ"3121年前にこの辺り一帯の村に巨大な大蛇の化け物が現れては村人を食い荒らした"って書いてあったんだけど。ん・でー。村の中で唯一の神主と巫女さんの娘がいてその娘は霊感があったのかなー?まあ普通の人間とは違う力があったらしいね。悪霊を除霊したり妖怪を退治できるすげー力が。だから村人はその娘を鬼に献上してやる…と見せて、鬼が娘を食った時娘が鬼の腹の中からその特殊な力で鬼を殺してくれる!と信じて、娘をまあ生け贄にしたわけね」 「……。それが…御子柴神…?」 「そ。娘の名前は御子柴 雅(みこしば みやび)って書いてあったな。まー何とも昔の人間らしい御粗末な考えだよな〜。結局娘は食われただけで腹の中から鬼を殺すなんてカッケー事はできず、村人は全員鬼に食われちゃったってわけ。鬼は寿命で死んだんだけどさ。この話はこの村の隣村の人間が古書に残したらしいんだよな、俺が読んだ古書によると」 「……」 「本来仲間であるはずの村人達に生け贄にされた娘を哀れに思った隣村の人間達が御子柴神社を作って祠も作って祀って…そしたら何でか分かんないけど御子柴神になったらしいっつーコト!人間達が神として祀ったからじゃないかー?って俺は考えてるんだけどさ」 「でも…自分を生け贄にした…人間が…まだ…許せなかったんだ…ね…。だから…人間を殺す…アドラメレク側につく神に…なった…」 「村人達は供養したつもりだったんだろうけどな。御子柴神は根にもったってワケ。さっさ!着いたぜー11年振りの御子柴神社!」 話が終わるのと同時に石段を登り終えた2人が辿り着いた場所は。赤い塗装が剥がれ落ちて苔むした大きな鳥居とその奥には木造で今にも崩れそうな古い神社が。神社がある鳥居の奥は山奥というだけあり、真っ暗で夏なのにひんやり寒くて不気味。 天人は仏花を肩に乗せてずんずん進む。 [次へ#] [戻る] |