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GOD GAME
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神社の裏手の坂を登り、真っ黒い不気味な鳥居を潜った先には苔むした地蔵が数十体円を描くようにたっており、地蔵達の中心には苔むした小さな小さな御札まみれの祠が真っ暗な雑木林の中ポツン…と存在していた。祠の格子状の小さな扉が開いたままで中にも黄ばんだ御札が大量に貼られていた。
祠の前で屈み、ヤンキー座りをする天人。その後ろで椎名は柄にも無く微かに怯えながら立ち、祠からわざと目をそらしている。
「11年前に開けたまま開きっぱなしだな、祠の扉」
「天人…早く…行こうよ…」


パンッ!

天人は祠の前で強く目を瞑り、合掌する。
「まだガキだったとはいえ11年前は大変な失礼をしてしまいすみませんでした!」
「?」
祠を前に謝罪すると、天人は携えていた仏花を一束、祠に供えた。
「神社で騒いだり祠を勝手に開けたり…高校生になってやっと分かりました。俺達は貴方に呪われても仕方ない事をしたのだと。でもどうか、もう、罪無き人間を殺すなんて行いはやめて下さい。この通り!お願いします!!」
強く合掌してから、天人は椎名に顔を向ける。
「奏も」
「え…?」
「奏も謝ってな。11年前に御子柴神を怒らせた事」
「ふん…。僕…悪くないもん…。それに…今も…人間に…造り直しの儀を施す…悪神に…頭なんて…下げたくないし…」
「奏。謝ろ。な?」
「……」
天人の顔がやけに悲しくて優しかったから心を動かされそうになる椎名。だったが、くるりと天人と祠に背を向けて、歩いて行ってしまった。
「ふぅ…」
そんな椎名に溜め息を吐き立ち上がった天人はもう一度祠に合掌すると、椎名の後をついていくのだった。















祠を後にして、御子柴神社の前をウロウロ見回す天人。早く帰りたいのに天人がウロウロするから帰れずイライラする椎名。
「いやー。11年前より古くなってるなー。そりゃそっかー」
「天人…早く…」
「わー!かなちゃん待って!」
先を行く椎名の後を追い掛けて赤い鳥居を潜り、石段を降りる。
「何かさ。こうして奏とこの石段降りてると思い出すよな」
「……」
「奏あの時疲れたー!ばっかり駄々こねておんぶされてただろ!プッー!」
ギロッと睨む椎名。
「でもさ本当…生きて帰れて良かったって改めて思うんだよな。はぁー…懐かしいなぁ。11年前初めてお前と此処来た日のこと…」
石段を降りながら2人の脳裏には11年前の記憶が甦った――――。























11年前、
8月―――――

「ねぇねぇ天人お兄ちゃん。奏くんは本当に今日来るの?」
京都尼子寺本堂にて。だだっ広い一室の畳の上で花札をしながら話しているのは天人当時7歳と、由樹当時6歳。
由樹の問い掛けに顔を上げる天人。
「来る来る!」
「でも…約束のおやつの3時を過ぎてるよ〜」
大きな振り子時計に2人が目を向けると時刻は15時20分。だから不安そうになる由樹を、天人は肩を叩いて明るくさせる。
「大丈夫大丈夫!奏は来るって由樹ちゃん!」
「うん…」
「こんにちはー遅くなりましたぁ〜」
「あっ!叔母さんの声だ!」
「本当だね!」
玄関の方から女性の声が聞こえるとすぐさま立ち上がった天人は由樹を於いて部屋を飛び出し、玄関へ駆け出した。


















その頃玄関では。天人の母親が相変わらずこの頃から神経質そうで嫌そうに顔を歪めながら客人を迎えていた。客人は椎名の母親椎名まひると、母親に手を繋がれて麦わら帽子をかぶった椎名奏当時5歳。
「遅くなりましてすみませんお義姉さん。雑誌取材が急遽午前入っちゃって」
「ふん。あらそう。それはご苦労様。さっさと靴脱いで上がりなさい」
天人の母親つまり椎名の母親にとっての小姑が自分達を気に入らない態度なのはいつもの事なので、平気な母親は椎名の小さい靴を屈んで片方ずつ脱がせる。
「奏。たんたん脱ぐわよ」
「うんっ」
「奏ーー!!」
「あっ!天人だー!!」
ズザザザー!と廊下を滑るように走ってきた天人が姑と入れ違いで玄関へ迎えに出れば、椎名は母親がまだ右側の靴を脱がせているのもお構い無しに家に上がって天人に駆け寄る。
「天人ー!!」
「あらあら奏。まだたんたん脱いでないでしょ。もうっ。困った子ね」
そう言いつつも椎名の母親の顔は嬉しそうに笑んでいた。
「遅いぞ奏っ!お前を待ってる間に由樹ちゃんと花札12回もしたんだからな!」
「由樹ちゃんも来てるの!?じゃあ3人で花札しよう〜!」
「行こ行こ!」
「うんっ!」
ドタバタ足音をたてて廊下を走って行く2人を微笑ましそうに見送る椎名の母親。そんな母親の背後で睨み付けている天人の母親だった。




















「わーい!また私の勝ちだよ」
「ちぇっ!由樹ちゃんやっぱ花札超強いや〜!」
かれこれ16戦14勝の由樹に天人と椎名は畳の上に倒れこみ、花札で由樹に勝つのは諦めている様子。対する由樹は嬉しそうにニコニコ。
「由樹さん。先日お話していたおはぎの作り方を今お教えしますよ」
すると天人の母親が割烹着姿で戸を開けてやって来たから由樹はすぐ立ち上がる。
「あ!はーいっ!天人お兄ちゃん、奏くん。続きは夜ね!」
「もう花札はやめようよ由樹ちゃんー!」
由樹が天人の母親について行き、母親が戸を閉める時。ギロリ。椎名にだけ冷たい視線を向けていた母親。


ピシャン!

「由樹ちゃん花札超強ぇー。夜は絶対もう花札やんない!トランプにする!」
「ねぇねぇ天人」
「何だよ奏」
「天人が前言ってた神社。たまに天人にだけ祭り囃子が聞こえるんでしょ」
「御子柴神社の事な。最近は聞こえてこないなー」
「今から奏も連れてって!」
「えー…。でもあそこの神社行く道オバケ出そうで怖いし、父さんや母さんからも"裏手に在る御子柴神社へ行ってはいけません"って耳にタコができる程忠告されてるしー…」
「行きたい行きたいっ!」
「う〜ん」
目をキラキラさせて期待する椎名に、天人は葛藤しながらもムクッと起きる。「しゃーない!行きますか!」
「わ〜い!」
パチパチ拍手をする椎名。しかし天人は自分の口の前に人差し指を立てて、シーッとする。
「でも今から御子柴神社へ行く事と、帰って来て御子柴神社へ行った事。誰にも言わないって約束できるか?」
「シーッ!」
天人の真似をして口の前に人差し指を立てる椎名。
「よし!じゃあ探検隊しゅっぱーつしんこーう!」
「わーい!」
























尼子寺裏手――――

坂を登り小川にかかる小さな橋を渡り終えると現れた獣道。しかし舗装されていないながらも薄らと道らしき道があり、そこをずんずん進む手ぶらの天人。天人の後をついていく麦わら帽子をかぶりショルダーバックを肩にかけた椎名。
やがて現れた数百段もの石段を前にすると、たったさっきまで行きたい行きたい!と張り切っていた椎名の顔がげっそりする。
「うわぁー…この階段登るのー…?」
「そ。この頂上に御子柴神社があるんだぜ。ほら奏行くよーん!」
「待ってよ天人〜!」


















石段を登ること25分――

「ハァ、ハァ…ハァ〜疲れたよ天人ー!」
まだ7歳と5歳の2人には大人でもキツい数百段もの石段を登るのは地獄。しかも山奥というだけあり傾斜がある為ちょっとした登山をしている気分なのだ。
椎名の先を行く天人が振り向くと、天人より10段下で座り込んでいる椎名を見つけた。天人は「やれやれ」と言いつつも降りて、椎名に背を差し出す。
「ハァ、ハァ〜」
「行きたいって言ったのは奏なんだからな」
「こんなに疲れるなんて知らなかったもん!」
「はいはい。じゃあおんぶしてやるから」
「本当!?」
キラーン!と目を輝かせた椎名は遠慮無くさっさと天人の背に乗るから「こいつー!」と言いつつも天人は椎名をおぶって石段を駆け上がる。
「神社までダッシュだー!」
「きゃー!」


















その頃。石段の頂上御子柴神社の前では…。
「神社までダッシュだー!」
「きゃー!」
きゃっきゃ騒ぐ天人と椎名の声が石段の下から聞こえてくる。その様子を神社の前にユラリ…立っている長い黒髪に赤と黄色の服を着た1人の少女。
「煩わしい人間共が来たようね…」
























「だーー!重い!無理ー!」
頂上の神社まであと10数段。なのにそこで椎名をおぶったまま座り込んでしまった天人。
「奏重いっ!!疲れたー!死ぬー!」
「はいっ天人」
「お茶?」
ショルダーバックの中から水筒を取り出してコップにお茶を注ぎ、天人に差し出す椎名。次に銀紙に包まれた八ッ橋も差し出す。
「お母さんが作ってくれたんだよっ。奏の分と天人の分と由樹ちゃんの分。だから天人に1個あげるね」
「おー!サンキュー!」
ゴクゴクとお茶を一気飲みして八ッ橋もガツガツ食べる天人をクスクス笑いながら眺める椎名。
「うまーっ!やっぱ叔母さんの八ッ橋美味すぎ!よっしゃー!天人クン回復!あとちょい駆け上がるぞー!」
「おー!」

























♪〜〜〜♪

「あれ…?」
すると。頂上の神社の方から太鼓や鈴、笛の音が聞こえ出した。
「祭り囃子だよ天人!」
「本当だ!グッドタイミングじゃん!早く行こうぜ奏!」
「うんっ!」
石段を駆け上がる2人。赤い大きな鳥居を潜ったその先には…。
「わぁ!お祭りだ!」
何と、提灯に灯りが灯り、神社の敷地内には綿飴屋、林檎飴屋、金魚屋、射的屋など祭りでお馴染みの屋台が立ち並んでいた。
「あれ…?おかしいな。この神社は立ち入り禁止だから祭りなんてやってるはず無いんだけど…」
疑問に思い、首を傾げる天人。しかしまだ天人より幼い椎名はそんな事気にもせずはしゃいで金魚を眺めている。
「金魚さん可愛いよー!おいでおいで〜」
「おい、奏。やっぱり変だって。立ち入り禁止の神社で祭りなんてやるはず無いんだって」
鳥居の下に立ったままやはり不審に思っている天人が呼ぶが、椎名は聞く耳持たず。金魚を眺めた次は林檎飴や綿飴に心奪われてきゃっきゃはしゃいでいる。






















「おい。奏!」
「天人来て来てー!天人の好きなハッピーレンジャーレッドのお面が売ってるよ!」
「マジで!?本当!?」
しかしやはりここはまだ7歳児。大好きなヒーローのお面に釣られて警戒心が吹き飛び、椎名の元へ走っていってしまう天人。
「あれ…?でもよく見たら違うじゃん?」
お面屋を眺める2人。椎名がヒーローのお面だと思ったお面はよく見たら真っ赤な鬼のお面だったのだ。
それに、他に飾ってあるお面も不気味だ。ひょっとこの目がどこか怖いお面、おかめのお面、能面…など。子供いや大人が見ても身震いする不気味なお面ばかりが並んでいる。


























「あれ??本当だ。ハッピーレンジャーレッドじゃない…」


しん…

すると、祭り囃子が止んでいて辺りは無音に包まれていた事に気付く天人。そして、まだ15時代だったはずなのに辺りが真っ暗になっている事に気付き、ハッ!とする天人は椎名の手をぎゅっ!と掴む。
「やばいって!やっぱ此処おかしいって!帰ろう奏」
「あれ…?あのお姉ちゃんだぁれ?」
「え?」
椎名の視線の先。神社の裏に赤地に白い水玉模様の服と黄色いスカート。黄色いショルダーバックを肩からかけた長い黒髪の15歳くらいの少女が1人ポツン…と立っていた。
「え?神社の神主さんの子供…とか?いやいや、神主さんは居ないはずだよなこの神社は」
すると少女は2人にニコッ…と可愛らしい笑みで微笑む。


ドキッ!

椎名は全く反応しなかったが、幼い頃から既に女の子好きの天人はさっきまでの警戒心は何処へやら。少女の微笑みに一発ノックアウト。
少女は神社の裏へ行ってしまい、姿が見えなくなった。
「奏ー!あの子の後を追うぞー!」
「え〜!?奏まだ屋台見てたい!」
椎名を無視してぐいぐい引っ張り、神社の裏手へ少女を追い掛ける天人だった。


































御子柴神社裏手――――

「あれ?あの子何処行ったんだろ?」
裏手へ回ると、真っ暗な雑木林に囲まれており、不気味な黒い鳥居が構えていた。少女の姿は見当たらず。天人は椎名の手を引いたままキョロキョロ見回す。
「あっれー?おかしいな〜。この道しか無いはずなんだけど」
「ねー天人金魚さん見に戻ろうよ〜…。あれ?あのお家何?」
「ん?」
椎名が見つけたのは、たくさんの地蔵に囲まれた中心にポツン…と在る古びた小さな小さな家…のように幼児には見える苔むした木造の祠。
「何だ?この小っちゃい家?」
「御札貼ってある!きゃー!」
「奏は怖がりだな〜。天人クンはこんなの怖くないぜ〜?」
「ムッ。奏だって怖くないもん!」
「じゃあこの小っちゃい家の扉開けてみようぜ!」
「うん!」
2人は御札がベタベタ貼られた祠の小さな扉に手を掛ける。






















「せーのっ!」


ギィッ…、

「あれ〜?また御札が貼ってあるよ?」
開いてみたものの、中も外と変わらず御札がたくさん貼られているだけ。
「ん?んん?何か入ってる!」
「え?」
祠の中に天人が手を突っ込めば小さくてボロボロの木でできた板が入っていた。板には、風化してよく読めないものの、漢字が書いてある。
「何て読むの?」
「え〜?俺まだ漢字習ってないから読めないよ!」
板…即ち小さな小さな墓標には『御子柴 雅 祀ル』と書かれていたが、まだ幼い2人には解読できず。



















「は〜あ。なーんだ。つまんなかったね〜」
「うん。ていうかさ。さっきの女の子何処行ったんだろ?超可愛かったー!」
「天人って女の子好きだね」
「当たり前〜!…あ!いた!」
「え?」
天人が後ろを向いていたので椎名も釣られて後ろを向くと。いつの間に。2人の後ろにはにっこり可愛く微笑む先程の少女が1人立っていた。
天人は顔を真っ赤にして立ち上がり、何故か敬礼をする。
「ハハハハジメマシテ!俺は天人ってイイマス!」
にこにこ。少女は微笑み続けるだけ。
「コココココニ住んでいるんデスカ!?ああああの!よよよ良かったら俺と一緒にお祭りを楽しみまままませんか!?」
「天人…片言になってる」
にこにこ。少女はまだ微笑む。
「ああああのっ!貴女のお名前は、」
「祠。開けちゃったのね…」
「え?」
ようやく口を開いた少女。にこにこ微笑んだままだが声が低くて威圧感があるからまだ幼い椎名と天人はビクッ!としてしまう。椎名がすかさず天人の後ろに隠れるから、天人自身も怖いが椎名の右手をギュッ…!と強く握る。




















「ほ、ほこら…?」


スッ…、

少女は2人の後ろに在る祠を指差す。2人も釣られて祠を見る。
「ソレの事よ…」
「ほ、ほこらってなぁに?お姉ちゃん…?」
「祠という物はね…神様のお家なのよ…。貴方達さっき…祠を開けたでしょう…?」


ギクッ…!

親に悪戯がバレてしまった子供の心理そのままな2人。
「あ、開けてないよっ!」
嘘を吐く椎名。
「そんなはず…無いわ…ワタシさっき…見たもの…」
「か、奏そろそろ夕飯の時間だから帰ろうぜ?」
夕飯の時間など嘘だが、天人はこの少女の不審さに気付き、この場を去る良い嘘を思い付く。椎名の手を強く引っ張ると少女の顔は見ずに少女の脇を通り過ぎ、神社の方へ走っていった。
































タタタタ!

「何だよさっきの子!可愛いのに超怖い人じゃん!」
屋台の間を椎名の手を掴みながら駆け抜ける天人の顔は真っ青。椎名も同様に。
「あのお姉ちゃん怖かった…!ぐすっ…、」
「奏…」
涙目になる椎名を見て、自分も怖いのに気を保とうとする天人は椎名の頭を撫でる。
「大丈夫。あの子がいじめてきても俺がやっつけてやるから奏はなーんも心配しなくて良いんだぞ。何てったって俺は奏のヒーローだからな!」
「本当?」
「当ったり前♪」
「じゃあ安心だねっ!」
赤い鳥居を潜り、石段を手を繋いで降りていく2人。
「通リャンセ。通リャンセ。ココハドコノ細道ジャ。天神サマノ細道ジャ。
チョット通シテクダシャンセ。御用ノナイモノ通シャセヌ。
コノ子ノ七ツノオ祝イニオ札ヲ納メニ参リマス。
行キハヨイヨイ。帰リハ怖ヒ。怖ヒナガラモ通リャンセ。通リャンセ」
「!?」
すると背後…つまり神社の方から祭り囃子に混ざって通りゃんせが聞こえ出した。あからさまにビクッ!とした2人。




















「な、何…?」
「あぁ…!!」
2人が御子柴神社の方を振り向くと。赤い鳥居の下に妖怪の姿をした小さな低級の神々が太鼓や笛を鳴らして祭り囃子を奏でていた。その中心には大きな天狗とそして先程の少女がこちらを見て立っている。
「走れ!奏!」
ぐいっ!力強く椎名の手を引き、石段を駆け降りる天人。


タタタタ!

「はぁ、はぁ!」
「天人あれ何?ねぇ!」
「はぁ、はぁ!」
「あま…と…、うわあああん!」
「奏!?」
ぺたん、と石段に座り込み大泣きしてしまう椎名。まだ姿は見えないものの確実に彼らが近付いてくるのが分かる。祭り囃子が近付いてくるから。
手を引っ張っても泣いたまま恐怖で足がすくみ立てずに座り込んだままの椎名に天人は焦りを隠せない。




















「うわあああん!怖いよ!怖いよお母さぁん!」
「大丈夫だって!俺がいるだろ!だから奏立とう!な?此処でこうしてちゃあいつらに捕まるだけだから!」
「うわあああん!」
「っ…、本当に仕方ないなお前は!」
天人は最後の手段。行きのように椎名を背中におぶった。
「ひっく、ひっく、天人?」
「よっしゃー!このまま俺ン家まで逃げるぞ!次また泣いて駄々こねたら於いていくからな奏!」
「うんっ…!」
椎名をおぶったまま天人が麓の方を振り向くと。
「うわぁ…!!」
2人のすぐ真後ろ石段の上には、さっきまで神社に居たはずのあの少女がまるで瞬間移動をしたかのように立っていた。ニマァ…と不気味な笑みを浮かべて。
「うわあああん!」
「か、奏泣くなって言っただろ!」
「嗚呼…虫酸が走る煩わしい人間の泣き声だわ…」
「っ…!」
ズイッ!と少女は天人の顔を覗き込んでくる。先程までの可愛い笑顔の少女と顔が近いなら喜ぶところだが、今の少女はまるで薬物中毒者のように開ききった瞳孔に血走った目、見える真っ赤な歯茎。だから、天人は物怖じしてしまう。


















「うわあああん!怖いよ!怖いよぉ!」
「か、奏バカ!だから泣き止めって!…あの。すみません。俺達門限があるんで家に帰らなきゃいけないんで其処…通してくれませ、」
「帰れると思ったのォオ!?」
「っ!?」
カッ!と血走った目を見開いた少女は天人の腹に爪をぐりぐり突き刺しながら更に顔を覗き込んでくる。
「痛ッ、」
「聖域に許可無く踏み入れてその上ぎゃあぎゃあピーピー騒いで挙げ句の果てにはワタシの祠まで開けてェエ!帰れると思うなんてバカよねェエ!アナタ達はワタシに造り直しの儀を施されておとなしくお嬢の玩具になる末路がお似合いよォオ!!」
「通リャンセ。通リャンセ。ココハドコノ細道ジャ。天神サマノ細道ジャ。チョット通シテクダシャンセ。御用ノナイモノ通シャセヌ。コノ子ノ七ツノオ祝イニオ札ヲ納メニ参リマス。 行キハヨイヨイ。帰リハ怖ヒ。怖ヒナガラモ通リャンセ。通リャンセ」
すると先程遥か後ろに居たはずの低級神々や天狗が2人を囲み、周りをぐるぐる回り始めた。
「うわあああん!」
「くっ…!」
少女は紫色の不気味な光を纏いながら微笑み、御札を取り出して2人に向ける。
「そうそう…自己紹介がまだだったわねェ…。ワタシは神社の神であり日本を統率する神…御子柴神よ…」




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