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症候群-追放王子ト亡国王女-
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灰色の煙が辺りに充満して視界ゼロ。バチバチと火の燻る音と嫌な焦げ臭さが鼻をつく。煙で目が染みるが徐々に目を開いたロゼッタの前には確かに今、母国の為に犯した自分の罪を認め更正の道を切り開いてくれた唯一の部下であり唯一の弟の機体がすぐ其処にあったはずなのに…。
「…!?」
灰色の煙が消えた其処には青色のイギリス軍戦闘機の残骸が火の粉を灯しながらバラバラ地上へ落下していく光景が広がっていた。
「イー…デン…?」
此処にイーデンの戦闘機があったと言わなければ、この破片が元はどんな形をしていたのか見当もつかない程原型を留めていない。木っ端微塵。まだ目の前の現実を理解できずにいるロゼッタの瞳にそれらが映る。


ドン!

「っぐ…!!」
1機の群青色の戦闘機が自分の目の前を猛スピードで通り過ぎた。目を凝らしてヘルメット越しにその機体を見れば、機体胴体部に描かれていたのはアンデグラウンド王国国旗。
「くそ!」
此処に居ては自分も跡形も無く消えてしまう。急いで再び機内へ戻り、機体を正常化させる。キーボードを目にも止まらぬ速さで打ち込んでいる間にも…


ドッ!

「ぐあっ!」
後ろからモロに食らった砲撃の衝撃により、勢い良く前のめりになったロゼッタはキーボードに腹部がめり込んだ為、一瞬息ができなくなった。
「ゲホッ!ゴホッ!」
喉を押えて噎せ返るがそんな悠長な時間は残されていない為、喉を押えている手とは反対の右手で操縦桿を握り、敵機が居る後ろを振り向く。フロントガラス越しに映った敵機はアンデグラウンド軍戦闘機1機。心なしか今まで対峙してきたアンデグラウンド機と少し形が異なる気がする。細身で動きも速い。





















此処は上空遥か上の為、戦闘空域からは外れている。辺りを見渡しても仲間機もロゼッタしか居なければ、アンデグラウンド機もこの1機しか居ない。レーダーも他の敵機を感知していない為この1機だけが何故こんな所に居るのか不思議だが、それをどうこう考えている時間すら無駄だと知る。
「ゲホ、ゴホ!くそ!こいつがイーデンを撃墜したのか!…いや、違うな…私がイーデンを、同胞を殺したのか…」
一刻も早く部下へ停戦命令を下さねば。これ以上両国の被害が拡大する前に。しかしトーマスの指示で愛機の通信機能が現在本国に居るウィルバースに監視され且つ、部下への通信機能をロックされている為どうする事もできない。
「ここは一旦部隊に戻り、時間はかかるが直々に部下達へ伝えるしか停戦命令を下す手段はなさそうじゃな!」


ドン!ドン!

目の前の敵には決して背を向けずに砲撃を繰り返しながら降下していく。だが砲撃はわざと外している。敵機との距離をとる為の砲撃であり、相手を殺す為ではない。敵機を近寄らせないよう砲撃を繰り返しながらも、地上へとぐんぐん降下していくロゼッタ機。
「よし、都心部隊の奴とまず合流し、ぐあ"!!」


ガタン!!

近付いてきた地上へチラッ…と一瞬たった一瞬目を向けただけのその隙をつかれた。機体が大きく揺れて前を向けば、敵機が今まさにこちらへサーベルを振り下ろそうとしているではないか。
「まずい…!」


ガシャン!

間一髪。ここは長年の腕前といったところか。ロゼッタも引き抜いたサーベルを真横にして攻撃を受け止める事に成功。だがしかし…


キィン!キィン!!

「っく…!下官ではないようじゃな!」
次々とサーベルでぶつかってくる敵機の攻撃を受け止める事しかできず、地上部隊と合流する事はおろか、こちらから攻撃する事もできない。あのロゼッタが圧されている。



















「しかし私には今お前と交戦している暇は無いのじゃ!」
キーボードを手早く打てばモニターには"発射"の文字が英語で表示されてすぐロゼッタ機の二つの発射口が現れる。間髪入れずミサイル発射。


ドン!ドン!


キィン!!

「何!?ミサイルをサーベルで斬っただと!?」
しかしミサイルをもサーベルで破壊して、避ける仕草一つ見せぬ好戦的な敵にロゼッタの計画が狂わされていく。


ドォンッ!!

地上からは大きな爆発音と共に都心部から灰色の煙が上がり、戦闘空域外の此処にまで上ってくる程。これはどちらの軍が圧倒している事を意味する煙か?なんて考察している暇は無い。今ロゼッタ機が発射したミサイル4発全てをサーベルで破壊した敵機がミサイルを破壊した為発生した煙幕の中こちらへ猛スピードで特攻してきた。
「こざかしい奴じゃな!」


ドン!ドン!ドン!

ちょっとやそっとの攻撃では物怖じする相手ではないと判断。珍しくロゼッタが戦場でイラ立っている。容赦無くミサイルを5発連続発射。すると辺りはミサイルが爆発した煙幕で敵の姿が見えなくなった。
「姑息な手は使いたくないのじゃが、今は貴様の遊び相手になっている暇はない!」


ビー!ビー!

まだ敵機を感知するサイレンが鳴っているから敵はまだ生きているのだろう。しかし煙幕で両者の姿が見えない今この隙にこの敵から離れなければ。決して敵に背は向けず、ロゼッタ機が地上へと急降下していく。






















ぐんぐんと近付いてくる地上。シャングリラ宮殿周辺はまだ炎が上がっていないが、都心部の中でも郊外からは炎が上がっているのが見える。
「くそ。何じゃさっきの機体は。あいつだけやけに形が違っていたな。上官専用機か?まあ良い。すぐに合流せねば。今頃部下達はトーマスの非道な指示に従い無差別殺戮に手をかけているじゃろう。これは私が引き起こした事…」

『でもここで貴女が投げ出したらその命すら無駄になってしまう。ならやろうとした事を志を貫く義務が貴女にはあるのではないですか…!』

今は亡きイーデンの言葉と彼の力強い眼差しを思い出す。ロゼッタは険しい表情で操縦桿を握り締めた。
「ありがとうイーデン。お前が教えてくれた通り私は貫き通す。多分、それがせめてもの償いじゃろうからな…」
操縦桿を思い切り前へ倒せば、背中からぐんと更に急降下する機体。地上に背を向けながら、先程敵機と交戦した上空に正面を向けている状態で降下中。
「レーダーがさっきの敵を感知しなくなったか。どうやらもう追い掛けてくる気配は無いようじゃな。よし。このままB-14地点へ向かい其処で停戦命れ、」


ドンッ!!

続くはずのロゼッタの言葉が強制的に停止させられた。


ビー!ビー!

機内に響くのは、たった今数秒前まで接近すら感知していなかった敵機急接近を知らせる突然のサイレン。敵機は感知システムが追い付かない程というどれだけの高速度性能を持っているのだろうか。やはり、他のアンデグラウンド機とは一味違う様。






















辺りの灰色の煙幕が晴れていくと、ロゼッタ機のコックピット部分を背後から貫いている2本の細く長いサーベル。ロゼッタ機を貫いているのは、さっきまで交戦していたあの他とは型が異なるアンデグラウンド軍戦闘機1機。ロゼッタ機を貫いてまるで機体が笑っているかのように見えた。


バチ…バチ…

サーベルが貫通した箇所から青い火花が散り出すと敵はすぐに2本のサーベルを引き抜き、ロゼッタ機から離れた瞬間…


ドン!ドン!ドンッ!

離れたのは、ロゼッタ機が爆発する時の爆風に自機が巻き込まれないようにする為。灰色の煙を上げて何発も爆発音をたてて爆発したロゼッタ機を少し離れた所からただジッ…と見つめているアンデグラウンド機。火の粉のついたロゼッタ機の破片がガラガラと地上へ落下していく様をしばらく見てから敵機アンデグラウンド機はそれらに背を向けて、シャングリラ宮殿のある都心部地上へゆっくり降下した時。


ガッ!

危なかった。背後から投げられた短剣が機体を貫く寸前でキャッチしたアンデグラウンド機。


ガシャン!


ビー!ビー!

それを粉々に握り潰したアンデグラウンド機内では再び敵機を感知したレーダーのサイレンが鳴り響いていた。確かにさっきロゼッタ機を撃墜したはず…。
「……」
アンデグラウンド機がゆっくり後ろを向くと何と其処には、先程のイギリス軍戦闘機よりは格段と小型ではあるが人型をした黒い戦闘機が居たのだ。今、短剣を投げてきたのもこれの仕業だろう。機体胴体部にはイギリス国旗が描かれている。

























ガッ!ガッ!

「っぐ…!」
その新たなイギリス軍戦闘機が何処から現れたのかなんて考えている時間すら与えられず、その黒いイギリス軍小型戦闘機は何本も短剣をアンデグラウンド機目掛けて投げてくる。まるで捨て道具のように。これらを、自慢のサーベル二刀流で凪ぎ払う事で精一杯のアンデグラウンド機をフロントガラス越しで眺めている黒いイギリス軍小型戦闘機。パイロットは何とロゼッタ。嗤っていた。
「はっ…なめるなよくそガキ!!」
先程の攻撃で確かに貫かれたはずのロゼッタ機。しかしロゼッタ機は通常のイギリス軍戦闘機AN10とは違い、ロゼッタ専用機AN22。つまりロゼッタ機だけは他の機体とは性能が全く違っていた。
外見こそAN10と然程変わりはない。しかし、先程大破された機体の中にこの黒い小型戦闘機が入っているのだ。つまり今ロゼッタが操縦している黒い小型戦闘機は先程大破した機体に包まれている。アンデグラウンド機はコックピットを狙ったのだろうけれど、機体の更に中に別機が入っているロゼッタ機と他の機体AN10とではコックピットの位置が異なっていたのだ。今操縦しているこの黒い小型戦闘機こそがロゼッタ機AN22の本体。先程大破した機体が本体を覆っていた為それが犠牲になってくれたのだ。
しかし敵がコックピットを外したとはいえ、覆っていた機体が木っ端微塵になる程の攻撃を食らったのだ。再び交戦するロゼッタだが頭部から流血しているし、口の端は既に拭き取った乾き始めた血が付着している。さっき受けた攻撃は相当パイロットへのダメージが大きかったようだ。それでも敵に弱さを見せず次々と短剣を投げていく。それを凪ぎ払う事で精一杯のアンデグラウンド機。形勢逆転だ。白い歯を覗かせたロゼッタは口を裂けそうな程開いてにんまり笑った。
「隙だらけなんだよくそガキが!!」


ドンッ!!

本体の異常なくらい大きく太いサーベルを1本、アンデグラウンド機真正面に振り下ろしたロゼッタ。大きな爆発音。爆風に巻き込まれつつも、すぐに広がった煙幕の中から出たロゼッタ機。
「本来ならばアンデグラウンド軍への被害も最小限で済ませたい。だがしかしどうも貴様は黙って私を部隊へ合流させてくれる気は無いようじゃな。それに何より、貴様はこのAN22の本体を初めて曝させたのじゃ」
顔を上げた。目は見開かれ瞳孔が開いて口が裂けそうな程笑っている。本気にさせてしまったようだ、彼女を。
「久し振りの血生臭い戦闘を楽しませてもらうぞアンデグラウンド!!」




























一方、
ロゼッタと対峙している
アンデグラウンド機―――――

ロゼッタから攻撃を食らったアンデグラウンド機。コックピット貫通は免れたが頭部を凪ぎ払われてしまった。


ビー!ビー!

機内では敵機を感知したサイレンがさっきから鳴りっぱなしだ。パイロットは負傷した右腕を左腕で押えつつも、苦笑いを浮かべている。
「超痛ってぇ…。何なんだよ戦闘機の中にまた小っこい戦闘機?それにあのやたらぶっとい剣。反則だろ?…まー、それなら俺も反則技使っちゃうかなぁ」
右腕の痛みに片目を瞑りながらも堪える。両手でキーボードを手早く打ち込んでいけば、モニターにはとても目が追い付かない程の速さで様々な英単語が表示されて機械音が鳴る。最終的にモニターに"Completion"と表示されると二刀のサーベルが赤の光を纏い、熱を帯びる。
「本当は姐さんとバトる時に使いたかった秘密兵器なんだけど。まぁ、しゃーないわな」
ロゼッタ機に刃先を向けてパイロットは白い歯を覗かせて笑った。
「イギリス軍の何つー軍人かは知らないけどあんた、マジにさせちまったみたいだぜ?アンデグラウンド軍バーディッシュダルト・ジョン・ソーンヒル将軍をなァ!!」





















































同時刻イギリス、
イギリス軍本部――――

1台のパソコンを前に座っているエリザベス女王とウィルバース大将。このパソコンからロゼッタ機の部下への通信機能を遮断しており、尚且つ、ここからロゼッタ機内や機内から見える外の状況を見る事ができるのだ。これは事前にトーマスからロゼッタが軍を裏切ったという例のあの捏造写真を渡されたエリザベス女王がロゼッタの出兵前、ウィルバースにロゼッタ機の通信機能を改造させていたからできる事。
画面にはロゼッタ機内から見えるアンデグラウンド機バッシュ専用機が映っている。しかしパイロットがバッシュである事までは見れないし、対峙しているロゼッタも相手がバッシュだとは分かっていない。それはバッシュも同じ。お互いパイロットが誰なのかは通信を繋げない限り分からない。


ギシッ、

ウィルバースは背凭れに寄り掛かり、頭を掻く。
「くそ!イーデン様が…!しかしどうなっているんだロゼッタの奴?結局アンデグラウンドと戦うのか?じゃあ何故こっちの情報を敵へ流したんだ?」
「この機体…」
「え?ああ…確かにこの敵機は他のアンデグラウンド機とは型が違いますね…って女王陛下!?」
ウィルバースが話している最中に突然部屋を飛び出して行っってしまったエリザベス女王。慌てて立ち上がり追い掛けるウィルバース。
「お待ち下さい女王陛…アレ?」
部屋を出た其処は静かな廊下が広がっているだけだった。人の気配すら無い。しかし視線を窓際へ移した時。ウィルバースの全身から血の気が引いた。
「!?」
何と窓ガラスが割れていたのだ。しかも人間1人分が通り抜けられる大きさ。
「陛下!?」
咄嗟に割れた窓の桟に手をかけ下を見下ろすと、真下の軍本部外を走って行くエリザベス女王の姿が見えて、無事であった事に取り敢えずウィルバースの寿命がこれ以上短くなる事は免れたが…
「ホッ。ご無事か…って!此処は3階だぞ!?普通飛び降りるってレベルじゃないだろう!?まったく!あのおてんば女王様は!こちらウィルバース大将!陛下がまた突然本部から出て行かれた!見付け次第直ぐに捕まえてくれ!」
耳に装着しているイヤホン型無線機で軍本部内の部下達へ通信を繋げたウィルバースは、自分も本部を飛び出して行った。































一方のエリザベス女王――――

黒地に金の装飾が付いた将軍時の軍服を着て軍本部外を走っている。走りながら長く美しい銀色の髪を一つに束ねてポニーテールにする。目指すは、木々の合間から見えてきたイギリス軍戦闘機格納庫。彼女の脳裏では、先程パソコンで見たロゼッタと対峙しているアンデグラウンド軍戦闘機が蘇る。
「あの機体はアンデグラウンド将軍…バッシュちゃんの専用機…。まだお互いが誰なのか分かっていないようだけれどロゼッタちゃんがもし、敵機がバッシュちゃんだと分かったら…」


























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