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終焉のアリア【完結】
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「ったく!どうなってんだよ!」
ホテルを出て、MADだらけの夜の街を走るアリスと風希。追い掛けてくるMAD達を攻撃しつつ逃げるが、大きな物音と共に付近のビルの看板がMADに斬り落とされた為、それが落下してくる事にハッ!と気付いたアリス。
「風希危ねぇ!」


ドスン!!

看板が落下した所には、粉々になった看板の破片が灰色の塵と煙になって立ち込める。


ズッ…、ズッ…、

足音をたてて近寄ってくるMAD達。
「小鳥遊流奥義…かまいたち…」


スパン!

「ギャアアア!!」
しかし、風希の巨大な鎌によって呆気なく体を真っ二つにされてしまったMAD。
「何…これも赤い血…」
「風希!」
「え…」
ぐいっ。
真っ赤な血を上げるMADを不思議そうに見ている風希の左腕を掴んだアリスは、有無を言わさずそのままビルとビルの間の狭い道を駆け抜け、風希の腕を引っ張り、路地裏へと逃げて行った。




























「はぁ…はぁ…」
逃げて逃げてたまたま辿り着いた路地裏の先は今は廃墟となったビル。MADの気配は無い。錆びた赤いビルのロビーに入れば、割れた窓から見えるのは闇夜に浮かぶ真っ赤な満月。
ガラス片や煙草の吸殻が散らかる荒れ果てた床に胡坐を組んで腰を下ろすアリスは、黒いコートの胸ポケットの中から煙草とライターを取出して一服。予想もしていなかった事態へのイライラを紛らわす為か。
「ったくよ!何なんだよあのザマ!どいつもこいつもクソMADばっかだし、電話は誰にも繋がんねぇし!あいつらまさか全員おっ死んじまったとかじゃねぇだろうな?」
「しっ…。静かにして…」
「あ?んだよ。MADに気付かれるからってか?此処らにあいつらは居なかったから余裕だろ」
「そうじゃない…今、寝ているんだって…」
「はあ?誰がだよ」
「此処の住人…」
「はあ?!」
辺りを見回しても人らしき者は居ないし、気配すら無い。
「風希お前、頭打ったか」
「このビルの住人の幽霊達…今寝ているから静かにして、って言ってる…」
「!?」
ギョッと目を見開き、仰天のあまり、だらしなく開いた口から煙草をポロッと落としてしまったアリス。
「…お前、マジで頭大丈夫か?…なわけねぇよな。つーか、こんな生死の境っつー状況でふざけた事抜かしてんじゃねぇぞ!」
「あ…。アリスさんの右肩に女の子の幽霊乗ってる…」
「んなぁ?!」


ビクッ!

指を差された右肩をバッ!と見るが、どこにも誰もいない。
「い、い、いねぇじゃねーか!!」
「そんな失礼な事言ったらダメ…アリスさんが見えないのが悪い…。今も居るよ…。ほら、手を振ってる…可愛いね…」
「暢気に幽霊に手ぇ振り返してんじゃねー!!つーか俺、MADよりお前の方が怖ぇんだけど!!」
立ち上がり、右肩を何度も手で叩いて払うアリスに風希がまたボソボソと注意をしていたが、そんなものけつに聞かせてアリスは携帯電話でハロルドとファンに電話をかける。






















トゥルルル…トゥルルル…

「チッ!やっぱ繋がんねぇ!おい風希!お前が日本の入国審査監視員なんだろ?この前のMADといい今回のといい!あいつらが侵入してきた事にお前は何も気付かなかったのかよ!」
「……。うん…」
「っンだよ!それ専門の仕事してるクセにMAD感知できねぇんなら、幹部失格じゃん」
「……。ごめん…」
「…!」
いつもなら鎌で壁か床をドスン!と突き刺して怒りを表にするはずの風希が今日は正座をして下を向いてポツリと謝罪するだけだったから、アリスは風希の方を一度見る。すぐ背を向けて煙草を吹かした。
「いや…別に…。そこまで気にする事じゃねぇし…」
――いや、気にしなきゃなんねぇ事なんだけど、何か…何か…――
「私…お鳥ちゃんに電話かけてみる…」
「お、おお。そっちは任せたわ。俺はもう1回、堅物ヤローとクソ坊ちゃんにかけてみるわ」
「うん…ごめんなさい…」
「だからその話はもういいっつーの!」
――くそっ、何か調子狂うじゃねぇか!――































同時刻――――

「うぅ…お鳥ちゃん…お鳥ちゃん…」
「か、花月やめなって!走ったら血がもっと出るじゃん!」
「ととと、峠下氏!!」
「…!!ryo.氏、タクロー氏!?」
花月が友里香と日本支部へ向かって走っていると。前方から、息を切らし走ってきたryo.とタクローと鉢合わせる。2人共就寝時のジャージ姿だから、着のみ着のまま家を飛び出してきたのだろう。
2人の顔を見たらホッとして怪我の痛みも一瞬紛れた花月が2人に駆け寄る。
「ryo.氏!タクロー氏!良かった、電話が繋がらなくて心配していましたが、無事だったんですね…!」
「しかし…」
神妙な面持ちで2人は顔を見合わせる。
「支部で勤務中の私の父親以外、一緒に家に居た母親と兄はMADに食われてしまいました…」
「!!」
「私もryo.氏と同じ状況でしたぞ…。2階の自室で深夜アニメを見ていたところ一階から窓ガラスの割れる音がして、2階の階段から下を覗いてみたらMADが数体家に侵入していて…その時既に両親の姿は何処にも在らず、寝室には生々しい血飛沫がありましたぞ…」
「ryo.氏…タクロー氏…」
「峠下氏!これは一体どういう事なのですか…!死に物狂いで家を飛び出し街へ逃げ出したら、街中どこもかしこもMADだらけでした!」
「途中遭遇した人に話し掛けたら突然その人達の体が緑色に変色して、たちまちMADに変貌してしまったり…私達一般人には何が何だかさっぱり分かりませんぞ!峠下氏!日本は今どうなってしまったのですか!日本はEMS領の中でもMAD侵入率の低さはトップを誇っていたのではないですか!」
「…すみません。実は俺もまだこの状況が理解できていなくて…何が起きているのかも分からなくて…。市民を守るべき俺達がこんな不甲斐ないばかりに…。本当に申し訳ありません…」
「峠下氏…」
2人に深々頭を下げる花月の肩が小刻みに震えていた。自分の膝を震える両手でぎゅっ、と強く握り締めている。
――まただ。支部長の俺が居ながらこの状況を理解できず、そのせいでryo.氏とタクロー氏の家族が…!――
脳裏で2人の立場を自分に置き換える。父と母、月見、風希、鳥の笑顔が浮かんですぐ消えていく…。昨日まで一緒に笑い合っていた家族が突然いなくなってしまうなんて想像できない。しかし、現にryo.とタクローは今そういう目にあってしまったのだ。花月も鳥を失っているが…。
「と、峠下氏!顔を上げて下さい!わ、私は前回のように峠下氏を憎んで言ったのではないです…!」
「けど、俺はまた…」
「ていうかさ〜。こんな所で喋ってる暇無くない?」
友里香の一言に、3人は顔を上げる。
「と、峠下氏どなたですか?このDQNビッチは…」
「は?どきゅんびっちって何?つーか、それ聞きたいの友里香の方なんですけど。何、あんた達。典型的キモオタじゃん」
「キキキ、キモオタ?!」
「ryo.氏、タクロー氏!彼女は学校の友人です。あ、あと佐藤さん。この2人は俺の友達だから…」
「佐藤さんって呼ばないでよ花月〜!友里香でイイってば!だって友里香は花月の彼女じゃん」
「彼女ぉ?!」
花月の腕に抱きついてニヤリ笑う友里香の一言にryo.とタクローが声を揃えて驚愕する。
「違うから!!」
この流れをさっさと強制終了させて、目の前に見える日本支部へ3人を連れて行く花月。
『認証します』
「小鳥遊花月。以下3名は友人につき、入館の認証を求む」
『承知致しました』
――良かった。支部に明かりがついている。それに、一見何の変わりも無いしMADの気配も無い。でも母さんは…――
先程の電話で聞こえた母親の悲鳴を思い出すと、ドクンドクンと不規則に鳴る鼓動。


















ガラガラ…

4人の認証が終わり、玄関の引き戸を開く。
「かづちゃん!」
「母さん!」
其処には、待ってましたとばかりに寝間着用の白い浴衣姿の母親が居て花月に抱きついてきたから花月もびっくり。見たところ怪我一つしていないから、やっと安心できた。自分はまた1人家族を失ったと思っていたから…。
「良かった!かづちゃん無事に帰ってきてくれたわ」
「俺もだよ!良かった…母さんさっき電話越しで悲鳴を上げていたから、母さんに何かあったんじゃないかってずっと不安だったんだ」
「あの時、外でかづちゃん達の帰りを待っていたら調度前を通り過ぎた1体のMADが襲い掛かってきたの。でもすぐに、最上軍曹が撃ち殺してくれたから大丈夫よ。心配かけてごめんなさいね、かづちゃん」
「心配するのは家族なんだから当たり前じゃんか。ねぇ、電話でも言っていたけど月見姉さんやアリス先輩達はもう支部の中に避難しているんだよね」
「かづちゃん、私の事ずっと心配してくれていたのね」
「か、母さん、俺の話聞いてる?」
「大好きなかづちゃんに心配してもらえて私、嬉しい!」
「か、」


ぶちゅっ!

「〜っ?!」
この場に居合わせたryo.、タクロー、友里香、そして花月も目を見開き、顔を真っ赤にさせて驚愕。母が突然花月に深いキスをしたから。
「と、峠下氏の母上はスキンシップが海外レベルですな…」
「うっわ…。友里香、あのお母さんとはやっていけないかも…」



















「〜っぷはっ!か、か、母さん?!どうしたの?!」
「あら。息子の帰りを親が喜んで何が悪いの?」
「そ、そうじゃなくて!!おかしいじゃんか!母さん普段こんな事しないのに、」


トゥルルル

「電話。かづちゃんじゃない?」
「あ、ああ…俺だ。今まで繋がらなかったのに」
母とも無事会えて、今まで繋がらなかった電話も繋がるようになりこの最悪の状況の中、一筋の光が見えてきた。
花月は着信相手の名も見ず、電話に出る。
「もしもし」
「やっと繋がったぜ!カズか?カズだよな?!」
「アリス先輩ですか!」
電話の相手はアリス。
「そっちはどうだ!?つーかカズお前、ハロルド達と会えたか?!」
「え…?な、何言ってるんですか…?だって先輩達は今、日本支部に居るんじゃないんですか」
「はあ?カズ、何寝呆けた事言ってんだよ!MADの襲来にビビり過ぎてボケちまったんか?」


ドクン…

胸騒ぎがする。
「だ…だって母さんが…アリス先輩達は皆無事に今日本支部に避難しているから…。帰ってきていないのは俺とお鳥姉さんだけだ、って言って…」
「おいカズてめぇ、こんな時にふざけた冗談かましてんじゃねぇぞ!」


ドクンドクンドクン
ドクンドクンドクン
ドクンドクン…!

携帯電話を持った右手が震え出す。
花月の真後ろに立っている母親の口が、裂けるくらいにんまり笑った。
「おい。カズ?カ、」
「花月、後ろ!!」
「!!」


ガシャン!!






















友里香の裏返った声に反応した花月が後ろを振り向いた直後、携帯電話が落下して衝撃でアリスとの通話は切れてしまった。
「う"ぐっ…あ"、」
「やっと会えたねぇ、小鳥遊花月…。ククク…」
さっきまで花月の母親が立っていたはずの其処には今、赤い髪をしたMADマジョルカがすり替わって立っていた。背後から花月の首を絞めている。
「っあ"…がっ…」
「ふふふ…あたしの演技超一流だっただろう?ハリウッドも夢じゃないねぇ」
「っ、か…母さんは…」
「もう分かっているだろう小鳥遊花月?あんたがホテルであたしから逃げた後日本支部にやって来たあたしは、此処に居た連中全員を食い殺してやったよ。勿論、あんたの母親もね」
「此処に居た…全員…を…?」
「ryo.氏!!」


ガクン、

その言葉に膝から崩れ落ち、放心状態のryo.に駆け寄るタクロー。
ryo.の父親は此処日本支部の軍人で、此処でずっと生活しているから。
そんなryo.の姿がぼやけた視界に映る花月がマジョルカの腕を振り払おうとするが、体にまるで力が入らないのだ。
――何で…!!――
「あたいの能力は知っているだろう?あたいは食った地球人の姿も声も化けられる。だからあんたの母親に化けたのさ。電話の時から。だからあれは、全部嘘。あんたの仲間達が全員無事で日本支部に居るって言ったのも、あんたを誘き寄せる為の嘘。実際今頃あんたの仲間はどうなっているんだろうねぇ?MAD化した大量の地球人に食い殺されているんじゃないかい?」
「っぐ…、」
「おや?体が動かないようだねぇ。ふふふ…あたいに触れている間その地球人は全員、身動きを封じられてしまうのさ」
ぐいっ。
首を絞めるのをやめるとマジョルカは花月の顔を掴んで後ろを向かせ、自分と顔を向かい合わせさせる。
「嗚呼…こんなにも近くに小鳥遊花月が居て、あたいを見ているよ。やっぱり雑誌で見るのと違って、本物しかも間近で見るのは違うねぇ」
そう言うと、真っ赤で肉厚の舌で花月の顔を舐め回すマジョルカ。花月は体が動かず、抵抗一つできない。目の前の身の毛もよだつ光景に、ryo.とタクローと友里香も体が硬直して顔は真っ青。
「おや?泣いているのかい?母親を殺されたからかい?大丈夫さ、親なんてものは子より先にいずれ死ぬものだろう。それが少し早まっただけじゃないかい。それに、姑はいない方が後々楽だろう?泣かなくて良いよ小鳥遊花月。あんたにはあたいがこれからずーっと傍に居るんだからさ」
「バ、バッカじゃないの?MADのクセに!このっ、変態!!」
「…あ"ぁ?」
「ひっ…!」


ビクッ!

声を張り上げてマジョルカに挑発した友里香。しかしマジョルカは花月と話す甘い声とは別人なくらいドスのきいた低い声で返答して友里香を睨み付けるから、萎縮してしまう友里香。
「何だいお前は。目障りな小娘だね」
「っ…!」
「かかか、彼女を食うというのなら、わわわ、私を食え!!」
「はあ?」
「…!!」
何と、ガタガタ震える友里香の前に両手を広げて立ったのはタクロー。彼も足がガクガクしていて今にも崩れ落ちてしまいそうだが。
「キ、キモオタ?!あんた何してんの!かっこつけるとか、あんたみたいな男がやったって余計キモいだけだから!!」
「キキ、キモオタではありませんぞ!私の名はタタタ、タクローですぞ!!」
「おやぁ?お前はあの時EMSビッグドームに居た汚らしい豚じゃないかい?」
「っ…!」
「アハハハ!!何だい、よく見たら、其処で放心状態の豚もあの時居た気がするねぇ!何だいお前達生きていたのかい?醜い豚だからとうの昔に食い殺されちまったとばっかり思っていたよ!」
「とと、峠下氏を放したまえ!!」
「峠下?小鳥遊花月の事かい?」
「そそ、そ、そうだっ!かか、彼はっ…わ…私達の大切な友人ですぞ!!彼を放さなければききき貴様を亡き者にし、しししてくれる!!」
「ちょ、ちょっとキモオタ!あんた何MADに喧嘩売ってんの!?」
「あたいを殺す?お前が?アハハハ!こりゃ傑作だねぇ!じゃあやってみておくれよ?あたいを殺しておくれよ?」
マジョルカは花月の口にキスをすると、口内で長い舌を遊ばせる。その気持ち悪さにryo.とタクローと友里香はまた顔を青くし、ゾッとした。


















「ぷはっ!ふふっ…小鳥遊花月はねぇ、あたいのモノになるんだよ。夫となり婿となるんだよ!結婚式に呼んでやろうか?まあ、その前にお前らみたいな豚は目に毒だから食っちまうけどねぇ!だからねぇ、宣言通りあたいを殺してお友達を取り返してみな、薄汚い豚が!!」
「婚姻の話は親を通してからにしてもらおうか」
「何っ…!?ギャアアアア!!」


パァン!パァン!
パァン!

何処からともなく聞こえた男性の低い声。気配を感じ取ったマジョルカがハッ!として頭上を見上げたと同時に、けたたましい銃声がして無数の銃弾がマジョルカの体を貫通していく。


ドサッ!

「峠下氏!!」
「花月!!」
衝撃でマジョルカの手から放れた花月はその場に倒れこみ、むせ返る。
「ゲホッ!ゴホッ!!」
「峠下氏!無事ですか!」
「花月!顔、今拭いてあげるから!」
駆け寄るryo.達3人。
「花月。ご友人達を早く避難させなさい」
「ゲホッ!と、父さん…」


ストン…、

マジョルカの頭上日本支部の瓦屋根から現れたのは、紺色の着物に身を包み、厳格な顔付きで細身の中年男性。花月の父親だ。両手には銃口から灰色の煙を噴く拳銃。
「支部と東は壊滅だ。本部に連絡をとったところ次期、桜花駅に本部からの援軍が来る。そこまでご友人達を連れ、ご友人達の身の安全の確保をしなさい」
「父さん!母さんが…!」
「分かっている」
「それに俺、魑魅が…魑魅がMADに粉々にされて…!」
「だからもう戦えないと言うのか」
「違う!そうじゃない!父さんが…父さんがせっかく俺にくれた代々伝わる刀なのにそれを俺が壊して…!」
「花月」
「は、はい…!」
背を向けた父親の低い声に呼ばれる。
「先に行っていなさい。すぐに追い付く」
「俺も戦うよ!」
「お前はお前の友人を守る事が支部長としてのお前の務め。息子に付きまとう狂者を追い払う事が父親としての私の務めだ」
「父さん…」
「早く行きなさい」
「っ…はい…!」
花月は父親の大きな背中に何かを感じ取ると、3人を連れて駅へと向かって闇夜を駆けて行った。


















「うっ…うっ…」


ズル…ズル…

乱射されたせいでもげた右腕と左足が再びくっつけば、マジョルカはよろめきながらユラリ立ち上がる。
「チィ…とんだ邪魔が入ったねぇ…。もう少しで手に入るところだったってのに!」
「生憎我が小鳥遊家は名家故、後継ぎ問題の関係上、婿養子は禁じている」
「はっ…!そうかいそうかい。こりゃあ随分と頭の堅そうなお義父様だこと。じゃあ、妥協してあたいが小鳥遊家に嫁いでやるよ」


カチャッ…

2丁の拳銃の銃口をマジョルカに向ける。
「残念ながら、父親である私から見た貴様の印象は下劣で変質でこの上ない最低故に、その婚姻反対する」
「はっ、上等だよ。恋愛ってのは、これくらい障害があった方が燃えるものなんでねぇ!!」
マジョルカが腕を振り上げ、父親が引き金に手を掛けた。



























ドンッ!!

「父さん!!」
支部の方から聞こえた爆発音に、駅を目指して走っていた花月の足が止まり、咄嗟に後ろを振り向く。

『花月。この刀は小鳥遊家に代々伝わる世界でも有名な特別な刀だ。MADという奇怪生物に地球を侵略された今、支部長のお前に譲ろう』
『でも俺、姉さん達みたいに社交的じゃないしグズだから、俺なんかが譲り受けたら小鳥遊家を辱めるだけじゃんか…』
『お前が姉弟の中で唯一の男だから譲るのではない。4人の中で、お前がこの刀に一番相応しい人間だから譲るんだ。大丈夫。自信を持ちなさい』

「父さん…!」
脳裏で鮮明に蘇るのは、父から魑魅を譲り受け、支部長を任された時の記憶。ぎゅっ…。血のついた拳を握り締める。
「峠下氏?何処へ行かれるのですか」
「ごめんなさい…。俺…俺…」

『お前はお前の友人を守る事が支部長としてのお前の務め』

「っ…、」
父の言葉が蘇る。
「花月どうしたの?早く逃げないと!」
「っ…ごめんなさい!俺…俺やっぱり父さんの元に戻、」


キキィーッ!!


「!?」
「んなっ?!」
花月の言葉を掻き消したのは、後方から猛スピードでこの細道を走ってきた1台のワゴン車。
真っ白なライトを光々と光らせズドン!ドスン!と、あちこちの塀や電柱にぶつけながらのとても荒々しい運転で彼らへ向かって走ってきたワゴン車に、一同目が点。
「っ…!MADか!」
すぐさま3人の前に両手を広げて立ちはだかる花月。しかし跡形も無く粉々にされた魑魅は今、花月が着ているバスローブのポケットの中。武器が無い。…なのに、何とポケットの中で魑魅の破片達が金色に光ると花月の目も金色に光りだす。あの時と同じ血管のような赤い模様が花月の首から下。腕や全身にボコボコ浮き上がり始めたではないか。
「か、花月?!何それ!ちょっと!大丈夫なの?花月!」
――もう誰も失いたくない。魑魅は使えないけど…けど!!――
花月の目がまるで鬼の如くつり上がり、模様が隙間無く全身に浮き上がる。迫る暴走車。
花月の周りを金色の光が包み込み、その風圧でryo.達3人は吹き飛ばされそうになり、顔の前に腕を翳す。
「小鳥遊流奥義、桜花昇天!!」


ドンッ!!


























「はぁ…はぁ…」
金色の大きな光が辺り一帯を包み込んだ直後。吹き飛ばされ横転して半分焼け焦げた暴走車から、プスプスと煙が上がっている。


ガクン、

「峠下氏!」
「花月!」
膝から崩れ落ちた花月。
「はぁ…はぁ…」
俯いて左胸を手で押さえて苦しそうにしている花月の全身にボコボコ動いて浮き上がった模様に、3人は顔を真っ青にする。
「峠下氏、体が痛むのですな?息が苦しいのですな!?」
「っはぁ…はぁ…、ぐっ…ゲホッ!ゴホッ!!」
「…!!」


ビチャッ!ビチャッ!

両手で口を覆っていたものの、堪えきれず吐血してしまった花月。アスファルトの地面に真っ赤でドロリとした血がボタボタ垂れる。
「峠下氏!!」


カチャッ…

「ひぃぃい?!」
後ろを向かずとも、気配だけで察した。ryo.の後頭部に何者かが銃口を突き付けた事を。
「っンだよ…姿が見えたから急いで運転してきてやったっつーのに…はぁ、はぁ…この有様かよ…」
「な、な、な!?貴方は何者ですか!」
「心配損だぜ…はぁ、はぁ…先輩丸焦げにするなんざ…やっぱてめぇ、最近調子乗ってっわ…」
「な、何者かと聞いているでしょう!ももももしやMADですか!」
「だぁれがクソMADだボケェ!!」


パァン!

「ぎゃあああああ!!」
ryo.のMAD発言にプッツンキレた人物は発砲。…したが、それはryo.にではなく、夜空に発砲しただけ。
ガクガク震えて身を寄せ合うryo.とタクローの目の前に現れた人物は、髪や全身が真っ黒に焦げてしまったアリスだったのだ。


ガッ!

俯き座り込んでいる花月の胸倉を掴み上げるアリス。
「おいゴルァ!カズてめぇ!俺様の事殺す気満々だっただろ?!そういうやり方で下剋上しようっつったってそうはいか…なっ…!?お、おいカズ!お前どうしたんだよ!大丈夫かオイ!」
掴み上げた花月は呼吸が乱れ、顔は真っ青。口端からはボタボタと赤い血が垂れて、白のバスローブを赤く点々と染めている。目を瞑ったまま。
何よりも、首から下全身に浮き上がり、ボコボコ動いている血管のような赤い不気味な模様に、アリスは珍しく動揺してしまう。
「花月…何したの…」
「風希!」
花月に真っ黒焦げにされた車内から現れた風希もまたアリス同様黒く焦げて髪が爆発してしまっているが、そんなのお構い無しに花月の元へ駆け寄る。表情は相変わらず無いが、酷く心配している事が雰囲気で分かる。























「おい風希!カズどうしちまったんだよ!クソMADにやられただけじゃねぇだろ!この血管みてぇな変な模様何なんだよ!」
「知らない…こんなの初めて見た…」
「おい!お前ら姉弟だろ?!さっきから言ってる"小鳥遊流〜なんちゃら"つー奥義が関係あんじゃねぇのか?」
「はぁ…はぁ…お前は…アリス・ブラッディだな…」
「あ"?誰だ、オッサン」
「お父さん…」
「え"え"?!カズと風希の親父?!」
支部の方から塀に寄りかかりながら左腕を押さえて現れたのは、ボロボロの父親。寄りかかって歩く度、真っ赤な血が塀に血痕を付けていくその生々しい光景にryo.達民間人3人は先程から言葉を失ってばかり。
「お父さん…どうしたのその怪我…MADに襲われ、」
「っ…、風希姉…さん…離れっ…て…、」
「え…?」
そこで蹲り、途切れ途切れで苦しそうにしながらも口をきったのは花月。アリスと風希が花月の方を向く。
「どうして…?何を言っているの…お父さんこんなに大怪我して…」
「小鳥遊流…はぁ、っはぁ…奥、義っ…桜花…昇天!!」


ドンッドンッ!ドンッ!!

「っ…!?」
「おい!カズ?!」
再び全身と瞳を金色に光らせた花月は、放った金色の光で父親を攻撃。辺り一帯の家や電柱までも吹き飛ばしてしまった。強大な力。
「っはぁ、はぁ…」
「花月…何て事して、」
「あれはっ…、あれは父さんじゃない!!」
「え…」
「ククク…学習能力のある子だねぇ。さすがはあたいが惚れた男だよ、小鳥遊花月!」
「な…何…こいつ…」


ズルッ…ズル…

今の攻撃で両手両足バラバラになった父親の両手両足が勝手にズルズルと動いて体にくっ付くと、ガクガク揺れながらゆらり立ち上がった父親は狂者の目をして歯茎が見える程ニィッと笑った。
「…!お父さん…じゃない…?」
「おやぁ?お前は確か、小鳥遊花月の姉だったかねぇ?ククク。両親に反対されたからねぇ。でもお義姉さんなら認めてくれるよね、あたいと小鳥遊花月の結婚を!!」
父親が、右手を風希に向ける。
「風希!!」
「風希姉さん!!」


ドンッ!!
























キキィーッ!

「チィ…」
父親の右手から放たれた真っ赤な光が風希を攻撃。しかし灰色の煙が晴れた其処には誰も居なくて、半分焼け焦げたワゴン車が1台、駅方面へと向かって猛スピードで走っていく姿が少し遠くに見えるだけ。
「逃がしはしないからね地球人!!」


ドッ!

まるで戦闘機かの如く目が追い付けない程の速さで走り、彼らの車を追い掛けていく父親…の皮をかぶったマジョルカ。




























「クッソ!おいカズ!てめぇのせいで車のアクセル半減しちまったじゃねぇか!」
「でも動くだけ良いではありませんか軍人さん!」
「そうだし!さっき花月が助けてやったんだからそれくらい我慢すれば〜?!」
「あ"?」


ギロッ!

「ひぃいい!」
ガンガン、アクセルを蹴りながら運転しているアリスにブーブー文句を言うryo.とタクローと友里香をアリスが一睨みしただけで3人は萎縮してしまい、座席の背もたれに隠れて小さくなるのだった。
「おい風希。カズの容体はどうだ」
後部座席で横たわる花月と、彼に付き添う風希をルームミラーで見て運転をしながら話し掛けるアリス。
「うんうん、ダメ…。でも気を失っているだけ…血は止まったから多分大丈夫…」
「多分かよ。こんな時月見が居りゃあな!つーかクソッ!何だよ、何でてめぇらの親父が俺らの事攻撃してくるんだよ!」
「分かんない…でもあれはお父さんじゃない…」
「あ?親父じゃない?なら誰だっつーんだ」
「そ、それはですな!峠下氏…あ、いや、花月支部長の話によりますと、どうやら先程の父上は本物の父上ではなく、父上を食べたMADだそうなのです。何でもそのMADは食べた人間の姿に化ける事ができるとか…」
「何で一般Peopleのキモオタに俺様が説明されなきゃなんねぇんだよ!」


ガンッ!

「ひぃ!!」
車内を蹴るアリスに説明したタクローはビクッ!としてryo.に抱き付く。
「もももも申し訳ありません軍人さん!私のようなOTKが出過ぎた真似を…!」
「おーてぃけー?わっけ分かんねぇ!MADが人間に化ける?ンな事できるわけねぇだろーが!」
「でも…きっとそう…」
「おい風希おま…はぁ。分ーったよ。面倒くせぇ。そういう事にしておいてやるわ。とにかく。桜花駅向かうぞ。将軍が本部の援軍を呼んでその援軍が待ってるらしいからな」
「電話…繋がったの…」
「違ぇよ。さっきカズが意識失う間際そう言ってたからだよ。ったく!あいつらまだ繋がんねぇ!今頃クソMADの胃袋の中か。バカヤロー共が!」


ガンッ!

片手でハロルドとファンにかけ続けていたのだがあまりにも繋がらない為、助手席に携帯電話を放り投げるアリス。


ガタン!

「うわああ?!」
「ンだよ、オイ?!」
突然車が大きく揺れたかと思えば、揺れはおさまる事無く走りながら大きく横揺れし続けるからアリスはハンドルをしっかり握って運転する。だが、揺れのせいでしっかりとした運転ができず蛇行運転になる。























「ンだよ!何が起き、…!!」
突然、車の屋根からボンネットに降りてきたマジョルカ(もう父親の姿はしていない)がフロントガラスに映り、アリスは息を呑む。
「追い付いたよ、地球人」
「んなっ…!?」


ガシャァン!!

「アリスさん…!」
マジョルカがフロントガラス目がけてピン!と指で弾く仕草をしただけで何とフロントガラスは割れてガラス片が飛び散るから、風希はすぐにryo.達3人の頭を伏せさせた。


ドンッ!!

「ぐ…!」
車は電柱に派手にぶつかってしまい、停車。
「アリスさん…!」
風希が呼び掛ければ、割れたフロントガラスのガラス片が頬や腕や肩に突き刺さり、赤い血を流して下を向いているアリス。
「っつー…」
「アリスさん…大丈夫…?」
「ンなわけねぇだろっ…くっそ…痛つ…」
「アリスさ、」


スパン!

「え?…」
「ギャアアアア!!」
下を向いていたかと思えば、顔を上げるのと同時に左胸から黒い剣を取り出したアリスは、ボンネットに乗っかっていたマジョルカを真っ二つにぶった斬ったのだ。
「へっ!不意打ち作戦成功ってな!」


キキィー!

もう一度エンジンをかけ直せば、一旦バックしてから再び猛スピードで、ボロボロのワゴン車を走らせて行ったアリス。
そんな彼の事を、座席の背もたれから顔を出して心配する風希。
「アリスさん無理したら良くない…大丈夫…?」
「ンなわけねぇつってんだろ!あのなぁ風希。大丈夫じゃねぇマジやべぇ時でも無理しなきゃなんねぇ時ってもんがあるんだよ!覚えとけ!」
「うん…分かった…」
「本当かよ」
「う"ぅ…許せない…許せない…地球人…」


ガシッ!

「おわっ?!お前まだ生きてんのかよ!いい加減くたばっとけクソMAD!」



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あきゅろす。
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