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終焉のアリア【完結】
ページ:2
振り落とした筈のマジョルカは元通りの姿。しかし、緑色の血をダラダラ流しながらボンネットに這い登ってきたのだ。その生命力には、さすがのアリスも感心してしまっていると…
「死ねぇ!地球人!!」


ドスン!

「グアアアアア!!」
「死に損ないなんて、さっさと死んじゃえばいいのに…」
「ナイス風希!」
車内から、外のマジョルカへ鎌を振り落とした風希。鎌はマジョルカの脳天を突き刺してそのままアスファルトへ落下したマジョルカは…


グチャッ、

アリスが運転する車に、嫌な音をたてて轢かれてしまった。






















「うおおお!峠下氏の姉上さすがですぞ!」
「戦う女性!セーラー服!なんて萌え要素満載の女性なんだあああ!!」
「花月のお姉ちゃんマジすごいんですけど〜!」
やんややんや。ryo.達3人が讃えてもポーカーフェイスな風希は全く動じず、座席に着く。
「あのクソMADもう追ってこねぇ。やったな、風希!お前やるじゃん」
「このくらい普通…」
「んだよ。褒めてやってんだから、素直にありがとうの一つくらい言えよ」
「うっ…」
「花月…?」
「カズ!?目ぇ覚めたのか」
体の痛みに唸りながらも、徐々に目を開く花月。
「っ…、痛っ…」
「カズ大丈夫か!」
「峠下氏ぃぃい!!貴方が死んでしまったら私はどうしようかと思いましたぞ!」
「峠下氏、ご無事ですか!」
「花月大丈夫!?」
「あ…皆さん…。ご心配とご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありま…うっ…、痛っ…」
「バカ。無理すんなっつってんだろ」
「ありがとうございます先輩…」
「花月…」
「風希姉さん…。姉さんにも迷惑かけてすみま、」
「お鳥ちゃんは何処に居るの」
「…!!」


ドクン…!

『あんたがそのケバい女の所行って、お鳥ちゃんに酷いフリ方したせいでお鳥ちゃんぶっ壊れちゃったんだよー?アタイはその情緒不安定な心の隙間から入っただけ。心の隙間が無けりゃアタイらも地球人の体になんて普通入れないの。だ・か・ら〜この子こんな風にしたのも日本の連中がMADにされたのも、ぜーんぶあんたのせい!キャハハ!』
『お鳥ちゃん返してほしかったら来なよ。ま、その頃にはもうこの子、完璧なMADになってあんたの事忘れているだろうけどね〜。キャハハ!』

フラッシュバックする思い出したくない忌まわしい記憶が、花月の脳裏を駆け巡る。
「花月…?花月…?」


ドクンドクン
ドクンドクン
ドクンドクン…!

風希の声なんて聞こえないくらい、あの記憶が脳裏に焼き付いて離れてくれない。





































同時刻――――


ズッ…ズッ…、

「ファンさん…」
「む…。静かに…」
「は、はいっ…」
一方のファンと月見。
街のビルとビルの間に隠れて、其処から街を彷徨うMAD達の様子を伺っていた。
――何が起きているんだ。ホテルに居た人間が全員いなくなりMADしか居らず、街に出ても人っこ1人居ない…――
「ファ、ファンさん」
「どうした」
「思わずホテルを飛び出してきてしまいましたけれど、皆さんは何処に居るのでしょう…。わたくしの妹達と弟はどうなったのでしょう…。もし、妹達と弟に何かあったらわたくし…わたくし…」
「大丈夫だ」
「ファンさん…?」
携帯電話を耳にあてながら、力強い眼差しで月見を見つめるファン。
「今ようやくハロルドと電話が繋がった」
「…!」
ぱあっ、と明るくなった月見にふっ、と優しく笑むファン。



















「もしもし、ファン君?」
「ああ。ハロルドか」
「よ、良かった〜。やっと繋がった。ファン君、無事?」
「ああ。すまない。月見が居たので、お前達の事を確認せず先、ホテルを出てきてしまった」
「実は僕もそうで…って言っても僕は今、1人なんだけど…」
「何?同室には鳳条院が居たのでは」
「そうなんだけど…。僕は鳳条院鵺君と雨岬空君とミルフィ・ポプキンちゃんと逃げ出してきたんだけど、鳳条院鵺君に2人を任せて僕は1人で街の人の様子を見に行ったから離ればなれになってしまったんだ。子供達を置いていってしまったなんて、軍人失格だよね…」
「そんなに自分を責めるな。鳳条院が居れば大丈夫だろう。ミルフィという女子も戦えるしな。ところで、街の人間は」
「うん、それが何処にも居ないんだ。もし食べられてしまっていたとしても骨は残っているはずだよね。それすら無いんだ。それに、さっき襲ってきたMADを攻撃したら、MADからは僕達地球人と同じ赤い血が流れて、しかもそのMADはサラリーマンのスーツ姿で鞄を持っていて。もしかしたら…」
「だろうな。そんな事をあのMAD共ができるとは思いたくないが、実際私もMADに攻撃したところ、血は赤かった」
「やっぱり…!」
「それに何より、今までのMADに比べ、戦闘能力が低過ぎる」
「だとすると、彼らはやっぱり…」


ゴクン…

2人唾を飲み込む。その先は恐ろしくて口には出せなかった。




















「ファン君は今、どの辺りに居るのかな」
「む。日本には詳しくない為…」
「お、桜花駅前ですっ!」
「…だそうだ。日本人の月見が言っているのだから間違い無い」
「分かった。じゃあ桜花駅に来れるかな?僕は今駅南口通りに居るから、今向かっている最中なんだ。さっき、何とか将軍からの電話が繋がって、事情を小鳥遊花月君達のお父さんから聞いた将軍が援軍を出してくれて、彼らは桜花駅に来るそうなんだ」
「了解した。途中アリスや花月、雨岬達と会えれば良いが…」
「会えなくても僕が探しに行くから大丈夫だよ」
「ならばその時は私も同行する」
「ありがとうファン君!持つべきものは友だね!じゃあ無事会える事を願って!」
「ああ」


プツッ!


ツーツー…

携帯電話をしまうファン。
「聞こえていたか、月見」
「は、はいっ!桜花駅に援軍さんがいらっしゃるのですよね…?」
「ああ。走れるか」
「は、はい!がが、頑張ります!」
「よし」
差し出されたファンの右手。しかし、それを握れず戸惑っている月見。
「大丈夫だ。私を信じろ」
「〜〜は、はいっ…!」


ぎゅっ、

月見が両手でしっかり握ると、ファンは月見を連れて街へ飛び出す。
彼らに気付いたMADが攻撃してくるが、走りながら手の平から炎を出して攻撃していくファンの大きな背中を、手を引かれながらドキドキして見つめる月見だった。






























同時刻―――――


ドンッ!ドン!

「ギャアアアア!」
「鵺ちんさっすがー☆」
「だからその呼び方やめろ言うてるねっか!」
一方の空、鵺、ミルフィ。襲い掛かってくるMAD達を攻撃していく鵺とミルフィを見ていたら、何もできない自分への苛立ちと歯痒さが込み上げるから、拳を強く握り締める空。


ドサッ、ドサッ

辺り一帯にMADの亡骸が転がれば、とりあえずMAD達を追っ払えて一段落。
「だろも、なしてMADのクセして赤い血流してんらてこいつらは?」
「ねぇ鵺ちん。右手のその手袋どうしたの?右利きだったのに、どうして左手で刀を持っているの?」
「…!」


パッ!

ひょっこり顔を覗き込んできたミルフィに対し、手袋をはめた右手を挙動不審に後ろへ隠す鵺。左手に刀を持ったまま。
「鵺ちん怪我でもしたの?大丈夫?」
「ちょっと手首を捻ったんだよな」
鵺の前に立った空のフォローに、ホッとする鵺。
「え?大丈夫?」
「大丈夫だよな、鵺」
「う、うん。でぇじょぶら!」


















「しっかし…一体、何がどうなってんだ」
辺りの惨状を見渡して空が一言。
「誰も居ないね」
「ああ。ホテルの中にも人間が誰も居なくて代わりにMADばっかりだったし。つーか、ハロルド…さん?だっけ。戻ってこなくね?」
「そうだね。もしかして…」


トゥルルル

「あ。俺だ」
ズボンのポケットから鳴った携帯電話を取り出す空。
「もしもし」
「雨岬空君の電話…だよね?」
「ハロルドさんっすか?」
「うん、そうだよ!急に居なくなってごめんね。そっちは大丈夫かな?」
「鵺とミルフィのお陰で、まあ何とか」
「そっか。ホッ…良かった…。あのね、さっきグレンベレンバ将軍から電話が繋がって、桜花駅にEMS軍本部の人が来てくれるって言っていたんだ。みんな今其処へ向かっているんだけど、雨岬空君。今居る場所から駅らしき建物は見えるかな?」
「あー…横長の白い?」
「そう、それだよ!」
「其処に行けっつー事ですか」
「うん。大丈夫かな。僕が迎えに行った方が良いかな?」
「いや、大丈夫です。辺りのMADは鵺とミルフィが殺ってくれたんで」
「じゃあ何かあったらすぐ連絡してね。じゃあ、桜花駅で!」


ツー、ツー…

「桜花駅…」
「雨岬。少佐が、なしたて?」
携帯電話をポケットの中へしまい、2人と向き合う。
「桜花駅にEMS本部の迎えが来るらしい。其処行けってさ」
「駅って、真正面に見えるアレ?」
「だな」
「じゃあ、此処ら辺のMADが全滅した今がチャンスだね」
「だな…ってオイ?!何勝手に手ぇ繋いでんだよ!放せ!!」
「え〜だって、いつ何処からMADが現れるか分かんないんだよ!ミル怖〜い☆」
「つーかお前この状況でよくもまあ、暢気でいられるよな!」
「だってだって、慌てたって良い事無いよ?寧ろ逆効果!こういう時はいつも通り落ち着くのが一番だよ♪」
「いいから放せ!!」
「やーだよーっだ♪」
ミルフィに抱きつかれた左腕をブンブン振るが、彼女はぴったりくっついて離れない。そんな2人を、腰に手をあてて、
「はぁ。だすけ、最近の若者は下品言われるんらて」
と呆れて見ている鵺。






















「ったく!おい鵺。桜花駅に行くぞ」
「分かったて」


ザワッ…!

「っ…!?」
――何だ…この感じ…?!――
駅へ向かい、さあ一歩踏み出そうまさにその時。突然空気がズン、と重くなり、3人は立ったまま身動きがとれなくなる。何か強大な力に支配されている感覚。全身に伝わる悪寒と殺気。
「な…何だこれ…?!」
「何これ、やだ!体が動かないよっ!」
「くっ…!?何らて、見た所何処にも何も居ねぇねっか!」
唯一動かせる目だけを上下左右に忙しなく動かして見るが、誰の姿も無い…のに酷く感じるこの冷たい視線。


トン、

「?!」
体は動けないから振り向けない3人の背後に、微かな物音。


ドクン、ドクン、ドクン

――何なんだ…其処に何が居るんだ…!――
「桜花駅に何の御用で向かわれるのですか、空さん」
「…!その声は…!」


スパン!!

「鵺?!」
聞き覚えある女性の声に悪寒がしたと同時に、辺り一帯が真っ赤な光に包まれてすぐ。魍魎を引き抜いた鵺が飛び出して、背後に現れた敵を斬った…と思ったのだが…。
「居ない?!」
「何故動けたのか…と疑問に思いましたが、なるほどそうでしたね。貴方はわたくし達の同志でしたね、鳳条院鵺さん」


トン、

「ぐああ!」
「鵺!!」
「鵺ちん!!」


ズザァァア!

鵺の真後ろに瞬間移動した敵がトン、と指先で鵺の背中を叩いただけで、鵺はアスファルトに体を引きずる形で勢いよく吹き飛ばされてしまった。






















「お前は…!」
ゆっくり空の方を振り向いたメイド姿の人型生物は、シトリーの侍女『ドロテア』
「お久しぶりです空さん。桜花駅へ行って、またわたくし達から逃げるおつもりですか?」
「っ…!うるせぇ!何なんだよ、何でお前らは他人の惑星侵略しようなんて馬鹿な事を考えついたんだよ!何で争う事しか脳に無いんだよこの低能クズ野郎!!」
空の罵声を無視して、ドロテアはミルフィを見る。
「あら。貴女は共和派首相ミルフィさんではありませんか。先日共和派の部下達が大量に殺されたと聞いていましたが、EMSへ寝返った貴女の仕業だったのですね」
「っ…、」
「わたくし達の犬だった分際で。よくEMSはミルフィさんを引き取ってくれましたね。ああ、そうですね。EMSは殉職者が多く人手不足なので、貴女のような犬でも引き取ってくれるので、…?」
ふと、足元に視線を落とすドロテア。ミルフィからドロテアへ伸びているいくつもの目玉の影に気付いたドロテアが、顔を上げる。ミルフィはニヤリと笑む。
「こーんなに可愛い女の子を捕まえて犬呼ばわりしないでよね、おばさん!!」


ドン!ドン!

目玉の影が一斉にドロテアに襲い掛かり、辺りに黒い煙幕が立ち込める。すると突然、空とミルフィの体も身動きがとれるようになり、感じていたあの強大な力や威圧感が半減する。
「雨岬君!」
ミルフィが空へ駆け寄る。
「終わりですよ、ミルフィさん」
「え…?」
「ミルフィ!!」


ドスッ、

黒い煙幕の中から目にも止まらぬ速さでミルフィ目がけて、ナイフのように長く鋭い赤い爪を突き刺したドロテア。しかし…
「鵺ちん!」
「鵺!」
ミルフィの前に、先程の攻撃であちこちに怪我を負った鵺が立ちはだかり、魍魎でドロテアの爪を受けとめたので間一髪だ。だが…。
「っぐ…、くっ…」
「おい?どうした鵺!」
「ふっ…。なるほど」
ドロテアが不敵に笑んだ次の瞬間。


ドサッ、

「鵺?!」
その場に崩れ落ちた鵺。手から離れてカランカラン、と音をたてて転がる魍魎。全身をガクガク震わせ蹲る鵺。
「おい、鵺!ぬ、…!!」
「鵺ちんその左手…!?」
鵺の左手は激しく痙攣していて何と、ドロテアと同じ不気味な緑色へと手首まで変色していたのだ。爪も同様に。
その光景を初めて見たミルフィは口を両手で覆い顔を真っ青にしているが、空はもう分かっているから駆け寄り、背中をさすってやる。
「おい、鵺!苦しいのか?鵺!」
「あっ…、あ…刀が…俺の刀が勝手に離れていった…」
「何…?」
「それはそうでしょう」
「!」
3人の前に立ったドロテアを見上げて、キッ!と睨む空。
「その刀は恐らく妖怪退治用でわたくし達プラネットにも通用する…つまり、人間以外の生物を斬る目的で造られた刀…。ですから、プラネット化した鵺さんの左手を敵と認識したその刀自身が鵺さん貴方を拒絶し、自ら離れていったのです」
「鵺…だからお前、利き手と反対の左手で刀を持ってたのか…」
「っ…、右手じゃ…持とうとしても魍魎が離れていって持てねかったすけ…」




















唯一の武器が使えなくなり愕然とする鵺をお構い無しに、ドロテアは空に手を差し出す。
「さあ、空さん。シルヴェルトリフェミア様がお待ちですよ。さあ、どうぞこちらへ」
「行くわけねーだろ!あいつは、お前らは!俺の家族を殺して地球の平和を奪った化け物なんだよ!!」
「さあ、どうぞ。さあ…」


ドン!ドン!!

「っぐ…!」
「きゃあああ!」
「鵺!ミルフィ!」
ピッ、ピッ、と右手で鵺を左手でミルフィをドロテアが指差しただけで2人は付近の建物まで吹き飛ばされ、背中を強く打ち付けてズルッ…と、その場に崩れ落ちてしまう。
「鵺!ミルフィ!」
「さあ、空さん。邪魔者は離しました。空さんのご友人はシルヴェルトリフェミア様ただ1人でございます」
「…な…、」
「何と申されたのですか。申し訳ありませんが、復唱をお願い致します」
「ざけんなよ、てめぇら…」
「空さん?」
ユラリ…
下を向いて立ち上がった空に首を傾げるドロテア。空の赤と黄の瞳に、其処に転がっている魍魎が映る。

『おめさんはなして、魍魎を扱えるんらて。この前花月さんと対峙した時、おめさんはおめさんじゃねかった…。しかも、おっかしい事言ってたろ。俺の事もう死なせねぇ、とか…。おめさんなしてあんげ事言ったんら』

鵺の言葉を思い出して、魍魎を掴む。
「空さん。ご気分が優れないのですか?でしたら早急にわたくし達の領土へ向かいましょう。シルヴェルトリフェミア様が既に、空さんのお部屋をご用意しております」
「ざけんじゃねぇ…」
「はい?」


スッ…

魍魎の鞘を抜いていくと辺り一帯に赤い光が放たれる。
「空さん…貴方が何故その刀を…」
「ざけんじゃねぇ!!!」
「!!」
抜刀した。
――まずい…!――


ドン!ドン!ドンッ!!




















「あの光…」
「鳳条院鵺君の刀の光…?」
赤い光は、桜花駅まで届いていた。

































空が魍魎を振り上げて、辺りのビルが赤い光の威力により崩壊した残骸の中からむくっと体を起こしたドロテアの視界に映るのは。瓦礫の中に佇む赤く強い光をまとった空。その目はつり上がり、まるで…
「鬼…ですね」
フー、フー、と息を荒くしている空の脳内で響く声。
《なっ…!?魍魎を抜刀してから俺の体が勝手に動いてる?!まるで、誰かに体を乗っ取られているような…》
「よう。やっと意志疎通できるようになったな雨岬空」
《!?》
すると、空の体を乗っ取った空ではない別の誰かが脳内に意識がある空に話掛けてきたから、空は驚愕。
《んなっ…、誰だお前は!》
「そうだなぁ。雨岬おめぇと話せたのは今日が初めてだもんな。俺は、鳳条院空。おめぇの前世だ」
《俺の…前世…?それに、鳳条院って…》
「そーそー。おめぇ、そこ驚くと思ってたぜ。おめぇが鳳条院一族しか抜く事のできねぇこの刀を抜けるのは、おめぇの前世の俺が鳳条院一族の人間だからっつー話よ。しかも鳳条院一族の中でも俺は大剣豪だったんだぜ?まあ、大正時代の話だがな」
《大正…》
「おっと。話はまた後だ。どうせ意志疎通できるようになったんだ。ゆっくりいこうや。…くるぜ」
ドロテアが、スッ…とこちらに手を向けたのに、飄々とした態度で歯を覗かせてニヤリ笑う鳳条院空が魍魎を構える。
「まあ、詳しい話はこいつ殺ってから追々と話すわ。その前に大事な事一つ。俺が体を失くした今も魂彷徨っておめぇについてる理由。それは…」チラ…。
鳳条院空の視界に、倒れている鵺が映る。その映像は、今意識が脳内にある空にも見えている。
「もう二度とあんな残虐な最期は迎えさせねぇ為…。鳳条院鵺の前世、桜ノ宮鵺…まあ、俺の妻だな」
《んなっ…?!妻ぁ?!鵺は男、》


ドンッ!ドンドン!!

《っ…?!》
瞬間移動をして目の前に現れたドロテアとぶつかり合う鳳条院空。
ドロテアのナイフと同等の殺傷能力を持つ長い計10本の赤い爪が、カン!カン!と魍魎とぶつかり合っている。しかも互角。しかも鳳条院空は余裕の笑みすら浮かべていてこちらからは攻撃を仕掛けない。その光景は、今脳内に意識がある空にもしっかり見えている。
――すげぇ…何だこいつ…何だ、俺の前世…!刀を抜くとこいつの意識が前に出るから、俺は今まで刀を抜いた時の記憶がぶっ飛んでいたのか…!――


ピチャッ!

「おっと。よそ見しちまったぜ」
ドロテアの爪が鳳条院空の左頬を掠めて、赤い血が飛ぶ。
――だーっ!!人の体に何て事してくれんだこいつ!今は意識が脳内にあるから痛み感じないけど意識が元に戻ったらぜってぇ痛いんだろ!普通、展開的に!?――




















「へぇ。さすがこの時代の化けもん。室町の頃の妖怪より強ぇんだな」
「くっ…!貴方は空さんではない別の何か、ですね…!」
「いーや。俺も空だぜ。一応」
「くっ…!馬鹿にしましたね!」


パッ!

突然後ろへ下がり間合いをとったドロテアが両手を頭上に上げる。ドロテアの頭上にだけ、真っ黒いまるでブラックホールのような雲が浮き上がり、それがやがて球体となり、ドロテアが両手を鳳条院空に向ける。
「わたくしを馬鹿にした罰です。食らいなさい!」


ドンッ!!

「くっ…!」
何とか魍魎で受け止める。だが、その強大な力に圧されて、後ろのビルに背中を強く打ち付けてしまった。
その間にもドロテアは瞬間移動をして、また目の前に現れる。
「まずい…!」
「ふっ…所詮、地球人。鈍いのです!」


ドンッ!

「っあ"あ"あ"!!」
思い切り顎を下から蹴り上げられて、倒れる。その隙を狙ってギラリ光る赤い爪を振り落とすが…


キィン!


「受け止めましたか。貴方何者です?」
「だから空っつってんだろ」
「……。貴方に用はございません。シルヴェルトリフェミア様が求めているものは、ご友人の雨岬空さんだけです」






















キィン!キィン!

「うっ…」
ようやく目が覚めた鵺が体を起こして見えた光景に、目を見開く。
「なっ…!?雨岬がまた魍魎を使こうてる…!?」
赤い光を纏った鳳条院空VS黒い光を纏ったドロテアが、互角に戦っていたのだ。
「雨岬…おめさんは何者なんらて…」
「鵺ちん…」
「あ…おめさん、怪我大丈夫らけ?」
鵺の隣にやって来たのは鵺同様吹き飛ばされたせいで、あちこちに怪我を負ったミルフィ。
「雨岬君、また…」
「ああ…。分かんねんだろも、あれは雨岬じゃねぇ。そんな気がするて」
「うん。何だろう…こうってはっきりは言えないんだけど、あれはミルの知ってる雨岬君じゃない」


ドンッ!!

「きゃあ!」
「っ!」
強い爆風がして、顔の前に腕を翳す2人。
「よっし。桜花駅つったか?行くぞおめぇら!」
「雨岬君!」
煙の中から2人の前に姿を現したのは、傷だらけなのに強気な笑顔の鳳条院空。
「あ、雨岬おめさんが此処に居るって事はMADをやっつけたんけ?!」
「鵺…」
「んなっ…?!な、何らて!?そんなジッ、と見んなてば!気色悪りぃねっか!!」
憂いの瞳で鵺を見る鳳条院空に鵺が顔を赤らめて反らし、彼の脚をガシガシ蹴る。
「良かった。生きてて」
「な、なしたんらてそんなしんみりして、おめさ、うわっ?!」
ぐいっ、
2人の両手を掴むと、桜花駅目がけて走る鳳条院空。
「よっしゃ!行こうぜ桜花駅!」
「きゃ〜!雨岬君自らミルと手ぇ繋いでくれる日がこんなに早くくるなんてミル嬉しー♪」
「わ、ちょっ、おめさん頭ぶつけたろ?!今日おっかしいて!」
そんな2人の言葉など聞かず、2人を連れて突っ走って行く鳳条院空だった。



























そんな彼らの後方瓦礫の山の中では。
「うぅ…不覚…。地球人に…こんな目に合うなど…」
仰向けに倒れたまま怪我だらけのドロテアが居た。白のエプロンは、自身の緑色の血に染まっている。


カツン…コツン…

「!」
後方から聞こえるブーツの足音。近付いてくる足音がやがて…


コツン…

ドロテアの真後ろで止まる。
「申し訳ございません…取り逃してしまいました…」
「……」
「わたくし一生の不覚…」
「……」









































同時刻、
日本支部近辺―――

「うぅ…小鳥遊花月…どうしてアタイの気持ち、分かってくれないんだい…うぅ…」
「やられてやんの。だっさー」
「!!その声は、アリスかい?!」
轢かれたままの状態でタイヤの跡がついてぺしゃんこになって道路で倒れているマジョルカの前に現れたのは、MADアリス。塀にちょこんと屈んで両手の上に顔を乗せ、笑っている。
「キャハハ!ぺしゃんこじゃん。ウケるー」
「笑っていないで助けたらどうだい?!」
「後でね〜ん。今ね、あいつらが此処を飛び立つっぽいよ」
「小鳥遊花月が?!」
「そいつもそうだろうねーだ・か・らさぁ〜アタイが邪魔してくるんだ☆」
「な、ならその時小鳥遊花月も連れてきておくれよ!」
「やーだー。あんな豚どこが良いの?キャハハ〜!」
「くぅ〜!小娘ー!!」
「邪魔をする必要ならありませんよ、アリス」
「げっ。その声は…」
背後からした声に嫌そうに顔を歪めて、恐る恐る後ろを向く。傷だらけで血だらけのドロテアが居た。
「何!?ドロテアオバチャンあんたがそんな怪我するなんてヤバくない?!」
「ド、ドロテアさんどうしたんだいその大怪我は!」
「気にする必要ありません。アリス。先程貴女が申していた"邪魔"はする必要ありませんよ」
「何でよー!じゃあ、あいつらが逃げていくのを指咥えて見てろって言うの!?」
首を横に振る。
「じゃあ何よっ!」
腰に両手をあてて不服そうなアリス。
「そういう事です」
「はあ?……!ああ、そう。そういう事ね」
「??」
理解し八重歯を見せてニヤリ笑うアリスと、まださっぱり理解できていないマジョルカだった。



























to be continued...











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