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車輪の回る音が軽やかに響く帰り道。
夏が近いって言っても、6時を過ぎると辺りは薄暗くなり、早い所では街灯に明かりが灯る。


その中を二人乗りした僕たちの自転車が走り抜ける。
僕たちの家まで普通に漕げば20分ってとこかな。
武流がケガをしてる時は僕が漕いでたけど、治ったからって武流は漕ぐ側に回りたがった。
普段運動してない僕からすると、二人乗りは結構キツかったから遠慮なく代わってもらった。


途中、高台から海岸を見渡せる場所に来ると、武流は自転車を止めた。
ここを通りかかると武流が止めろとうるさいから、10分ほど止めて夕暮れの海岸線を眺めるのが日課になってしまった。
1週間空いたけど、それはまだ健在だったらしい。


オレンジに染まる海岸を見てると時間を忘れそうになるけど、僕には訊かなきゃいけない事があるんだ。


「あの、さ…」


「キレイだな」


「え?」


言葉を発するタイミングが重なり、僕は思わず武流の横顔を見た。
それは夕焼けに染まる海岸の事を言ってるのだろう。
遙か遠くを見つめる視線がどことなく儚げで、胸が苦しくなった。


武流にこんな顔させてるのって一体何?
僕に何か協力できないのかな。
笑顔を取り戻すために…。


見つめていたって知られたくなくて、僕は視線を逸らし意を決して口を開いた。


「…彼女とケンカでもした?」


「…っ…」


武流は驚いてたけど、口火を切るには最適な話題だった。
それに、驚いて無言になるって事はそれを否定できない…彼女がいるって事。


やっぱりショックは大きくて、今度は僕の方が黙り込んでしまった。
自分で話をふっておいて何て勝手なんだろう。
慰めの言葉でもかけてやれば、武流も少しは落ち着くかもしれないのに…。


「………由香里ちゃんとは、別れた」


「は? え、早…っ」


由香里っていう名前だったっていうのも今知ったけど、あまりの衝撃に正直な感想が飛び出していた。
失態に気付いて口を噤んで武流を見ると、何かを堪えているようだった。


「…ごめん。だ、大丈夫だって! また新しい彼女できるから」


それはそれで僕が困るんだけど、今は落ち込んでいる武流を慰めるのが先決だった。
武流はよっぽど傷ついたのか、まだ黙り込んでいる。


「武流?」


「…無理だよ」


投げやりな言葉に苛立ちを覚える。
僕にはないものをたくさん持ってるのに、それを活かそうと努力もしないなんて…!


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