3-2
髪型は三つ編みに。
ルルーシュからもらった制服に身を包むあたしは、誰がどう見てもアッシュフォード学園の生徒だった。
中庭で昼食にありつく女生徒たちと比べても、驚くほど違和感がない。
学園風景に溶け込んでいることはすなわちすなわち、前回よりもスザクを探しやすくなったというわけだ。
だが、それが見つかることに繋がるかと言ったら別問題。
今のあたしには、スザクがどこにいるか見当もつかなかった。
昼休みだけど時間は限られている。
ただ闇雲に校舎を回るよりも、確信を持って探さないといけない。
「スザクが行きそうな場所ってどこだろう?」
自分の教室か、
もしくは誰もいない静かな場所か、
それとも―――
「ねぇ、あなた」
考えることに没頭していたあたしは、声を掛けられるまで後ろに人がいることに気づかなかった。
慌てて立ち上がって振り返る。
危うくその人の名を口にするところだった。
肩まで伸ばした真っ直ぐの紅の髪と、あたしを見据える藍色の瞳。
あたしには今の彼女は、病弱な『カレン・シュタットフェルト』ではなく、凛とした面持ちをした『紅月カレン』に思えた。
ジッと見つめていたからだろう。
カレンが怪訝そうに眉を寄せた。
「私の顔に何かついてるの?」
「ううん。
どうしてあたしに声を掛けたのかなって」
出会ったのはこれが初めてだ。
なら、どうしてカレンはあたしに声を掛けたんだろう?
日本人てことに気づいたから?
あたしは黒髪黒目だ。
日本人的な特徴を彼女が知っていてもおかしくない。
「今、探しているんでしょう?
枢木スザクを」
「え」
思いもよらない指摘に、一瞬、何を言われたか分からなかった。
「今は、彼を探さないほうがいい」
「どうして?」
『探さないほうがいい』
なんて言葉は、あたしとスザクが知り合いであることを知ってないと出ない言葉だ。
なら、どうしてカレンはあたしに『探さないほうがいい』なんて言うんだろう。
あたしの『どうして』はそんな意味だった。
だけど、カレンは違う意味で捉えたようだ。
「どうしてって―――知らないの?
知らないなら、なおさら今は探しに行かないほうがいい。
これは彼のためでもあるの」
彼女の憂いを帯びた眼差しに、あたしは唐突に理解した。
「もしかして、嫌がらせのとばっちりをあたしが受けるんじゃないかって心配してる?」
「っ!!」
息を飲んで驚くカレンは、どうやら図星のようだった。
「そりゃあ、あたしだって嫌がらせされるのはイヤだよ?
だけど、とばっちり受けるのが怖くて何もしないのはもっとイヤ。
お願い、居場所を知ってるなら教えてほしい」
カレンは戸惑いで沈黙していたが、諦めたように口を開いた。
「教えるわ。
だけど、嫌がらせのとばっちりをあなたが受けたことを知って、心を痛める人がいるってことを忘れないで」
心を痛める人。
それはスザクのことを言っているのだろうか。
「……きっと自分のせいだって思うんだろうな。
変なの。
どう考えても相手が悪いのに」
「だけど、それがあなたの言う彼の『優しさ』なんでしょう?」
「うん、そうそう。
―――って、あたしそんなこと言ったっけ?」
「言ったじゃない。
他人第一で、優しくて、まっすぐなんでしょ?
聞こえてた」
え?
それってつまり…?
「えー?!!
うそ うそ 昨日のアレ聞いてたの!!?」
「聞いてたんじゃなくて聞こえてたの。
あなたの声、廊下に結構響いていたわ」
「そ、そんな…」
ルルーシュ&スザクのみならずカレンまでも…。
穴掘って飛び込んでしまいたくなるほど恥ずかしい。
「気にすることないんじゃない。
ブリタニア人相手に自分の意思を貫ける人は少ないと思うから。
むしろ私は…」
なぜかそこでカレンは言葉を切った。
「…………私は?」
「―――いいえ、何でもない。
彼を見かけたのは第2校舎側の水飲み場よ。
今も多分、そこにいる」
「第2校舎?
それって向こう側の校舎のこと?」
「ええ」
『もしかして』と思ってたことが、あたしの中で確信に変わる。
スザクは今も、嫌がらせで受けた体操服の落書きを水飲み場で消しているんだ。
「ありがとう!
あたし、ちょっくら行ってくるね!!」
駆け足でその場を後にした空は、カレンが浮かべた優しげな笑みを見ることは出来なかった。
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