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2-10
何かに熱中すると時間の流れはあっという間だ。

キッチンの小さな窓から見える空の色は、もう夕暮れのオレンジである。
C.C.のリクエストの『甘いもの』が完成したと同時にルルーシュが帰ってきた。

「お帰りなさい」

キッチンからダイニングへ。
出迎えれば、ルルーシュは一瞬顔をしかめさせたが、

「ああ、ただいま」

なんて返した。
あたしはその場で固まった。
だってあのルルーシュが『ただいま』だよ?!

そりゃあ『ただいま』ってルルーシュに言われたら嬉しいっちゃ嬉しいけど、違和感のほうが勝ってしまう。
『ただいまとは言わず嫌な顔してスルー』
それがルルーシュだと思っていた。

だけどその違和感の理由は数秒後に判明した。
ルルーシュの後ろにいる人物と視線がぶつかったからだ。

「キミはあの時の…」

驚きに目を見開くスザクに、あたしは『あぁなるほど』と納得する。
ルルーシュが挨拶を返したのはスザクがいる手前だったからか。
うん、そんなことだろうと思ってたけど。

「言っただろう、放課後にでも話せると。
俺は部屋に戻る。
適当に座っててくれ」

スザクにそれだけ言うなり、ルルーシュはダイニングを後にした。
取り残されたあたしとスザクの間に気まずい沈黙が降りる。

「あ、あのさ。
とりあえず座ろっか」
「そうだね」

向かい合うように椅子に腰掛ける。
沈黙がまた訪れた。

なにこのお見合いみたいな空気。
耐えきれなくなって先に口を開いたのはあたしだった。

「自己紹介。
まだしてなかったよね。
あたしは空」
「僕は枢木スザク。
ごめん、名乗るのが遅くなって。
あの、さ」

まるで言うことをためらうように、スザクは視線をテーブルに落とした。
少しの沈黙の後、言う決心がついたのかスザクは確信を持った眼差しをあたしに向けてくる。

「僕とキミ、どこかで出会わなかった?」

予想の斜め上を行き過ぎていて、すぐに反応できなかった。

「………………え?」
「キミを見るの、今日が初めてじゃない気がするんだ。
だから、どこかで会ったのかなぁ…って」

スザクは気恥ずかしそうに頬を染める。

彼の言葉が一昔前の口説き文句みたいで。
悪いと思いつつも吹き出してしまった。

「ぶふっ!
ふ……ご、ごめ……あはははははっ!!」

あ然とするスザクには悪いと思いつつも、腹がよじれるぐらい爆笑したあたしは、虫の息で机に突っ伏した。

「はー……はー……。
ご、ごめん…。
…ホント、悪気はないんだ」

息を整えてスザクを見れば、彼は困ったように微笑んでいた。

「そうかな?
やっぱり僕の勘違いか……。
朝の廊下で、キミが僕のこと知ってるような口ぶりだからもしかしてって思ったんだけど」

ギクリと肩がすくむ。
思ったまま考えずに言った言葉をスザクにバッチリ聞かれていたことを思い出した。

この世界であたしとスザクは初対面だ。
あたしの言った『スザクは優しい』は、明らかに初対面で出てくる言葉じゃない。
スザクが勘違いするのも仕方ないだろう。

「『あたしを見たのは初めてじゃない』って気のせいだよ。
こうやって会ったのは今日が初めてだし。
朝の廊下であぁ言ったのは……前にテレビでキミの顔を知っていたから。
目を見ればわかったよ。
キミが優しいってことぐらい」

テレビはテレビでも向こうの世界でのことだ。
嘘はついてない。



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