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第1話 Side:ナナリー

差し込む月明かりを感じるために、この部屋のカーテンは開けられたままだ。
部屋の主は、ベッドに横になりつつも眠ることができなかった。

「空さん…………か」

呟いたのは今日知り合った女の人の名前。
呟き、ナナリーは軽く吐息をこぼす。
眠れない理由はその人にあったからだ。

声を聞けば自分より年上なのは確かで、名前から察するに日本人。
分かっているのは、兄の知り合いだということ。
兄の元へ行こうとして、その途中でその人の声を聞いたのが始まりだ。

どうして、こんなにも胸が締め付けられるのだろう―――

初めて感じる焦燥に眉根が寄る。
廊下からかすかに足音が聞こえ、ナナリーは意識をそちらに向けた。
誰が入って来たかは足音で分かった。

「ナナリー。
眠れないのか?」
「お兄さま」

やっぱりその声は兄のものだ。
ナナリーは安心にホッと息をこぼす。
自分の様子を見に来てくれたんだろう。

「眠れないなら手をつないでおこうか?」

近づく気配に、ナナリーは兄がいるであろう方向に顔を向けた。

「いいえ。
少し気になったことがあって…」
「気になったこと?」

兄の声がすぐ近くから聞こえた。
多分、目線を合わせるためにしゃがんでくれたのだろう。
ナナリーは気になっていることを口にした。

「空さんはお兄さまのことを知り合いだと言ってました。
お友達ではないのですか?」

問いかけて、返ってきたのは沈黙だった。

「お兄さま?」
「………………ああ。
まぁ、友達と言えば友達だよ」

どこかすっきりとしない兄の答えは、どこか皮肉を込めたような軽い口調だった。
兄がこんな口調の時は、何か隠したいことがある時だ。

ただの友達ではないのかもしれない。
だけどナナリーは追求しなかった。
兄は彼女を友達だと言った。
なら、それでいいと思った。

「アイツがどうかしたのか?」
「お兄さま。
わたし、空さんの独り言を聞いてしまったんです。
すごく悲しそうな声をしてました」

廊下で聞こえたあの人の声は、まるで帰る家を無くした迷子のような、途方に暮れた声をしていた。
繋ぎ止めないと、消えてしまうんじゃないかと思ってしまうぐらい、すごく儚い声だった。
だから、思わず声を掛けてしまったのである。

「お兄さま。
わたし、空さんとまたお話したいです」
「そうだな……。
……じゃあ、また機会があれば連れていくよ」
「絶対ですよ。
お兄さま」

ほんの少し強めの口調。
ナナリーがそんな口調で何かを言う時は、必ず約束めいた言葉を交わす時だ。

『機会があれば連れていく』
ルルーシュはそう言ったものの、彼自身その機会を作るつもりは毛頭なかった。
だからこそ、ナナリーと交わした約束にルルーシュは内心厄介だなと毒づいた。





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あきゅろす。
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