BL小説「虜」 歌声 静かに紡がれてゆく、優しくも、悲しい旋律。 それは、時に母親を題材にした歌であったり、時に悲恋を綴る恋歌であったり。 短時間で、その者は様々な歌を唄った。 手が届きそうで、届かない距離に居る存在。 今までは、そんな事など無かった。 音を立てれば、たやすく崩れてしまう空間。 理解不能。 また訳の分からない感覚が、アリファエルを支配していった。 サラサラと風に揺れる髪。 それに、触れたい。 そう感じる自分を持て余していた。 幾ら、賢くとも、同年代より、しっかりとしていても、アリファエルはまだ、七歳の子供。 考えられても、理解は出来ない。 もう少し、大人になれば分かるだろう。 今、自分が感じている感覚は、恋の始まりだと。 だが、この時のアリファエルは、その考えに至らない。 突然、自分の中に沸き上がった感覚に、ただ戸惑っていた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |